証言16 ヒャッハーの修理やさんが教える死亡健康法(証言者:JUN)

 IMOーXの効果が切れた瞬間と言うのは、いつになっても慣れない。

 薬を打つ前と後、意識に連続性が無いから、体感的には喰らったダメージが一気に押し寄せてくるんだよね。

 爆走する車の中、何はなくとも“オリジナル麻酔”の錠剤をひと飲み。医療補助システムのPerkをオンにし、自分の修理に取りかかる。

 ちなみにこのオリジナル麻酔、全身麻酔なんだけど眠らずに意識を保つ事が可能だ。

 実は、拷問されに行ったHARUTOハルトの両奥歯にも仕込んであった。まあ、彼の性格とINAイナの手ぬるさを総合するに、そこまで必須だったのかはわからないけどね。

 で、自分の話に戻る。

 医療補助システムを使うまでもなく、ヒドい有り様だった。

 さしあたり、脇腹の刺し傷が一番まずいので、止血。

 次に、左腕にショットガンの流れ弾を喰らったらしいから、散弾を地道に取り除かなければいけない。

 どこまで治せるかはやってみないとわからないが、他の部位を治療するにしても両腕をベストな状態にしなければならない。

 ……うん、ほぼ違和感なく動く。

 腕の調子が戻ったのを足掛かりに、脇腹を改めて修繕した。

 最後に、右肩の裂傷。鉄筋伸ばして作ったアイアンクローで殴られたらしい。

 掠めた程度で済んだのか、比較的浅いので、縫う程でもなさそうだ。

 ……まあ、処置は終わったけど、ガタガタには違いないね。

 外傷の完治まで、三ヶ月はかかるかな?

 死んで復活する方が早いのだろうし、治る前にまず死ぬんだろうけど。

 次にHARUTOハルトの修理。

 日常生活に支障はなし。

 しばらくズキズキ痛いであろう事と、強いて言えば見映えの問題かな。

 これも、いっそ死んだ方が早く治るだろう。

 あと、僕もIMOーXやらオリジナル麻酔やら、その他の薬物を立て続けに使ってるから、身体の内側もあちこちボロボロになりつつある。

 もう少し木偶を実験台にして、この辺の副作用も改善していかないとね。

 僕らの生活サイクル、いつもこんなもんだ。

 戦う度に少しずつ弱っていって、死んだらまっさらな健康状態に逆戻り。

 

 さて、やれるだけの治療はしたから、僕らのこれからについて考えよう。

 僕らは当然、これからフェイタル・クエストの攻略に参加しに行く。

 車は、リアルでは千葉県のある辺りに向かっている。

 敵の本拠地は、戦前、巨大なテーマパークだったらしい。そのルーツが忘れ去られた現代では、廃墟のあちこちから見られるマスコットキャラクターにちなんで“マウスタウン”と呼ばれているんだって。

 今、この前HARUTOハルトが拳法家みたいなユニーク・エネミーに襲われたって言う市街地を過ぎた。

 結構な長旅になるだろう。

 この前のイオンを【クリア】してしまい、物資を根こそぎ持っていったのは、この為だったのだろう。

 ……だとすると、HARUTOハルトは何でフェイタル・クエストが起こる事を知ってたんだろうね?

 友達に運営会社のヒトがいて、リークしてもらったとか? そんなわけないか。

 まあ正直、真相がどうあれ、僕には関係ないからどうでもいい。

 “ご近所さん”の追っ手は心配しなくて良いだろう。

 と言うか、わざわざHARUTOハルトINAイナに捕まえさせたのはこの為だ。

 あの界隈のプレイヤー誰しも、イオンを潰された報復はしたいものの、僕らの恨みを直接買いたくない。

 そこへ“鞭の天才”が鼻息荒く名乗り出た。

 こっちはこっちで悪名高いサドの超人であり、それの捕虜になればどんな目に遭うか、皆理解していた。

 それで溜飲は下がるし、僕らからのヘイトは“鞭の天才”がぜーんぶ引き受けてくれる。

 そこへ来て、先のフェイタル・クエストの発表だ。

 もはや、チンケな狩り場潰しにこだわっている場合では無くなった。

 つまり、クエストの告知によって僕らのした事のほとぼりが冷めるまで、INAイナが匿ってくれたようなものだった。 

 もう当分、彼女には足を向けて寝られないよ。

 

 結構な台数、他ヒャッハーどもの車とすれ違ったけど、ドライブは平和そのものだった。

 皆、一目散にマウスタウンへと向かっている。

 この期に及んでプレイヤー同士で略奪だのケンカだのしてられないのだろう。

 必死だよね。そうだよね。

 このカレント・アポカリプスのプレイ経験者、別ゲーじゃ嫌われ者だもん。

 次のゲームに移住したって、なかなか受け入れてもらえないよ。

 何でって?

 野盗として散々PC・NPCを殺したり金品強奪したりをリアルなVRでやってきたような連中だよ?

 それが自分ちの隣に引っ越してきて、心穏やかでいられる?

 ゲームがまだ、テレビ越しのものだった時代でも、そう言う作品はあったと言うよ?

 KOした対戦相手をあの手この手で惨殺する格ゲー・モータルコンバットだとか、アメリカの市街地で銃を乱射したり車を暴走させまくるグランド・セフト・オートだとか。

 そんなレトロゲームの時代ですら、子供の精神に悪影響が~とか神経質に騒がれてたのに、今じゃそれが現実と瓜二つのVR空間だ。

 ボタンを押して、キャラクターが動くのではない。

 自分で武器を握って、確かに他人を殺しているんだ。

 どれだけ分別ぶっても、モラルをうたっても、このゲームに長く浸かっていたヒトってのは、知らず知らずのうちに染まってるもんだよ。

 このゲームで嬉々として人殺しをしていた奴は、他のゲームでもPKヒトゴロシがしたくなっちゃうんだよ。

 そして結構な割合で、TPO読めなかったり、読めても衝動が押さえられずに屁理屈で自分を納得させた上でヒャッハーしちゃう。

 だから、プレイしたゲームタイトルの経歴とは、現実世界でのキャリアや職歴に近いものがあるんだ。

 このカレント・アポカリプスに長く浸かった人は、このゲームにしか居場所が無い事が多い。

 もしも、その場所がフェイタル・クエストで消し飛んでしまったら……まして、このゲームで千載一遇の【ユニークスキル】なんて貰っていたとしたら。

 負けられないよね。

 あ、立場がヤバいのは僕もだっけ?

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