掌編小説・『冬至』

夢美瑠瑠

掌編小説・『冬至』

(これは、今日の12月22日にアメブロに投稿したものです)



掌編小説・『冬至』


 「冬至」のことは、四字熟語で「一陽来復」とも言う。

 これは面白い熟語というか、違った用法が三通りある。


 ①日が短い極に達して、また冬至から長くなっていくこと。

 ②その日。つまり冬至その日。

 ③物事がいったん悪い極になって、それからだんだん回復していくこと。


 解釈の文章は適当だが、大体この3つの意味がある。

 こういう複数の意味の入り混じった、ポエティックな言葉が、シンプルにコンパクトにまとめられているところが、漢字や日本語の妙味だと思う。

 僕は四字熟語が好きで、なぜと言って理由はあるといえばいろいろありますが、例えばオンナの人が好きというのに合理的な理由が無いのと同じで?ただもうなんとなく好きなのです。いろいろな四字熟語が並んでいるのを見ているだけで嬉しくなる。乃木坂?とかそういうグループの可愛い女の子がたくさん並んでいるのを見ているような感じに近いW

 好きだから覚えるのも書くのも読むのも得意で、前にTwitterというのを熱心にやっていた時は、「四字熟語だけで140文字を埋める遊び」を一人でやっていた。だから合計で35通りの四字熟語をツイートの欄に即興で並べるのだが、ただ脈絡なしだとつまらないので、しりとりにしたり、数字が入っている四字熟語に限定してみたりして、そう時間をかけずに「作品」を作るのです。そうして、みなが驚いたり褒めてくれたりするので悦に入って?いたりした。「#玄関に飾れるツイート」とかタグをつけて称揚してくれることもあった。

 「森羅万象とか山紫水明とか、欣喜雀躍とか、春風駘蕩とか千紫万紅、明鏡止水、そういう比喩的なそれ自体ポエムになっている四字熟語が好きでフェチ」とかつぶやくと、「典型的な中二病ですね~」とか書き込まれたりしたこともあった。

 「小説家になろう」というサイトにも前は登録していて、熱心なファンの人がいてくれたりしたが、そのファンの一人の人が、僕の漢字だらけの小説を、「勉強になる」、「素晴らしい文章!」等、絶賛してくれるのですが、その人がある時に「四字熟語の勉強」と称して、たくさんの四字熟語を書き並べた小説?を発表していたことがあった。と、そこには、あろうことか、それがまあ、見たことも聞いたこともない四字熟語ばかりが(字はもちろん全部知っている字なのですが)無数に並べられていたのです。どこで調べられたのかは不詳だったが、そういう未知の四字熟語がたくさん存在するというのも驚きだったし、「まだまだ漢字は奥が深いなあ」とカンジいった。今思うとプリントアウトして保存しておけばよかったと後悔します…

 

 チョムスキーという言語学者がいて、「生成文法理論」というのを提唱していた。

 そう詳しくはないが、これは要するに人間の脳には言語や文法というもののひな形のようなものがアプリオリに存在していて、成長や発達と共にそれが解発されていく…それだからつまり言語というのはホモサピエンス一般において宿命的に生成する必要不可欠で中心的なもの、そういう言語礼賛の発想だったと思う。

 そういう発想を敷衍すると、漢字民族である中国人や日本人には先天的、あるいは後天的な獲得形質としてでもいいのかもしれないが、漢字を学んで使いこなす、そういう「生成漢字能力」が備わっているのではないか?そうして僕などは漢字が好きで堪能なので、日本人の中の日本人?骨の髄まで日本人?そういうDNAを受け継いでいるのかもしれない…だとしたらそれは得難い恩寵だなあ?そういう風に思うのです。

 

 先ごろ亡くなった中井久夫という精神医学者の先生のエッセーは非常に示唆に富んだおもしろいもので、長く愛読していましたが、その中に「言語の複雑性は文化的な侵略に対して対抗的に有効に機能する」とかそういう言辞があった。だから漢字が複雑なパターンをなしていることは、一見無意味なようだが、日本の文化のオリジナリティとか独自の個性的な発展を遂げていく上で有意義な言語的特性だったのかもしれない。千変万化で複雑精妙な漢字があってこそ、日本文化の唯一無二のオリジナリティも保たれて来たのかもしれない。


 サルトルが来日した時に日本語の文字を見て、「これこそが文字だ!」と述べたと聞いたが、確かに欧米のアルファベットはなんだか便宜的でそっけないと言えばそうで、日本語の文字には確かに「言霊」が宿っているという、そういう魂魄の気合?を感じる。

 「言霊の咲きほう国」という日本国の美称も、だから全然伊達や酔狂ではないのだと思う。

 日本愛がすなわち漢字愛に通じる…古くて新しい日本文化の神髄、本質が如実に表れているのが漢字なのだ。…


 「一陽来復」という言葉から連想が広がって、私はそんな想念に耽っていた。…


<了>

  

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