12月23日
クソみたいな夢を見た翌日。朝ごはんをとっていた迷は、自身のスマホに着信が入っていることに気がついた。誰からだろうか。
スマホを取り、耳に当てる。すると、信じられない声が聞こえてきた。
『……迷、くん?』
「その声、まさか
『……うん』
「っ……!どうして、どうして今まで連絡くれなかったんだよ!?」
思わず、怒鳴ってしまっていた。そう、この電話をかけている彼女──
『ごめん、ちょっといろいろ、あって……』
思わず怒鳴ってしまったからか、彼女の声が怯えたものになる。
「ごめん、取り乱した……」
『……うん』
少し深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「……元気?」
落ち着かせた結果、第一声がそれだった。
『この声聞いて……元気だと思う?』
「……ごめん」
最初から、空気を悪くしてしまった。もうこれ以上変に世間話をしようとしても、逆効果だと思った迷は、単刀直入に、自身の疑問を口にすることにした。
「でも、なんで。最後にあった時は、すごい元気だったじゃん」
『……』
俺が聞くと、彼女は黙ってしまった。
「何か、あったの?」
『………うん』
だが、彼女はそれだけで、再び黙り込んでしまう。
「話してみて、くれない?俺だったら、なにか力に……なれるかもしれない」
『っ……!う、うう……』
できるだけ優しい声音で話しかけると、彼女は今度は急に泣き出してしまった。
「え、ちょ……ええ……?」
この様子からして、なにか只事では無いことが彼女の身に起こっているのだと迷は悟った。どうして良いか分からず、泣き止むまで待つことしかできないと思った。そこから、話を聞こう。
しばらく待っている間、彼はボーッとしながら窓の外を流れる雲を眺めていた。
蘭海、いつ泣き止むのかな……。
●
「っ……!」
俺はガバッと顔を上げた。まずい、寝落ちした。朝食に顔面だいぶしていたようで、パンに塗っていたバターが顔面にところどころ付いてしまっていた。
慌ててスマホを見ると、通話画面はではなく、真っ黒の画面がそこにはあった。液晶に映る自分の顔が、なんだか情けなく見えてきた。
迷は改めて電話をかけ直した。さすがに寝落ちしたこと、怒ってるよな。謝らなければ。
だが、何コールしても、電話に出る様子は無い。
『おかけになった電話は、電波が届かないところにあるか、電源が切れているため……』
「だめ、か」
やはり、怒らせてしまったようだ。しかし、彼女を怒らせてしまったかもしれないという恐れより、寝落ちなんてしてしまった自分に対する呆れと怒りが込み上げてきた。
迷は朝ごはんを怒り任せに口に掻き込み、ついでに先日家で見つけたチョコもデザートとして口に放り込んだ。
だが、一気に食べたからだろうか。その5分後、猛烈な吐き気に襲われ、トイレで吐いてしまった。胃酸特有の変な味が口の中にじんわりと広がる。
「くそ……」
朝から気分が、最悪だ。今日はこのまま寝よう。
────────────────────
その夜。スマホに着信が入った。着信元は「非通知」。
電話に出ると、それは、蘭海からだった。
「蘭海!ごめん、朝は……」
『……ねぇ、迷くん。私もう無理……!助けて』
迷の謝罪を遮るように、蘭海は悲痛な声を上げた。
『私……ずっと小さい頃から、親に、虐待されてて……ずっと痛くて……暗いところでひとりぼっちにされて……』
まくし立てるように、蘭海は言葉を発した。
「だ、大丈夫、大丈夫だから。一旦落ち着いて、ね?何があったの?」
『助けて、迷くん、お願い助けて!』
随分とパニック状態になっているみたいだ。かなり大きい声で話すので、思わずスマホから耳を遠ざけてしまった。
何とか落ち着かせようと、先程のように優しい声音で呼び掛ける。
「大丈夫、大丈夫だ。俺が蘭海を助けるから」
『………ほんと?』
「ああ、ほんとだ。だから、今どこにいるか教えて欲しい。迎えに行くから」
ほとんどでまかせに近い言葉である。迷は彼女を落ち着かせるために、思いついた言葉をそのまま口にしていた。
『………』
「………蘭海?」
『迎えには、こないでいいよ』
しかし彼女は落ち着いたのか、感情の籠っていない、無機質な声で迷の耳元で喋る。
「え、でも……」
『その代わり、私のお願い、聞いて欲しいの』
何が何だか、よく分からない。が、しかし、彼女が迎えに来なくていいと言っているのなら、そうした方が良いのだろう。
「わかった……いいよ。何して欲しいの?」
そして次の瞬間、蘭海から放たれた衝撃の一言に俺は言葉を失ってしまった。
『一緒に、心中……しよ?』
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