証言11  勝利による死への序曲、あるいは、殺戮の前触れ(証言者:LUNA)

 闇と静寂、おびただしい亡骸。

 かつて、ショッピングモールとして栄華を誇った(と言う設定の)面影はない。

 アタシ達がクリエイトした、即席の地獄インスタント・インフェルノだ。

 言い換えれば、アタシ達はイオンモールを【クリア】したと言うこと。

 クリア、と言うこと。

 このイオンのような攻略地点ロケーションでは、そこの住人ーー敵性NPCーーを全滅させると、ゲームシステム的にも【クリア】と言う判定が下される。

 すると、戦利品の入ったスチーマートランクが、ボスキャラの近くに出現スポーンする。言うなれば、ダンジョン最奥の宝箱のようなモノであり、ゲーム側からのクリア報酬である。

 ……素直に受け取ったほうが得ではある。

 …………短期的に言えばね。

 と、言うのも、ゲームシステムとは反対に、プレイヤー間の暗黙のルールとしては、この手の大規模ロケーションは原則的にとされている。

 この世のNPCは、最先端のAIによって“生活”している。

 集落を攻撃すると、戦闘後、そこに住むNPCは当然ながら復興しようとする。

 裏を返せば、一人か二人の敵は生き残らせておかないと、新たな入植者が立ち寄らない限り、復興が行われない。ゲーム的に言えば、敵やアイテムの再配置リスポーンが当面行われなくなる事を意味する。

 要するに、漁業と同じだよ。

 今日、欲張って魚を獲り尽くしたら、長い目で見てそこの水域が長続きしなくなる。

 滅ぼしたグループとしては、スチーマートランクから割り増しの収穫が得られる。

 しかし、伝説の武器などの大物がトランクに入っている事はほとんどない。ガソリンが入っていればラッキーな程度の“心ばかりの”報酬でしかない。

 一方、他のグループからすれば、他人が“ちょっと”得をするために、共用の狩り場ひとつを潰された事になる。

 百歩譲って、出来心の一回程度なら、大半のプレイヤーは目の敵にはしない。

 何だかんだ、他プレイヤーの怨恨を買うのはリスクも高いから。

 何も自分だけのものではない狩り場のために、率先して命を張るモヒカンも、それほどいない。

 この地域に引っ越してきてから、アタシらはせいぜい鞭使いのINAイナに目をつけられているくらいだ。

 アタシが逆の立場でも、イオン一つ【クリア】されたくらいで血を流せるほど暇ではない。

 だがHARUTOハルトは、アタシ達がこの場に築き上げた死体むくろを、片付けずに撤収すると言った。

 これでは、ますますNPCが寄り付かなくなるし、魂入りのプレイヤーがアジトにしようとした時、このおびただしい骸の片付けをしなければならない。

 これも、敵NPCを一人でも生かしておけば、そいつにやってもらえる仕事だった。

 “皆の狩り場”を手前勝手に潰したのであれば、せめて死体を埋葬していくのが、これも暗黙のマナーとされている。

 ……PK上等コロシジョートーなこのゲームで、犯罪もなにもないけれど……気に食わない奴に対する報復は、酷く短絡的かつ、フリーダムなものだ。

 ここまであからさまに周囲の一族をナメた態度を見せれば、アタシ達を討たんとする愚者が現れる可能性は高いだろう。

 そして、そうした愚者どもと言うのは、群れたがる。共通の敵を欲しがる。リンチを通して一体感を得たがる。

 HARUTOハルトは、明らかにそれをわかってやっている。

 どういうつもりなのか。

 巻き添えを食うのは、アタシらもだ。

 KAZUカズは事の重さに気づいてすらいない。

 JUNジュンはもとより、何があろうと興味無し。

 唯一マシなGOUゴウは……これもあからさまな静観の構え。まるで、HARUTOハルトが何をしようとしているのか、見たがっているようだ。

 アタシは……、…………それでも彼に黙ってついていくしかない。

 それしかできない。

 他に行くあてもない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る