007
手綱を握る。それは“主導権を握る”や“制御する”という意味だ。今日が初勤務のルークに『先輩の制御を任せたい』という考えは、どんな意図だろうか。
「手綱、ですか? しかし、グレイさんは……先輩ですし、自分は今日配属になったばかりですが」
「僕は、構わないよ」
しれっと『構わない』と答えたグレイに、ルークは困惑する。
(この男は、後輩に手綱を握られたいのか?)
「グレイもこう言ってるし、ね。手綱
追い打ちをかけるように、アレックスは
ルークはグレイを『若々しい先輩』だと思っていたが、同い年であれば疑問は晴れる。ルークは大学卒業後に、警察官の道を選んだが、グレイはきっと高校卒業時点で警察官を
(同い年であれば、まだ対等に話しやすいか)
「じゃあ……、グレイ?」
「うん」
短くもグレイの返答を見たアレックスは、間髪入れずに「よし! これでやっていこう!」と手を叩いて空気を切り替えた。
「さて、君らが捕まえた連続誘拐犯の話をさせてくれ。刑事部より『あまり関わるな』と言われたが、『次がないように情報を共有しろ』とも言われているのでね」
アレックスが空気中に資料を投影しようと、準備を始めた時。ルークの隣に座っていたグレイが立ち上がって言った。
「アル、ごめん。ちょっと席を外す」
「そう? そしたら、先にルークへ説明しておこう。グレイには後で話そうか」
ソファの後ろを回ったグレイは、ルークの後ろ姿を見て思い出したかのように、一度振り向いて立ち止まる。
「あー……。すみませんが、
「いいね。
(さっき、注意された事か)
『ルークを放り出すな』と言われた事に対して、グレイは配慮して発言したのだろう。
アレックスから『ルークに手綱を握って欲しい』と言われるような先輩が、注意を素直に受け取ったことに、ルークは少し驚いた。
「大丈夫、たぶん」
「たぶんって。あのね、結局俺が謝ることになるんだよ!? そこんとこ、ちゃんと理解して!」
こちらを向いたまま、ドアまで歩みを進めたグレイは、背中が当たる一歩手前でもう一度立ち止まった。首元に手を当て、考えたように視線を逸らし、再度アレックスを見る。
「まぁ……、うん。正直、それくらいはお願いしたい」
「まぁ、うん。 もう行け、行ってしまえ!」
追い払うようにアレックスが手を振ると、グレイはドアを開けて部屋を退出した。
☂
六班の部屋を退出し、すぐ横の非常階段。
ザー、と雨が降り続ける中で、グレイはピアスに返答する。
「なんです? 『誰も乗せるな』って、犯人と子供と、仕込まれたGPSか何かのことでしょう?」
ピアスは、グレイ以外には音を届けない。人目に付かないところで返答する必要がある。ここの外階段は、グレイにとって好都合だ。
《正解!
「確実を選びました。刑事部は、あのまま取り逃がしたかったようですし」
《行先を追跡されるのは、ね。子供も助け、犯人も逮捕、そして船まで証拠が揃うんだ。問題ないだろう?》
「さぁ。僕にはわかりませんが」
アレックスやルークと話している途中、《ちょっと良いかい?》とピアスへ連絡が入っていた。
(もし、刑事部までも『船に乗せるな』の対象だとしたら)
グレイは彼らと話している最中も、
外の冷たい空気を感じつつも、周囲を警戒しながら依頼人との会話を続ける。
《郵便屋さんは、どうするんだい?》
「アルが謝りに行きますよ」
《そうか! 君の上司は大変だなぁ》
「それくらいはしてもらっても良いかと」
一定の音をRAINへ落とし続ける大量の雨。灰色の雨雲に包まれた空は、当たり前に夕焼けを隠す。
《それにしても、あの瞬間。手紙が舞ったところ。記録しておけば良かったよ。もう一度くらい見返したい》
(見返す? この眼は、録画やらの機能はないはずだ)
「もう一度しか見返さないなら、録ってもどうせ見ませんよ」
《それもそうか》
いつまでも意味の無いような話をする依頼人に、グレイから質問を振る。
「ところで、ご用件は? 何も無く、話しかけて来ないでしょう」
《それも、そうだね》
(今度は何だ)
そうグレイが思うと同時に、依頼人は言った。
《今夜、時計塔へ来てくれ。報告をして欲しい
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