証言15 奪還作戦(証言者:KAZU)

 その【告知】が合図だった。

 HARUTOハルトを奪われたあの戦いの後、三日は身を潜めなければならなかった。

 だが、あのフェイタル・クエストが告知されてから、この界隈の雑魚どもは、おれ達を追い回すどころではなくなっていた。

 全てはHARUTOハルトがーーひいては、このおれが書いたシナリオ通りだった。

 

 ドアを景気よく蹴破って、INAイナのアジトに突撃する。

 現場を一目みて、おれは“映像”として脳裏に焼きつけた。

 主に、HARUTOハルトの位置を。

 すでに、LUNAルナが、室内に煙幕手榴弾スモークグレネードを投げこんでいた。

 この前のスタングレネードと言い、大・大・大浪費だぜ。

 けどまあ、おれの右腕を取り戻す代償としては安いもんだよ。

 煙幕で混乱する奴らに、我らが捨て石・JUNジュンが飛びかかった。

 INAイナの手下であろう、何の面白みもないモヒカンが、JUNジュンの削岩機を掻いくぐり、脇腹にナイフをブッ刺した。

 生身でコンプレッサー背負って削岩機振り回すやつにビビらず、よくやるよと思うが。

 それとも、飼い主のほうがそれ以上に怖いってことか。

「痛くない! それにこれくらいの出血は致死量じゃあない!

 だからノーダメージ! これぞ、ゼロダメージ理論!」

 ひっくり返したペンキ缶みたいに血を流しながら、奴ははつらつと言った。

 そして、一瞬とまどった敵モヒカンの脳天から削岩機ぶっこんで殺した。

 だが、パワードスーツを着た奴が、鉄筋を剥き出したナックルでJUNジュンを殴り付けた。

「血が、血が出たじゃないですかぁ!」

 おい、コラ。さっきと言ってること、違くないか?

 だが、この作戦、JUNジュンごとき捨て石でも、誰一人死なせられない。

 奥の手を……使わざるを得ない!

 おれはワルサーPPKを断腸の思いで抜き放ち、JUNジュンに、なおも殴りかかろうとしていたパワードスーツ野郎の頭をぶち抜いた。

 脳漿が飛び散って、無様に死んだぜ。

「この貸しは高くつくぞ」

 おれは、JUNジュンの奴に並び、耳元で言いつけてやったが、奴は聞いてるのかいないのか、奥にいるINAイナを指差し。

「オカマ野郎の余った肉から生まれた心身共に醜い奴で、元より麗しい徳など無く、軽々しくズル賢く、アチラの方面ばかり矛の先のように鋭敏なこのビッチは、人々が殺り合ったり恐慌に見舞われるのを見下すのが何よりも大好きだ!

 生まれながらに脳ミソが変色している品質不良のキチ◯イで、その両生類のクソにも劣る采配で何人もの手下を無駄に死なせくさった!

 このビッチの存在は、もはや墓の下で眠る、我々全人類の先祖にまで及ぶ迷惑そのものであり、その糞虫度合いと来たら文字通り次元が違う! 生まれてきてごめんなさいと土下座して詫びるべきレベルだ!

 この生ゴミ以下の淫売より下の存在は、過去、あらゆる文献・ネットのどこを探しても見つからない! まさしく空前絶後だ!

 どんなインテリが仲間になっても、その価値もわからないまま、脊髄反射で打ち殺す! 絞め殺す!

 そんな自分の姿に酔いしれて、オラついた主人公気取り!

 親がこんなクソに育てたのなら、祖父の代も、そのまた前の代も、血族単位のクソだ! 遺伝子そのものを存続させてはならない! 卵管切って去勢してしまえ、そうすりゃ今より少しは大人しくなるだろうよ!」

 ……この間に、何回の攻防があったもんだか。

 これ、あちこち現代風にアレンジされてるけど、あれだろ。三國志に出てくる、陳琳ちんりん檄文。

 袁紹えんしょうの手下の文官が、プロパガンダのために曹操そうそうをディスりまくったやつ。

 まさか、これのために、シラフの時に暗記したのか?

 ……前から思ってたが、なんか変わったヤツだな。

 で、

「野郎、今言ったこと、忘れんなよ!? 去勢してやる!」

 INAイナINAイナで、真に受けてブチキレた。

 とりあえず、わかる事はひとつだ。

 JUNジュンの言ってることが割かし理屈っぽくなってるって事は、戦況がこちらに有利だと言うこと。

 どうも、奴がラリった時の言葉ってのは、有利な時と不利な時で、一定の法則性があるらしい。

 科学的根拠は全く無いが、これが結構アテになる。

 あんなキチガ◯でも、戦況はすげぇ正確に分析してるみたいだ。

 ……それを理解してるおれらもどうかとは思うが。こんなニッチすぎる知識、よそじゃ役に立たねえよ。

 実際、こちらは救出対象のHARUTOハルトを含め、5人全員が健在。

 あっちは、INAイナともう一人の雑魚だけ。

「デザートイーグルは!?」

 GOUゴウHARUTOハルトに駆け寄りながら叫ぶ。

 ぶっちゃけ、この作戦で気にするべきはそこだろう。

 見るからにズタボロにされたナリのHARUTOハルトが目線で示した先に、その“伝説の武器”は横たわっていた。

 LUNAルナがパワードスーツまかせに敵を抑え込み、GOUゴウがデザートイーグルを素早く奪い返し、おれがHARUTOハルトを抱き抱えて連れ出す。

 ……そしてJUNジュンは、そこにあったテーブルを、奴らめがけて野蛮にぶん投げる。

 

 そうして奴らのアジトから飛びだしても、奴らはしつこく追いかけて来た。 

 手下のほうが、ついにショットガンをぶっぱなしてきた。

 おれのパワードスーツの背中と、どうやらJUNジュンの腕がえぐれたが、気にしてられない。

 外に停めてあったジープ“グラディエーター”の助手席にHARUTOハルトを押し込み、おれは、

 おれは、本当に惜しいが、ワルサーをINAイナ目掛けて発射した。

 当たらなかったが、怯んだ。

 その一瞬の隙に、おれの一族全員が車に乗り込んだ。

 あとはアクセル全開。

 全速力で振り切るだけだ。

 悪いが、おれ達にはもっと大事な使命があるんでな。

「くそ、クソ野郎があァあアァ!」

 INAイナの捨て台詞を、背中いっぱいに浴びた。

 負け犬の遠吠えだな。

 今、おれ、イイこと言ったよな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る