証言23 俺が弾薬工場に送られた理由(証言者:GOU)

 ここからは、俺が説明しよう。

 デイビー・クロケットとは……移動用の戦術核兵器だ。

 本来、車載か三脚を設置して使用する兵器だったが、パワードスーツの発明・進歩により、歩兵でも個人携行して使えるようになった。

「何だ、核兵器ってんなら、ますますイイじゃねえか!」

 些か乱暴ではあるが、今の状況ならKAZUカズの言う通りだ。

 無論、このゲームにおける放射能汚染や被爆もまた、現実のそれに準拠した影響を及ぼす。

 このゲームのリスペクト元と言われている、フォールアウトなるゲームシリーズがあった。ゲームがまだ、テレビで動いていたような大昔の作品だ。

 このフォールアウトのシリーズでは、被爆しても町医者の注射一本で治癒してしまうが、それは風刺とブラックジョークを含んだ作品だったからだ。

 このカレント・アポカリプスのテーマとして、核や放射能の存在はそれほど重要視されていない。

 だからこそ滅多に出てこないし、フェイタル・クエストでの“世界滅亡”のトリガーとして用いられている筈だ。

 或いは、仮にプレイヤー側が勝利した後も、おいそれとこの弾薬工場を使えないようにする=伝説の武器の価値を下げない為の措置も兼ねているのかも知れない。

 ……そうなると、この核砲弾を使わざるを得ないような敵キャラクターが、ラスボスとして控えている可能性は高い。

 ただ。

 俺は、HARUTOハルトに教えられていたを探した。

 ……あった。

 俺は、コンクリートと鉄骨に覆われた空を、思わず仰いでしまった。

 HARUTOハルトよ、だから俺をここに寄越したんだな?

 俺が見つけたのは、核でも何でもない、単なるミサイルランチャーだ。

 ただ、その銃口とも言うべき場所には、四角い箱状のパーツが付いていた。

 ……飛翔体変換モジュール。言うなれば、発射する弾丸を取り替える為のパーツだった。

 俺は、もう少し詳しくパーツを調べた。

 特に、ランチャー本体との接続部分を、だ。

 ……互換性がある。

 勿論、デイビー・クロケットと、だ。

 HARUTOハルトは、明言こそしなかったものの、俺に対して、現地調達でと言っていた。

 そしてとも。

 この工場の状況を見れば、デイビー・クロケットと飛翔体変換モジュールをくっ付けろと言っているのは火を見るより明らかだ。

 核砲弾に弾丸を変更するパーツを付ける、と言う事は、核以外の物を発射する仕様に変えると言う意味ではないのか? と思われるかも知れない。

 寧ろ逆だ。

 このモジュールは、事もあろうに、始めに発射された飛翔体が空中で複数の弾丸をばら撒く。

 

 を作れと、あの男は俺に言っているのだ。

 

 使えたものでは無いのは、容易に想像出来るだろう。

 弾が小型化されているとは言え、この仕様では一度に6発もの核爆弾が、その地点で爆発する事になる。

 そんな事をして何になるのか。

 確かにラスボスは確実に始末出来るだろうが、俺達も、他の全プレイヤーが、マウスタウンもろとも消し飛ぶ事になる。

 俺達は生き返るかも知れないが、甚大な放射能汚染によって、この地域はもう使えなくなる。

 彼は、俺が断るとは考えなかったのだろうか?

 考えては居ないのだろう。

 そして……俺は彼に従う気になっていた。

 ーー工場で何を見たとしても、信じてくれ。

 彼は俺に、そうも言っていた。

 だが、理由はそれだけではない。

 俺自身が、見届けたがっていた。

 恐らく、クエストクリアよりも更に先を見ている、彼の思惑を。

「……カルマは、アタシが引き受けるよ」

 LUNAルナが、俺に言った。

「あいつが考え、アンタが具現化し、アタシが撃つ。だから……作って。そのアルティメット・ウエポンを」

 恐らく。

 邪推だが、LUNAルナには「信じてくれ」とも言っていないのだろう。

 共に戦った時間の長さか、それとも。

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