009
依頼人へ当てられたスポットライトが、グレイの白いローブを微かに照らす。暗闇に包まれた部屋の中。唯一の光は、それだけだった。
「
「ああ。やけに市場を荒らしていると聞いた」
女王の所作は、無駄なく美しい。肘掛けにもたれる様子でさえも、絵になるようだ。
「
この部屋の防音性は高い。だが、どんなに盗聴される危険性が低くとも、決定的なワードが口にされることは無かった。
言葉の鋭さや印象悪、それも在るだろう。だが一番は、狂ったままに歯車を回すこの世界の『当たり前』ゆえ。
――人身売買。
それが、連続誘拐事件及び『雨隠し』に共通する事項。
RAINの“前進”や、Kie shadeの“進歩”の為に。
それぞれの目的の為に行う「仕方ない」ことの正体だ。
「
そして、本日。彼らの単船の動きを確認し、奥さまと面会させて頂いたのがお昼頃になります」
グレイはここで初めて、Kie shadeやRAIN王室の情報を共有された。彼の任務は、あくまでワンシーンでしかなく、全体を統べるのはグレイの役割ではない。
「お前が突然城内に現れるのは、好ましく無いがな」
「奥さまも取引ルート流出を危惧されていたようでしたので」
女王の溢した空気に気付くと、依頼人は咳払いをして手元を操作する。
「おや、溜息ですか? これはこれは、申し訳ありません。少し……、飽きを感じますかね? もう少し魅せましょうか」
すると、スクリーンは見知らぬ城の外観を映し出した。それを背景に、依頼人は城の窓へ向かってゆっくりと手を伸ばす。
「我々は嘆いていたのです。――あぁ! このままでは彼らから、取引に関することや流通経路が公になってしまうかもしれない! そこに紐付く、我らの宝石たちが!」
大袈裟な芝居、悲恋を連想させる演出。観客は二人だけだ。グレイにとっては、よくある光景。
数秒経つと、スクリーン全体にヒビが入り、バラバラと城は崩れていった。依頼人は、しれっと切り替えたように言葉を続ける。
「ま、直接的に
軽く、何でもないように依頼人は言い放った。
――パチン!
彼が指を鳴らすと同時に、グレイへスポットライトが当てられる。
「そこで、私たちは出会ったのです! 丁度良い魔法使いに!」
画面では、グレイの周りに魔法の粉のような煌めきが浮かび、宙を舞う。
「偶然にもその場に居た
捕まった彼は誘拐実行犯であり、取引に関することは無知の……彼のことは、“弟くん
グレイの足元に“A”の形をしたキャラクターが生まれる。もちろん画面の中の話だ。
「
あ、兄弟ではありませんよ!
次々に生まれた“A”と“B”が手を繋いで、くるくるとグレイの周りを回っていた。
「そして、
意気揚々と声を高めた依頼人へ、女王は急かす様に言う。
「この先、演出は入れなくて良い。端的に、
「左様ですか? お望みとあれば、従いましょう!」
映し出されていた背景と、先ほど生まれた“A”と“B”が消え、スライドショーの画面に戻り、男の写真が二枚映し出された。
「問題は、
状況は、既にチェック。コール済みも同然です」
ふと、依頼人が窓の外へ目を向ける。タイミング良く、二羽の
「逃走への牽制も込めて、彼らへ
黙ってその場に立つ白煙の前を横切って、依頼人は仕方ないように笑う。
「ひとつ、船内の証拠押収の際は、
ふたつ、
スクリーンが消え、部屋全体がぼんやりと明るくなっていく。間接照明のゆるやかな灯りが、グレイと依頼人を包んでいた。女王には、暗闇も入り雑じった映像が届いていることだろう。
「溜めたわりには、安定の
「結末は、ハッピーエンドが好ましいのでは? 取引ルートの情報も、要らない駒も、これで奪われません。
「良い。それで進めるように。バッドエンドは求めていない。
……
どちらにも銃口を向けるように、女王が言葉を刺し込む。威圧を込めた詰めを行う彼女に、依頼人は一歩前へ出て答えた。
「ご心配には及びません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます