証言12 HARUTOに初勝利、した筈だ(証言者:鞭の天才INA)

 自分のこれまで全てが正しかったと勘違い出来る程、あたしは傲慢ではない。

 そして、あたしは自分がある程度傲慢である事もちゃんと理解している。

 ……やり方を変えない限り、何度戦ってもあの男を屈服させる事は出来ない。それは認めよう。

 あの男のお陰で、今やあたしに付き従う手下は三人にまで減った。

 それぞれ名前も覚えてないけど、パワードスーツの男(以下、バズラ◯トイヤー……略してバズと呼ぶ)、切り札としてモスバーグM500と言うショットガンを有している男(以下、モス)、これと言って特徴のない標準的なモヒカン(以下、SMスタンダードモヒカン)。

 ……ちゃんと統率して、連携を取れるようにしないといけないのだろう。

 とりあえず、処刑も拷問も止めた。

 まず、目に見えて変えるべき所だと思ったからだ。

 けれど、彼らはあたしの一挙手一投足にオドオド怯え、顔色をうかがってくるばかりだ。

 ちゃんと統率して戦おうと思ってからわかった。

 ヒトって、忠実なだけじゃ駄目なんだと。

 彼らからすれば、どんな些細なミスで、あたしに拷問されるか分かったものではない。

 だから、深く考えなくても分かるような行動さえも慎重になりすぎて、何かとワンテンポ遅い。

 理屈では理解している。

 彼らを萎縮させているのは、あたしの今までの扱い方にある。

 だけど。

 ナメられれば喰われる。

 だから、ナメられないように力で支配したら萎縮された。

 どうしろと?

 あたしは、支配するかナメられるか、喰うか喰われるかのどちらかしか、これまでの人生で経験した事がない。

 

 そんな時だった。

 あのHARUTOハルトがイオンモールの“狩り場潰しロケーションクリア”をしでかしたと言う情報が入って来たのは。

 ただでさえ、この地域では新参の一族。

 この辺りにアジトを構える他の一族から不興を買う事は間違いないだろう。

 たった5人でショッピングモール規模のロケーションを全滅させた辺り、一人一人の練度が非常に高い事も知れ渡っていた。(あたしはもっと早くから把握していたが)

 誰のせいか、この辺りに10人規模以上の勢力が無くなって久しかった。

 “制裁”を下すべきかどうか……各勢力の中でも意見は割れているようだ。

 しかし、奴等は滅ぼしたロケーションに、NPCの死体をそのまま放置して行った。

 

 ……あたしは、ある勢力の背中を押してやる事にした。

 プライドばかり高い奴だった。

 こういう場合、切っ掛けがあれば“わからせてやりに”行きたくて仕方がない筈だった。

 そこのリーダーは、少し前まであたしが飼っていた男だった。

 詰まらないヘマをしたので“コレクション”に加えてやったが、アバターを作り直す事でゲームリセットし、逃げられた。

 確か、こいつの勢力は現在5人規模。

 そこへあたし達4人が挟撃を仕掛ければ、勝てる筈だった。

 未だ、あたしに逆らえないそこのリーダーは、二つ返事で乗るしかなかった。

 怨恨など、後の面倒は全てあたしが引き受けるし、戦利品の分け前も半々と言う破格の譲歩をした。

 

 襲撃は順調だった。

「いーち、にー、さーん……9人も居やがる!

 オマエ、オマエら、チートしてんだろ! オレはしってんだぞッ! 運営にじゅ、10万円くらい……いや、500万くらいかも? リアルマネーにぎらせて、チートとか見逃してもらってんだろ!」

 何らかの薬をキメたJUNジュンが、支離滅裂な言葉を撒き散らしながら、削岩機を手に襲い掛かって来る。

 パワードスーツも無しに、生身でコンプレッサーを背負ってよくやるよ、とは思う。

「アホか!? ンなこと出来るわけねーだろ!」

 手下のモスが律儀に答えてやってるが、

「フローラルハミングの容器に書いてあった!

 “飲み物ではありません”だと!?

 指図するな! 飲みたいモノを飲ませろ!」

 ……あたしはさっさとJUNジュンの背後に回り込み、奴と背中合わせの格好になる。

 鞭を奴の首に巻き付けると、おんぶするようにして締め上げた。

 あたしの倍加した筋力が、たちまち奴の首をへし折った。

 HARUTOハルトと勝負する時、いつもこいつを真っ先に殺す事に決めている。

 ラリった言動が目障りで煩いのもあるが、こいつが生存した状態でこちらが負けると、訳のわからない人体実験にかけられる羽目になる。

 あたしも何度か、筆舌に尽くしがたい、酷い目に遭わされた。

 リーダーであるHARUTOハルトよりも誰よりも、念入りに抹殺しなければならない。

 何と言うか……JUNコレを全くノーリアクションで扱っているHARUTOハルトらは、優しいのか、ドライなのか、そう言うコントなのか。

 そして。

 閃光。世界が真っ白になった。

 音刃が耳を突き刺す。

 HARUTOハルト側の誰かがスタングレネードを投げたか。

 こちらが怯んだ隙に、奴らが蜘蛛の子を散らすように散会、逃げていく気配がした。

 【鞭の天才】により知覚が鋭敏化しているあたしには、尚更きつい目眩ましだが。

 だが。

 こいつは、こいつだけは。


 逃がさない、逃がさない、逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない。

 

 視界がホワイトアウトするよりも先に、あたしはあの男の姿を捉え、閃光に負けじと睨み付けていた。

 そして、捕縛用の縄に持ち替えると、他の何にも目をくれず、あの男を絡め取った。

「動くな」

 あたしが殊更ドスを利かせて言うと、

「……降参だ。投降しよう」

 スタングレネードで掻き乱された聴覚の中、あたしはそれだけは聞き逃すまいとした。

 ここ最近、一番聞きたかった声で一番聞きたい言葉が聞けた。

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