証言22 弾薬工場探索(証言者:KAZU)
ハンバーガーレストランの厨房に、地下へと続く通路があった。
どいつもこいつも現金というか何というか、ボス敵もいないのにソッコー制圧されたようだ。
まだ真新しいヴァルハラ・クルセイダーズ(WC)の死体が散らばるのを横目に、おれたちは余裕で工場に入った。
一口に弾薬工場と言っても、いまいちピンと来なかったが……なるほど、こういう感じか。
工場は完全自動化されてて、作業員はいなかった。
まず真鍮からケースを成型。
ほどほど熱してから冷やす……“焼きなまし”って作業があって。
洗浄、研磨、塗装、火薬の装填、圧着。
防水加工をやったあと、お馴染みの弾丸の形をしたものがコンベアで流され、スキャンされてるな。
合格のものはそのまま終点まで流され、不良品だと判定されたであろうものは、バラバラ廃棄スペースに落とされてってる。
ここでNPCどもが収穫して、WCの資金調達班みたいなのが勿体ぶりながら流通させくさったものが、おれたちが今まで使っていた“伝説の弾”ってわけだ。
その、本来なら出荷作業がされているはずの所で、ヒャッハーどもが弾を喜び勇んであさってやがる。
下手すれば、廃棄コースのやつまで持っていく勢いだ。
卑しいな。おれは絶対にそんなことしないぞ。
いつも弾をケチってるって思われてるかもしれないが、おれは倹約家なのであって強欲ではないんだ。
今の製造ライン、見たろ?
他のゲームじゃバンバン気楽に撃たれてる弾の一発一発、こんな手間隙かけて作られてる。
おれが思い描いていた通りだぜ。本当だぜ。
しかも、これが国によっては人間の手作業で行われてるんだからな。
さて。
おれたちも、必要最低限の弾はいただくつもりだが……ここに来たのには別の目的があった。
「このロゴは……住友重機械工業! あっちのラインは、ミネベアか! これは、まさか……」
「このテーマパークと弾薬メーカーは、ある“組織”のもとで結託し、弾薬を密造していたのか……!」
な、なに!? マジか!
確かに、ここの製造機械が動かぬ証拠だな!
「……夢を壊して悪いが……このゲームのオープンワールドを生成したAIが、マウスタウンの地下に弾薬工場を作る必要に迫られた結果、現実の住友やミネベアの工場を参照してマップを自動生成しただけだろう」
そ、そうだよな! 影の“組織”だなんて、そんな今時中学生じゃないんだから……。
「そう……なんだ……」
何を残念がってるんだよ。
そんなヤバい組織なんて実在しない方が平和だろうに。
こいつもやっぱり、変なやつだな。
まあ、ゲームのオープンワールドってのはほとんどが
地球と等倍の世界を、人間の手でチマチマ作ってなんていられない。
細部は全てAI任せだ。
そう言えば、このマウスタウンの元となったテーマパークが、著作権侵害か何かでゲームメーカーを訴えてたっけな。
このゲームみたいに、地球をモデルにしている場合、AIが現実のそれをトレースしちまうので、ここのマスコットキャラや、それが登場するあらゆる印刷物も忖度無しに描いちまう。
ってか、ここまで見てきたように、アトラクションも全部……テーマパークが丸ごとVR化されちまってるので、まあ、それで食ってた業界がキレるのも無理はない。
だがその裁判、聞いて驚くな? ゲームメーカー側が勝ったんだよ。
これもまあ、忖度ってやつかもな。
VRゲームが無いと、今の世の中自体が成り立たんわけだから。
ただ、一応、何らかの著作物にひっかかる場合、ボカしたりずらしたり、オブラートに包んだりって対応をAIに学習させるように、との命令は下って、実際そうなりつつある。
おれたちのーー
ああ、いかにも何かの格納庫っぽい、途方もなく分厚い扉がおれたちちっぽけな人間を見下ろしてるな。
先客のヒャッハーどもが、あの手この手で扉をぶっ壊そうとしてるけど、頭悪いな。
あの質量見ろよ、質量。
もう少しオツムがマシな奴は、壁に設置された端末みたいなのをいじくって、四苦八苦している。
どうやら、開かずの間、ってとこらしいな。
「ちょっと代わってくれ」
「パスワード、わかんないんだよ。アンタ、わかるか?」
どこぞのヒャッハーは、パスワード認証画面と戦っていた。
「やってみるよ」
で、なんか、OSの根っこをいじってますよって言わんばかりの、いかにもなコマンドモードを立ち上げて、カチャカチャやり出す。
わけわからん英文が、すげー勢いで下から上へ流れていく。
そして。
【パスワードを入力してください】
**********
がごん! と、扉の内側からなんか、重苦しい音と振動がした。
で、仰々しい駆動音をさせながら、扉がふすまみたいにゆっくり開いた。
「おおお! すげー! すげーよ、アンタ!」
これを開けようと苦戦していたヒャッハーどもが、
おれも正直、驚いた。
「お前、ハッキングもできたのか!」
だが、奴は、誉めてやったのに煮え切らない顔で、おれに耳打ち。
「いや、
……そう、なのか?
てことは、
おれが右腕と見込んだだけはあるぜ。
なぜだか、浮かない顔の二人は、しかし、他ヒャッハーどもの後を追うように格納庫へ歩いていく。
そして。
そこもまた、全自動製造ラインだった。
ただ、ちょっと弾薬作ってた上の階とは毛色が違う。
どうも“ガワ”のほうも作ってるっぽい。
それも、銃って言うよりは、これは。
ロケットランチャーだとか、ミサイルだとか、その手のあれだ。
なるほど、なるほど。
奴は、この超レア武器の場所をかぎあててたってわけだな!
さすがはおれの右腕!
すげーすげー、これはテンション上がるわ!
……と、思いきや、
デイビー・クロケット。
そんな事をぼそりと言った。
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