証言10 ジェネリック世界(証言者:JUN)

 HARUTOハルトたちがテキパキ血路を拓く後ろで、僕はゆったりとアサルトライフルを拾い上げていた。

 中国製……191式自動歩槍、か。

 持ち主だった惨死体のポーチとか漁ってみると、30発マガジンが二つ見つかった。

 撃たれる前にGOUゴウが素早く持ち主を始末してくれたので、弾数はほとんど減っていない。

 鹵獲ろかくするなら、極力良い状態で手に入れたいよね。

 まあ、とりあえず、四段階に伸縮可能な銃床ストックを僕の腕の長さに合わせて調整してからの、建物の中からワラワラと飛び出してくる連中めがけて引き金を引く。

 断続的な銃声が鼓膜を刺し、銃口から迸るマズルフラッシュが網膜に焼きつく。

 一人、二人、三人……僕が軽く指を曲げただけで、完璧な人間の形をした敵性NPCが血肉を弾けさせ、もんどりうって倒れていく。

 フルオート射撃なので指を押し込み続ける限り弾幕を撒き散らせるんだけど、反動で狙点が少しずつズレていくので、適度な所で射撃をやめる。

 そしてまた、狙いを定め直してから、またバババババ。

 なるべく、こちらの仲間の誰かと交戦している敵を狙った。

 その方が避けられにくいし、あるいは、僕の射撃に気を取られた奴に仲間がトドメを刺してくれる。Win-Winだ。

 可能な限り大事に撃ったつもりだけど、もう弾が尽きた。

 まあ、このアサルトライフルはこれで用済みだろう。僕はもとより、誰も、このレアアイテムを持ち帰る気は無いと思われる。

 確かに、実銃が伝説ともてはやされるこの世界で、各個撃破も面制圧も思いのままにできるマシンガンやアサルトライフルは、一挺で戦局をひっくり返してしまう程の脅威となる。

 だけど、弾代と言う名のランニングコストが高過ぎて、よほどの富豪でなければまともに維持ができない。

 しかもこの191式、よりにもよって弾の入手性がとても悪い。銃本体も弾も、中国で生まれて中国で完結している銘柄だからね。

 仮にどれだけの大金持ちに成り上がったとしても、そもそも市場に物が無いので、安定して補給ができない。

 だから、GOUゴウに買い取ってもらうのも難しいだろう。

 そんなわけで、この手のフルオート銃はと言う、ある意味でハズレのゴミアイテムより忌み嫌われているものだ。

 僕が今やったように、その場限りで使い捨てるのが基本的な運用だろう。

 まあ、今はまだ手放さないけどね。

 理由はすぐにわかるはずだ。

 

 さーて、ここいらが使かな。

 駐車場を突破して、斬り込み隊長(笑)のKAZUカズがエントランスへ躍り出ようとする、この瞬間。

 僕はポーチから注射器ーーと言うには骨太なフォルムのそれーーを取り出すと、サムライの切腹よろしくお腹にブッ刺した。

 体内を、たちまち高圧な異物感が駆け巡る。

 名付けて“IMOーX バージョン2.7”だ。

 ……はいはいはいはい、きたきたきたきた、きたよ!

 何と言うか、こう、“生きてる!”って実感が無理矢理、心の深層から引きずり出されるこの感覚!

 こーいうヤクの力を借りなきゃそれが感じられない哲学的ゾンビがさ「オレは神! 破壊神だ!」って自信満々に思えてくるの!

「いぇあ!」

 さっきまでとは一転、オレはトロくさいHARUTOハルトKAZUカズと言った(ピー)野郎どもを追い越して、イオンのエントランスにブッ込んだ。

 

 無印良品のテナントだった所とか、“リュヌ・ソレイユ”だとかっていかにもオカマ野郎が名付けたようなブティックのテナントだったトコロとか、高倉町珈琲のテナントだったところだとかから、原住民どもがワラワラ現れて押し寄せてきやがる!

 なに?

 昔は商業施設だったガラクタの山を石器時代に退化した奴らが元々のルーツもわからないままヘンテコな使い方してんでしょ?

 高倉町珈琲の厨房で、イノシシだの熊だの、ともすれば蛇とかネズミだとかをグリルしてるワケ? 泥水を健気に濾過しようとしてるワケ?

 超ウケる!

 オツムが足りねぇんだよ! ブレインがよぉおおぉオォッ!

 ツナギの作業着にボクシングのヘッドギアというナリで、画一的に手作りボウガンを持った働きアリどもが、たちまちオレらを包囲した。

「正規軍気取りかァ? あァ!? クソどもがァァァァ

!」

 オレは191式を景気良くブン回しつつ、突貫した。

 クソどもが放ったボウガンの矢が肩にブッ刺さった。

 痛くない。

 だからノーダメージ。ノーカン。わかる? このリ・ク・ツ。

 で、そんな狼藉を働いた野郎の脳天にアサルトライフルの銃床をブッ込んでやった。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も潰す潰す潰す潰す脳天がトマトペーストみてぇになるくらいになァ!

 オレがヨユーしゃくしゃくでそんなコトできてんのは、その間にHARUTOハルトが的確に掩護射撃してくれてるってのは、忘れてないさ。

 ヤツにだけは特別に許す。後でオレをファッ◯してもいい。

 KAZUカズも同じくらい援護してくれてるんだっけ?

 だがオメーはオレに◯ァックされる側だ! そーいう、アレを、間違えんな!

 で、そんなことは、どーでもいいんだよこのさい!

 ああ、ぶん殴りすぎてアサルトライフルがぶっ壊れたよ!

 やっぱゴミだな、これ!

 で、作業着にヘッドギアとか言う滑稽な働きアリどもに庇われて、調理人だとか、その手の非戦闘員がチョロチョロ出てきくさりやがった。

「逃げんじゃねぇ、ボゲがァあァああァ!」

 とりあえず、ジャンクに成り下がったアサルトライフルをブン投げたら、命中したヤツの首がおもしろいように、ねじまがって死んだ! くたばった!

 武器が無くなったんでしかたがないから飛びかかって馬乗りになってマウント、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!

 

 そんな感じで創意工夫しながらブッこ、ブッ殺しまくってたら、ガリガリガリィって、アレな駆動音をまきちらす迷惑な奴がきた!

 パワードスーツを着ている。手には削岩機。背中に負ったコンプレッサーで動かしてるんじゃない?

 あー、ここのボスキャラっぽいわね、このオトコ。

 オーッホッホッホッ! それでアタシと渡り合う気?

 おバカさんにも程があるわね。

「さあいらっしゃい、ボウヤ。真実の美というものを教えてアゲル」

「ふざけやがって! 野郎、ブッ殺してやらぁ!」

 あーら、三下の雑魚みたいな面白味のない野生をお口から迸らせて、襲い掛かってくるわ。

 ……なかなかイキがいいじゃない?

 そのエキサイティングな態度に相応しい、勢いのある末路を与えてアゲルわよ。


 

 ……。

 我に返った時、作戦は終わっていた。

 僕も仲間達も、ピンピンしてるってことは、勝ったのだろう。

 いや、改めて読み返すとヒドいなこれ。僕が書いたんだよね?

 で、まあ、クスリでへべれけになっていても、本来の目的は忘れてなかったらしい。

 削岩機を手にして襲い掛かってきたミスター・パワードスーツの処遇についてだ。

 生かさず殺さず捕縛してたみたいだね。

 偉いぞ、数分前の僕よ。

 そんなわけで、僕が新たに開発したIMOーXバージョン3.0を注入した。

 VR世界のいいところは、現実の条理から外れた薬効も実現可能なとこだよね。

 そも、人体が架空のアバターなんだから、薬も同じという道理。

 新薬を作るのに、どんなPerkを取ったか?

 そんなの、何もないよ。

 もったいないじゃん、スキルポイント。

 NPCを実験台にすれば、生身のデータは取れるんだし。

 それで。

 僕の新薬を注射された木偶はと言うと。

 あー、全身をかきむしり、のたうち回った末に息絶えたね。

 成功すれば、このヒトのパンチのスピードが倍になる予定だったんだけど。

 死因はとりあえず、心不全かな?

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