第5話
「せっかく来てくれたんだ。もてなすよ」
幽霊さんはそう言って社務所のほうに行きます。
「あ、あの。さっき何か言いました?」
「私が? うーん、境内を掃除しながら独り言を言っていたのかもしれないね」
「そうですか」
やはり空耳なのでしょうか。それにしてはやけに鮮明でしたが。
前を歩く幽霊さんに遅れまいとスタスタと追います。幽霊さんは社務所の扉に手をかけガラガラと開けました。中に入りながら私たちは話します。
「あの、どうしてここに。それにその姿……」
幽霊さんは白装束に紫色の袴という格好をしています。
「君の祖父が去年の夏に頼んできたんだ。この神社を頼むって。だから私があとを継いだ」
「新しい宮司は幽霊さんだったんだ」
幽霊さんはカップうどんを棚から出します。「こんなものしかないが、食べるかい?」「えと、いただきます」
幽霊さんはにっこりと笑顔を作ってケトルに水を入れました。私は手持ち無沙汰でソワソワしました。とりあえず幽霊さんを眺めます。改めて見るとやっぱり若々しい。まつ毛、こんなに長かったんだ。
「というか君のほうこそどうしてここに?」
「えっ、あっはい! それは、また幽霊さんに逢いたくて……あとおじいちゃんに
「
幸雄、というとおじいちゃんの名前です。
「おじいちゃんとはどういう関係なんですか?」
「旧友、という表現が一番いいかな。――あいつが私のことを知る最期の人だった。私はついにひとりになってしまったんだな」
「それはどういう……?」
声色や表情から鬱屈としているのが伝わります。
おじいちゃんが言っていたのはこういうことなのでしょうか。私が寄り添うことで彼は安らぐことができるのでしょうか。
好きな人の力になりたい。そんな気持ちで、私は口をついて出ます。
「まあ、ひとりなんかじゃないです。私がいます。幽霊さん、ここの宮司になったんですよね。それならいつでも会えます。だから、何回でも会いに行きます。あ、しつこかったら言ってくださいね。私、人の気持ちとか、特に幽霊さんの気持ちなんてさっぱりわからないので」
幽霊さんと目が合いました。ちょっぴりドキッとします。
「というか、こうして職に就くってことは幽霊さんは本当に幽霊じゃなかったんですね。これから清さんとお呼びしましょうか」
「呼び方なんて何でもいいけど」
「じゃあ清さんって呼びます。清さん、好きです」
「それは……ありがとう」
勢い余って変なことまで言ってしまいました! もうめちゃくちゃ顔が熱いです。
気まずい時間が流れます。清さんを困らせてしまいました。ああもう、少し前の自分を叩いてでも止めたい!
私が猛烈に後悔しているとき、ケトルがカチッと音を立てました。
「お湯、湧いたね」
「あっ、はい。そうですね」
清さんはお湯を入れます。
「これは五分間のやつか。ちょっと時間かかるね」
「そですね。えっと、今更ですがありがとうございます。急に来ちゃったのに」
「いや、構わないよ。ひとりってのは寂しいからなんだかんだ嬉しく思ってる」
「それは、よかったです……」
心が温かくなりました。そんなふうに思ってもらえるのは幸せです。
「これ食べたら帰りますね。親に何も言わずに出て行ってしまったので」
「そうなのか。あんまり心配かけないようにね」
「はい、ごめんなさい。――あの、月に一回くらいの頻度で来てもいいですか?」
清さんの目を見ます。断られたらと思うと不安で堪りませんが、絶対に目を逸らしません。
清さんは口を開きます。
「いつでもおいで」
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