証言20 HARUTOと……クエストも追って(証言者:鞭の天才INA)

 HARUTOハルトに逃げられ、殺されたバズとSMスタンダードモヒカンが復活した直後のあの時、あたしは判断した。

 マウスタウンに行く。

 急な事態だったし、最低限の支度をしていたら、奴らが逃げてから五時間の差が出てしまった。

 こちらが不休で進んだとしても、追い付ける可能性は低い。

 また、こんなゲームであってもフェイタル・クエスト発令下で人を襲えば、他プレイヤーを刺激してしまうだろう。

 道中での交戦はすっぱり諦め、  ーー追い付いたとして、それからどうするの?

 サービスエリアなり道の駅なりでコンディションをベストな状態にした上で、現地であの男を狙う。

 乱戦状態であれば、一人くらい間違えて殺しても、見咎められないだろう。 ーー殺して、どうする?

 それに、フェイタル・クエストについても、あたしにとっては死活問題だ。 ーー普通、私怨よりそっちが先じゃないの?

 ……煩い、黙れ。

 ……それを口にしそうになって、慌てて堪えた。

 仲間の男どもを、またビビらせてしまうだけだ。

 冷静になろう。

 どうせ千葉までは遠いし、その間に気持ちを切り替えられる筈だ。

 

 現地についた。

 あたしは仲間のバズを見た。

「む、無限のーー」

 ーー無限の彼方へさあ行くぞ、って言ってみてくれない?

「えっ」

 “バズ”の表情と声に緊張が走った。

 あたしは、漏れた本音を辛うじて呑み込んだ。

 この人、よりにもよって、声質も所ジョージみたいなんだよ……。

「な、なんでもない、独り言……」

「あっ、はい……?」

 がっしりとした顔の輪郭と言い、髪が邪魔にならないように装備している頭巾と言い……。

 パワードスーツのデザインも、色こそは白と黒のカラーリングなのだけど、形状があちこち似ている。

 それは常々気になってたんだけど、よりにもよって、どうしてフェイタル・クエストの場所がここなの……。

 こんなの、意識せずにいろと言う方が無理だよ。

 と、とにかく、このクエストの勝利条件は、各アトラクションに居るネームドボスを全て殺した上、出現した“ラスボス”を誰かが始末する事だ。

 ここの敵性NPCからは、既にリスポーン属性も外れているので、残党の掃除もついでにする事になるだろう。

 タイムリミットは、核が発射される11月2日まで。

 今日は10月27日だから、それほど時間が無い。

 ボスを殺す。

 言い換えれば、単純な個人戦力が物を言う暗殺だ。

 他の誰かが殺ってくれれば越した事は無いが、それを言ったら誰もやらなくなる。

 あたし向きのクエストだと思っておくべきだろう。

 ……それには、なるべくボスに専念出来るお膳立てが要る。

 “仲間”の連携が必要だと、最近ようやく素直に思えるようになりつつある。

 あたしに、出来るかどうか。

 なお、HARUTOハルトと仲間になる気は絶対に無い。あの男は殺す。

 あたしは、改めて“バズ”を見る。

 ……いや、ここからはちゃんと名前を呼ぼう。

 後れ馳せながら、彼らの会話を聞いて覚えた。

RYOリョウ盾役タンクを頼みたい」

「……えっ」

 彼は、信じられないものを見た面持ちで、あたしを見た。

 初めて、呼んだから。

 バズじゃなくて、RYOリョウ

 モスじゃなくて、KENケン

 SMじゃなくて、TOMOトモ

 色々と、今更、調子が良いと思われるかも知れない。虫も良すぎる。

 あたしはよごれだ。

 JUNジュンの宣った例の長口上でキレたのは、悉くが図星だったからだ。

 このままじゃ、いけない。

 

 感傷的な話は、これで終わり。

 問題は、どのアトラクションを攻めるか。それに専念だ。

 そう思って、手近なスポットを探したら。

 ……アストロブラスター。

 あたしは改めて、傍らのパワードスーツ男を見た。

「あそこを攻めよう」

 だ、ダメだ、少し、声が震えてしまった。

 無表情を装うのがかなりキツい。プルプル小刻みに震えてしまう。

「あ、ああ……了解した。……???」(CV:所ジョージ)

 ゆるみそうな唇を、力一杯引き締めて耐えるしかない。

 やっぱり、彼だけはRYOリョウと呼び続けるのが難しいかも知れない。

 神様、どうしてあたしを、この男と引き合わせたの。

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