12月25日

 ついに、決行の時が来た。今日の朝はいつもより目覚めるのが早かった。


 駅に着くと、前に自分のことをキモイとか言ったギャルギャルしい女子高生2人組を見た。しかし、隣を通りすぎても何も言われなかった。そりゃそうだ、ただただキモイ奴なんて、覚えているはずもない。


 ホームに繋がる階段を生きているという感触を1歩1歩確かめるように、ゆっくりと降りていく。屋根に取り付けられていたはずの古い蛍光灯は、いつの間にか取り外されていた。


 昨日の夜は焼肉をたらふく食べて食欲が無くなっていたので、朝ごはんは食べなかった。食欲が無くなるまで焼肉食べたのは何年ぶりだろうか。いや、もしかしたら初めてかもしれない。


 今までは生活面を気にして、外食なんてほぼしていなかった。ああ、でも、大学生になって1回だけ、蘭海と一緒にモグドナルドに入ったことはある。あの時彼女と一緒に食べたハンバーガーは美味しかった。


 迷は過去に思いを馳せながら、ただただ電車が来るのを待つ。


 周りの人はまさかこいつが今から自殺するなんて思いやしないだろう。しかも自殺する理由が、「初恋の人に心中するよう頼まれたから」なんて。笑えてくる。


 正直言って、なんでこの話を受けたのかは分からない。


 最愛の人が言うことだから?今の生活がつまらないから?退屈だから?自分の存在はキモイから?


 まぁ、全部だろう。


『まもなく、2番線に、電車が参ります。黄色い線の内側に下がって、お待ちください』


 不思議と、恐怖は感じなかった。彼女と一緒に死ねるなら、最愛の人と共に死ねるなら、悪くない。


 電車が、駅のホームに入ってくる。


 自分はゆっくりと、1歩を踏み出す。


 電車の警笛が、ホームに響き渡る。


 1歩、1歩と踏み出す。


 誰かが声をあげた。


 警笛が、どんどん近づいてくる。


 ついに、最後の1歩を踏み出した。


 体が一瞬、浮遊感に襲われる。


 視界が光に包まれる。


 静かに目を閉じる。


 そして、ドン、という衝撃と共に、俺の意識は深淵へと呑み込まれていった。


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