証言21 ステルス共闘ごっこ(証言者:JUN)

 皮肉なことに、戦前同様、アトラクションの前には長蛇の列ができている。

 ひとつあたりの施設が収容できる人数には限りがあるからだ。

 戦前と違うのは、その列に敵が襲撃してくる可能性がある事くらいかな?

 他の一族もそうだろうけど、僕らは何も、仲良しこよしで旅行に来たわけではない。

 5人全員で固まっていてもムダが出るので、僕らは二手に別れていた。

 僕は今、HARUTOハルトと組んで、アストロブラスターの列に並んでいる。

 残りの三人は別行動。

 意味があってこの編成にしたらしいけど、僕個人としては気楽で助かる。

 みんなの事が嫌いなわけではないけど、サシでいて楽なのは、この男だけだから。

 きっと、他のみんなも、この男がいなければ一族としてつるんで無いと思う。

 別に、率先してみんなを引っ張ってるつもりは無さそうだし、人を心酔させる魅力があるわけでもない。

 ただ本人は、その時々でやるべき事をやっているだけなのだろう。

 たまーにいるんだよね。そう言う、変に欲もやる気も無いけど、淡々と真面目にやってたら、自然に主導権与えられているタイプ。

 そんな事を考えていたら、僕らの番がきた。

 アトラクションが存続してるってことは、ボスはまだ殺られていないみたいだね。

 建物の中から、阿鼻叫喚の断末魔と断続的な銃声が漏れ聞こえている。

 

 このアトラクションは、元々はライドに乗って光線銃型のリモコンを撃って立体映像の敵を倒すものだった。

 血染めのライドが死屍累々の有り様で帰還した。先客の残骸をさっさとどかして、次のロットのヒトたちが乗り込んでいく。

 ……僕らが乗り込むと、光線銃のあるべき所にはリボルバーマグナム・コルトパイソンが置かれていた。

 例によって弾無制限。

 誰も持ち去らないってことは、外に出したら消えたりするんだろうね。デウス・エクス・マキナ。

 ライドが動き出した。

 僕は自作の“ジュントス”と言う、ソフトキャンディみたいな薬を頬張った。

 甘ったるいアップル味。言われなければ、そう言うお菓子だとしか思えない。

 多少頭が冴える程度で、効果が低い分、副作用もソフトなものだ。

「……何挺使う?」

 隣の彼が、そんな事を聞いてきた。

「君の分まで取らないよ」

 ナチュラルに二挺拳銃を前提とした話をしないでいただきたい。

 僕は何の強化調整チューンもされていない、非戦闘員なんだよ。

「……了解した」

 そんなわけで、僕は普通に一つだけ、光線銃(実弾)を取る。彼は自前のデザートイーグルとコルトパイソンを両手に持った。マグナム二刀流とか、頭おかしいよこのヒト。

 さて。

 頭上に、ジップラインみたいなものが付け足されているね。

 ああ、やっぱり、上下白一色のオブスファッションなWCの木偶が滑りながら襲来してきたわね。

 たちまち、客席全体からコルトパイソンの火線が乱れ飛び出したわ。

 HARUTOハルトの左右の手は、まるでそれぞれが独立した別人格のように、木偶を撃ち落としていく。

 アタシも、きっちり正しいフォームでコルトパイソンを構えてバンバンバンバンバンバンバンバン。

 弾数無制限のイイところは、物資としての弾薬を消費しないコトもそうなんだけど、再装填リロードがいらないから立て続けに撃ってられるコトでもあるの。

 眼前の立体映像では、シューティングゲームを兼ねたアニメーションが展開されている。

 悪の親玉のキャラクターが出てきて、持ってる銃を発射したわ。

 現実に、フルオートの弾丸が雨あられとライドを襲う。アニメに連動した無人機銃が設置されてるみたい。アタシらは、姿勢を低くしてこれをやり過ごしたの。

 この手の、ライド系のアトラクションってば、殺り合うのにかなり不利よねぇ。

 乗り物に固定されて、逃げ場がない。

 へたすりゃ、被弾するかどうかなんて運次第だわ。

 アトラクションで殺り合う機会なんて、人生でそう無いかもしれないけどさっ。

 ーー流れ弾が、アタシのこめかみを強烈に打った。

 いったぁーい! 血が出たじゃない!

 頭蓋骨で弾丸が逸れて、大事には至らなかったけど。

 ヘッドショットって、当たった角度次第じゃ案外こういうケースもあるのよ。今のは運が悪かったのか、良かったのか。

 それで、ボスと思われる木偶だろうか? 両手にマチェットみたいな鉈を持った、大柄なオトコが先頭のライドに飛び移ってきたわ。

 わーわー、乗客全体がにわかに恐慌に取りつかれた。

 ボスのオトコは、ライドに固定されて逃げられない連中を容赦なく斬り殺していくわ。

 アタシたちは比較的後ろの席を取れてよかったわぁ。前列の連中はぶっちゃけ養分よね。

 で、アタシらより後ろは後ろで、何か騒がしくなっている。

 もう一人、ライドの上を飛び移る野蛮なヒトがいるみたい。

 ボスの新手かしら? と思って見てみたら。

「あーら……あれってINAイナじゃない?」

 HARUTOハルトが、アタシに倣ってそちらをみた。

 チェーンをジャラジャラ鳴らしたINAイナが、ライドからライドへ次々に飛び移り、ボスへと向かっているようね。

 その起源は、源義経の八艘はっそう飛びにあると言うわね(嘘)

 アタシらの上も飛び越し、ついにボスへチェーンを振りかざした。チェーンが鉈で弾かれるのにも臆さず、手首をスナップさせて執拗にボスを打とうとする。

 ボスが宙を舞い、後部座席に飛び移ると、カノジョもそれを追って跳躍。

 アタシらを殺す気満々・血眼になって追ってるであろう、ユニーク・スキル持ちの無双ちゃんが、頭上を跳び跳ねてるこの状況。

 めちゃくちゃスリリングね。

 いつ見つかってしまうか……怖いわぁ。

「さて、どっちを始末しようか? 目先のNPCボスか、後々の禍根か」

 アタシはイジワルに質問したわ。

 すると彼は、

「……INAイナを隠れて援護する。目算、ユニーク・スキル持ちは彼女しか居ない。ここで彼女を欠いては、今回も全滅しかねない」

 ピンポーン、よくできました。

 アタシ達、心が通じ合ってるわね。

 それに。

 憎んでやまない相手から実は手助けされ、生かされていた。それに気づきさえしない、ミジメな女の子🖤

 うーん、愉悦ユ・エ・ツねっ!

 伏せていたアタシとHARUTOハルトが飛び起きて、コルトパイソンを撃つ撃つ撃ちまくる。

 乱れ飛ぶ火花、無数の金属音。

 ……ワオ、銃弾が全部鉈で弾かれてるわ。

 もうこのゲーム、ムチャクチャね。

 ケド。

 を相手にしてる時に、そんなコトしてる場合かしら?

 アタシたちの弾を弾いているボスへ、INAイナのチェーンが襲いかかりーー、


《無限の彼方へ、さあ行くぞ!》

 

 宇宙服を着たオモチャ仕掛けのヒーローが、お決まりの台詞を放った瞬間。

 にわかにキョドった様子のINAイナがライドから足を踏み外して転落。

 えええ!? ナニやってんのよ!

 アニメキャラが、いつもの台詞をキメただけだよね!?

 どこにそんな、動揺する要素があった!?

 もうっ! アタシ達の援護もムダだったじゃない。

 ……なーんてコト思ってたら。

 別のライドから、また誰かが飛び起きて、コルトパイソンではない……ポンプアクションのショットガンをぶっぱなしたの。

 さすがに散弾はさばき切れなかったか、ボスは直撃を受けて大きく巨体を揺るがせた。

 でも、それだけだったわ。

 純白の服に、血がちょっと滲んだだけ。

 ホント……アトラクションの座席に固定された状態でコレに勝てって、クエストクリアさせる気ないんじゃない?

 でもでも、更に。

 今度はボスの背後の座席から、パワードスーツの男が出てきて、その脚をがっちり掴んだわ!

 あのコ達、もしかしなくてもINAイナの手下だったオトコたちじゃない?

 ……なーるほど。仲間内で一ヶ所に固まっていたアタシらのやり方とは逆に、仲間をバラバラの座席に配置して連携していたのか。

INAイナ! 使座席に戻って来い!」

 ミスター・パワードスーツが叫んだ直後、INAイナのチェーンがボスの首に絡み付いた。

 ボスはそのまま前のめりに引き倒されるけど、ミスター・パワードスーツはなおも脚を掴んで離さない。

 そのチェーンを頼りに彼女はライドを追いかけ、ミスター・パワードスーツが差しのべた手に掴まって、助けあげられた。

 ああん、ステキ! 映画のクライマックスシーンのようだわ!

 さすがの強化人間NPCも、乗り物の力で首を絞められてはたまらず、昇天しちゃったようね。

 アストロブラスター、制覇!

 ふぅー熱い熱い。

 やっぱ、クスリは程々にしておくのがいいね。

 今回、極めて冷静だったでしょ? 僕。

 そして。

「ちょっとオトナになったんじゃない? 彼女」

 これが率直な感想かな。

 隣の彼に小声でささやいたら、

「……そのようだな」

 まあ、他人事の口振りで返されたね。

 でもさー。

 どっか新しい場所で自分のコト知らないオトコ達引っかけてゼロからやり直した方が、効率よかったんじゃなぁい? とも思うけどね。

 何も好感度マイナスの連中を無理に使い続けなくたってさ。

 ま、僕にはわからないし、わかる気もないケド?

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