100の恋と一つの答え

@araihuku

第1話

「ねぇあなた、私ってどれくらい恋をしたと思う?」

「え~、どのくらいだろう、、、」

 私の突拍子もない質問にも、夫は真面目に考えてくれる。

そうゆうところが大好きなのだ。

 

 そんな事を私が考えてる内に、夫は指で数えだしてしまった。

 、、、それで数えてたら、いつまでたっても答えは出ないと思うわ。

「正解はね、100回よ」

 私の答えに夫は苦笑を漏らす。

なによ。何回恋したっていいじゃない。

 むくれている私に気づいたのか、夫は「ごめんごめん」と謝る。

 けどすぐにきらきらとした目をこっちに向けてきた。

「じゃあ、君の100回目の恋の相手は僕?」

「いいえ、100回目の恋の相手は、勉強ができてイケメンだった佐々木君よ」

 バッサリと一刀両断すると、目に見えて夫はしょげてしまった。可愛い。


 私は100回恋をした。

 一番最初は小学2年生の頃。クラスで最も足が早かった横田君だった。

 そんな横田君は、引っ越しをしてしまった。

これが記念すべき私の初失恋である。


 2回目は小学4年生のとき。落ちた消しゴムを拾ってくれた山口君だった。

 けど山田君はもう付き合ってる彼女がいた。

可愛くておとなしい、フワフワした女の子。

 子供心に人の彼氏に告白してはいけないと思った私は、静かに失恋した。


 3回目、4回目、5回目と色々な理由で失恋した私は遂に11回目で成就した。

 中学2年生の秋だった。毎日がキラキラしてて幸せだった。

 だけど、中学3年生の夏、「受験勉強に集中したいから」というなんともありきたりな理由で振られてしまった。

 幸せだった分、涙もいつもよりでて、止まらなかった。私のこの恋は、涙で作られた海の底に埋まっていった。


 59回目、初めて同性を好きになった。親友の凛ちゃん。可愛くてかっこいい子。毎日、私達は好きだと言い合った。

 だから、想い合ってると勘違いして、告白して振られた。

 それから私は、親友を作らない。またきっと、恋をしてしまうから。


 74回目、60も年上の人を好きになった。皆からは反対されたけど、この人が唯一だと疑わなかった。けど、私達の恋を証明する前に、いなくなってしまった。

 私には多額の遺産だけが残された。

 こんなもの、欲しくはなかった。


 何十回、何百回、何度でも私は恋をするだろう。

 まだ私は満たされていないから。

 私の家は、随分複雑だった。母親は私を生んだあと蒸発。父は母に似てるわけでもない私には見向きもせず、仕事ばかりし、家には帰ってこない。

 けど私は二人のことが好きだった。だから、二人がいつ帰って来てもすぐお出迎えできるように、玄関のドアの前にいつもいた。


 満たされない私は、100回恋して、全部だめだったら死んでしまおうと思っていた。


 そして、全部駄目だった。


 100回目の恋は、佐々木君の

「キモい。これ以上話しかけて来ないでブス」

この一言で呆気なく終わった。

 

 喪失感だけが胸に広がる。もう埋められない何かを感じながら私は玄関のドアの前にいた。

 「うぐぅっ、ふぐ、、、」

 涙は止めどなく溢れて、今までの恋がフラッシュバックする。


 その瞬間、ドアが開いた。

「どうしたの!?大丈夫?」

それは幼馴染のレンだった。

 そういえば、いつもこのドアを開けてくれるのはレンだった。失恋した私を慰めてくれるのも、いつも彼だった。

 心に温かい何かが生まれる。いや、きっとそれは気づかなかっただけで、ずっと心の中にあったんだろう。

「レン、私の事どう思ってる?」

「え、なに急に、、、」

戸惑いながらもレンは答えを考えてくれる。

「えっとね、愛おしいと思ってるよ」

 心がフワフワしてむぎゅぅとしたもので急速に埋まっていく。

 あぁ、私は、これが欲しかったんだ。

「私も、レンの事愛おしいと思うわ」



「ね、結局僕は何番なの?」

そう問いかけてくる夫に私は優しい笑みを返す。

「あなたは100番のどこにも入ってないわ」

「えっ」

 だってレンは、私が見つけた一つだけの『愛』だから。

 私は愛が欲しくて100の恋をした。

でもそれじゃあ私の心は満たされなかった。

 でもあなたは愛で埋めてくれた。

「愛してるわ」

 夫は一瞬キョトンとした顔をしたあと、ふっと優しい顔になった。

「僕も、愛してる」

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