証言17 滅びの前の輝かしき営み(証言者:LUNA)
ーー“死”の予兆を纏った風が、荒野を駆け巡る。
その導きに従い、アタシはスリングショットを放り投げた。
鈍重な音。
着弾点には、褐色の体色を帯びし四本足の巨躯ーー猛牛がいた。
岩石に打たれて大きく仰け反ったものの、牛は後退して勢いをつけ、突進しようとする。
「フォーメーション・
アタシの号令に呼応して、
牛は無事、
こちらへ突進してくる牛を、アタシは正面から受け止めた。
さすがにパワードスーツの支えがあってでさえ転倒しそうになるが、しっかり踏み締めてこらえた。
そして、男達が三方向からそれぞれに銃(
デザートイーグルの一発でも死ななかった事には野生の驚異を感じたが、勿体ぶって放たれた
プレイヤー同士の衝突は無いが、こうした野生動物との遭遇戦は無くならない。
勝利の余韻も無く、アタシと
ツギハギのように修繕された高速道路を走ると、サービスエリア跡地が見えてきた。“sale”と書かれたのぼりが、ボロボロながらもはためいている。
こののぼりはサービスエリアや道の駅の跡地に立てられている事が多く、そこで自由市場が開かれている事を示している。それはすなわち、休戦地帯である事も意味した。
精肉のPerkを持っているプレイヤーがいれば、さっきの牛から肉を取るなり売るなりできる。
実入りの良い仕事なので、純生産系ビルドでなくともその手の専門的な生産Perkを持っている者はどこにでもいる。
フェイタル・クエスト発令下にあってもーーいや、だからこそ、市場は売り買いする人で満ちていた。
世界が滅べば、金を溜め込んでも意味がない。
アタシ達が牛との戦いで弾薬を惜しまなかったのも同様の理由。
こちらにはイオンで略奪した物資も大量にあるし、金に糸目を付けず、市場で弾薬を補給すれば良いのだ。
目論み通り、牛はすぐに売れた。
ついでに肉を買い取った。
なんと、自家製のパンをクラフトして売っている者(モヒカンにパンクファッションの男)がいたので、焼いたステーキを挟んでサンドイッチにした。
サービスエリアに立ち寄ったもうひとつの目的は、フェイタル・クエストについての情報収集だ。
発生したのが千葉県のマウスタウンであるから、そっち方面の地域からやって来た“先行組”が、時に無料で、時に有料で情報を売り歩いていた。
コミュ障気味な奴しかいないアタシ達の一族的には、商売の体裁を取って金で売ってくれた方が助かる。
ヴァルハラ・クルセイダース(WC)は、突然
元々、マウスタウンに行けば戦える敵性NPCの半国家だった。
ちなみに、数少ない弾薬工場もマウスタウンにある。言うなれば、WCが稼働させているから、アタシ達は伝説の武器を使えるとも言える。
それが今回、核兵器を復元して、アタシ達プレイヤーを滅ぼそうと蜂起した。
設定的には、選民思想をこじらせたとか、そう言う話のようだった。
アタシ達がこれからも、このゲームを続けるには、このWCを滅ぼさなければならない。
これまでは殺しても殺しても無限にリスポーンするので、マウスタウンをプレイヤーが制圧する事はできなかった。
だが、運営とプレイヤーサイドとの“賭け”でもあるフェイタル・クエストの設定上、勝利条件を満たせば、その勢力はリスポーンしなくなる。
つまり、弾薬工場がプレイヤーでも支配できるようになる。
そうなれば今後、弾の入手性はかなり良くなるだろう。
……伝説の武器の値崩れが、ゲームの寿命を縮めかねないとも言われているが。
銃が気兼ね無く使えるカレント・アポカリプスと言うのも、また面白そうだとは思った。
さて、裏を返せば、そんな場所を根城とする連中だ。
しかもNPCもその持ち物も、ゲーム側が無から創造するもの。それがVRMMOのスポーンと言うものである。
だから先日のイオンでも、中国製のアサルトライフルとその弾が脈絡無く存在していたのだ。
つまり、WCとは伝説の武器を潤沢にもった勢力である。アタシ達プレイヤーにとって、コストの高さから運用出来ないようなマシンガンやアサルトライフル、ともすればミニガンなども普通に乱用される。
戦車や装甲車の存在も報告されていた。
また、技術のサルベージを旨とする勢力だけあって、テーマパークの機能も復旧されているようだ。
恐らく、勝利条件に関わるネームドのボスキャラなどが、アトラクションに紛れて奇襲してくるのは間違いないだろう。
アタシ達全
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