証言18 モノレールから全体を俯瞰した所感(証言者:GOU)

 遠くで銃弾の乱れ飛ぶ、くぐもった音が断続的に響いていた。

 マウスタウンの外周には環状のモノレールが走っており、4つの駅が接続されている。

 最後まで乗り続けた場合、15分弱でパークを一周出来る。

 弾痕だらけの駅を抜けて、ホームまでは交戦無しで来られた。

 既に先行組のプレイヤーがモノレール路線を制圧しており、誰でも自由に乗車出来る様になっていた。

 これで、今の俺達のような初見のプレイヤーは、まずタウン全体の下見をする事が出来る。

 また、任意の駅から各エリアを攻める足掛かりにもなる。

 モノレールの占拠は、誰と無く交代で行われている。当分、ヴァルハラ・クルセイダーズ(WC)に奪回される事は無いだろう。

 プレイヤー全体が利己よりも勝利を優先して、自然と団結している。過去に例を見ない事態だ。

 やはり、フェイタル・クエストの発令はそれ程までに重い。

 初見でも、どの様に攻略に参加すれば良いのか一目で解った。

 次のモノレールが来た。

 やはり車体一面が弾痕だらけで、無事な窓は一つも存在しない。

 あまつさえ割れた窓に固定機関銃ミニガンが何基か設置されていた。

 モノレールに乗る他プレイヤー達の動きを見るに、どうやら偵察目当ての初見プレイヤーは俺達以外には精々1グループしか居ないらしい。

 何人かがドアガンナーとして名乗り出、ミニガンに着いた。

 そうなると、やる事は自ずと決まっている。

 余ったミニガンは、俺が操作すべきだろう。

 なお、弾数は無制限であるらしい。撃った数と同じだけ給弾ベルトの中でリスポーンする。VR世界ならではの仕様だが、リアリティを売りとして来たゲームとしては初志を曲げた感は否めない。

 それがなおの事、フェイタル・クエストを発令せねばならない、ゲーム自体の斜陽を感じさせる。

 兎に角、弾切れを気にする必要は無い。

 俺は狙撃システムをオンにし、左右のトリガーに手を掛けた。

 モノレールが走り出した。

 ◯ ◯と言う“マウスシンボル”と呼ばれる形の、元は窓であった孔から吹き曝しの風が通り抜ける。

 プラットホームを抜けて視界が拓けると、早速眼下で、WCとプレイヤー達の衝突が展開されていた。

 識別の為か、WCの着ている服は例外無く、上下真っ白な戦闘服だ。

 まず、敵の武装や動きをざっと観察して見よう。

 ……。

 やはり、何事に於いてもだが、現場を自分の目で確かめると言う事は大事だと痛感した。

 事態は、サービスエリアで聞いたものよりも更にシビアそうだ。

 伝説の武器、即ち実銃の保有率が高いのは情報通りだった。

 だがもう一つ、大事な事が抜けていた。

 刀やバットと言った近接武器の使用率が異様に高い。

 そして、その身体能力は、明らかにプレイヤー準拠の範疇を逸脱している。

 射撃武器が優位とされるこの世界、この期に及んで、伝説の武器を撃つよりも速く肉迫するWCの兵士に、プレイヤーが次々殺されている。

 一体一体がネコ科の瞬間移動にも等しい敏捷性と筋力だ。

 WCが地下で強化人間を開発していると言う陰謀論は聞いた事があるが、真実だったようだ。

 あるいは、運営がネットの噂を拾ってネタを採用したか。

 何れにせよ、WCの雑魚モブキャラは、全てが中ボスクラスユニーク・エネミー相当だと思わねばならないだろう。

 兎に角、前衛を狙うには、他プレイヤーへの誤射フレンドリーファイアが怖い。

 俺は、幹の肥大化したヤシの木陰等に潜んで掩護射撃を行う後衛の個体を優先してターゲットロック。

 発射。

 一呼吸の空転の後、ミニガンが文字通りに火を吹いた。

 狙撃システムの射線シミュレートをなぞるように撃つと、ターゲットは冗談のような血煙を撒き散らして即死した。

 次。射殺した。

 その次。射殺した。

 凄まじい振動が両掌を苛む。

 長時間続けると白蝋病になりそうだ。

 だが、やはり固定式であるから撃ちっぱなしでも狙いがずれる事はあまり無かった。

 銃身は完全に赤熱して、強烈なオレンジ色の光を孕んでいる。

「いいぞ兄弟! 逃げるやつは木偶だ! 逃げないやつはよく訓練された木偶だ!

 ホント、世紀末は地獄だぜ! フゥハハハァーハァー!」

 後ろでKAZUカズが囃し立てる。

「止めてくれ、集中が乱れる」

 大味な仕事に見えるかも知れないが、結構、神経を使う作業なんだよ、これは。

「あと、恥ずかしい」

 LUNAルナが付け足した。

 ……LUNAルナにまで言われた、とも言うべきか。

 後が怖いので、口には出さないが。

 兎に角、俺や他のドアガンナー達が敵後衛を粗方潰した事で、プレイヤーサイドの前衛の押しが強くなった。

 これで、このエリアは当分大丈夫な筈だ。

 俺達はモノレールを一周した後、正面から突入する予定だ。その頃には、市街戦も落ち着いて、楽に探索出来る様に……なっていて欲しい所だ。

 その後もモノレールに運ばれるまま、俺は、比較的プレイヤーと密着していない敵前衛への制圧射撃と、やはり後衛殺しを重点的に行って各エリアの戦局をコントロールした。

 こう言う、赤の他人同士の連携でこの戦線は成り立っている様だ。

 カレント・アポカリプスにあるまじき光景である。

 だが、悪い気はしなかった。

 なお、敵がモノレールを狙う気配は殆ど無い。

 元は自分達の設備であるから、直接破壊する様な愚は犯さないだろう。

 たまに単発の銃弾が飛んで来るのに気を付ける程度で済んだ。

 隣でドアガンナーの一人が被弾して、にわかに喚き立ててはいたが。

 

 ホテルの屋上から、地上を狙撃しているスナイパーを視認。

 俺はミニガンから手早く離れ、こんな事もあろうかと予め立て掛けておいた愛用の手作りライフルに持ち換えた。

 動く足場での狙撃になるが……何とかしよう。

 大きくブレる狙撃システムを全身全霊で見極め……レティクルにターゲットが乗ったーー撃つ!

 無事に、敵スナイパーが大きく体勢を崩し、ホテルから墜落した。

 こちらのライフルは安物ではあるが……スナイパーの立ち位置は、敵スナイパーのテリトリーでもある、と言う事だ。

 俺も気を付けよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る