証言09 イオンモール殲滅戦に纏わる疑問(証言者:GOU)
先んじてジープから降りた俺は、現場のイオンの向かいにある、廃ホテルの一室に陣取っていた。
無論、狙撃の為だ。
使うのは、鉄パイプだとか廃材木だとかのスクラップを組んで作った、手製のスナイパーライフル。
これでも
こんな風貌でも、7.62㎜×54R弾がちゃんと飛ぶ。……流石にガス圧の減衰は抑え切れない為、威力と射程距離は伝説級(実銃)に比べてかなり劣るが。
この手の密造銃としては、暴発無く真っ直ぐ飛ぶだけマシだと思う事にしている。
スコープだけは、ちゃんとした正規品を使っている。
その拡大倍率は4~8倍。
世の中には20倍の物もある事を思えば控え目ではあるが、俺にはこれで充分だった。
先に述べた通り、銃本体の威力がライフルと言うには貧弱なのだ。弾の届かないような距離が鮮明に見えた所で、持ち腐れでしか無い。
そもそも、スコープは高倍率であれば良いものでもない。
遠くが鮮明に見えると言う事は近くを見る視野が狭まる事と同義でもある。
何キロも先のターゲットを、気付かれずに始末するのであれば、それでも良いだろう。
だが、繰り返すようだが、こんなスクラップで造ったライフルの射程距離など高が知れている。
俺の狙撃は暗殺では無く、飽くまでも仲間の掩護射撃ーー言い換えれば、動き回る相手をターゲットにしなければならない。
容易にスコープを振り切られてしまう上、戦況の全体像を見渡す事も出来ない。
また、このゲームにおける低倍率スコープの需要の無さは、俺個人にとっては都合が良かった。
ただでさえ、このゲームのスナイパー人口は少ない。
スナイパーには、地形や風の条件などを計算する観測手の随伴が無ければ、仕事がままならない事も多々ある。
このゲームの風潮として、直接の戦闘員として使い出が無ければ人材と見なされない傾向にあるのは、以前、説明した通りだ。
何処の野盗グループも、人員枠には余裕が無い。
観測手の為だけに仲間を雇うなど、贅沢の極みとすら言える。
その障害をクリアしてまで本物のライフルを導入した者であれば、この程度のスコープで満足はしないだろう。
お陰で、“伝説の武器のパーツ”にしては、二束三文で買う事が出来たのだが。
《スゴいことしようぜ!》
無線越しに届いた
続けて“グラディエーター”が敵陣のバリケードを蹂躙する破砕音。
《おれたちはカッコいい!》
その、あまりにも残念な語彙に軽く眩暈を覚えつつ、俺はスコープ越しの戦場を覗き込んだ。
このスコープ、
俺としては「自分に合った道具」が都合良く現れる事を期待するよりも「道具に自分を合わせる」方が性に合っているので、その分の市場価格が落ちてくれて助かった。
そろそろ本題に移る。
暴走するジープは、流石に敵陣のガードタワーに食い止められた。
包囲されるよりも早く、
勿論、敵もそれを許す程の木偶の坊では無い。
見張りの一人、ボウガンを構え、
俺は、六角ボルトで作った引き金に指を添えたまま。スプリングが限界手前まで縮むのが指先から感じられるが……それ以上押し込めないで居る。
濁った
鉄柱に弾かれた
感情の無いAI達が、恐慌と言う感情をエミュレートし、慌てふためき出した。
この跳弾で狙い撃つ技術は、ゲーム内の
この間に、
アシストされた筋力から放たれた金槌が、入植者の頭をヘッドギアの上から叩き割った。
何時もの事だが、弾薬を惜しんだのだろう。ハンマーなら、後で拾えば消費せずに済む。
今回、どう言う訳か
それでも
尤も、投げたハンマーの悉くが釘抜きの部分から命中しているあたりは見事な腕前と言えるだろう。
目まぐるしく変わるターゲットとの距離と、ハンマーが何回転するかと言う計算を完璧にこなしている証拠だ。
建物から、長い物を手にした、迷彩服の新手が飛び出して来た。アサルトライフルの類だろう。
この“イオン要塞”のボスか、それに次ぐ個体に違いない。
間合いに入られれば、フルオートのライフル弾をばらまかれる事となる。いくらパワードスーツがあるとは言え、ひとたまりもないだろう。
俺は意を決した。
大きく息を吸い込み、ライフルを構えた。
同時に、ゴーグルに内蔵している、ある機能をオンにした。
風向きや風速、距離、このスクラップライフル自体の弾道などが光の速さで計算される。
それらの情報を頼りに、俺はT字のレティクルを迷彩服の男に合わせた。
正直な所、豆粒程の大きさだ。
何処かの戦争映画よろしく手足を破壊し、生かさず殺さずその場に釘付けに出来れば理想的なのだろうが……このスコープの倍率と銃の性能では、身体の何処かに当たれば御の字だろう。
……これで充分。
観測手の問題を、俺は生産系Perkの組み合わせ、オリジナルの観測システムを作る事でクリアした。
俺は、俺自身が出来る事をかき集めて、俺自身にスナイパーと言う付加価値を造り出した。
ゲームから与えられるスキルは、道具に過ぎない。
このグループに入って、
手振れは
俺は、遂に引き金を引いた。
銃声。
超音速の弾丸とは言え、距離が距離だ。一拍子遅れて、胴体に命中。迷彩服の男はよろめいた。
そこへ
ボスの突然の死に、入植者達はますますパニックに陥った。
これで敵に俺の存在が認知されただろうが、構わない。
俺の仕事は暗殺では無く、掩護射撃だ。
……
それだけが分からない。
最近の彼は、まるで生き急いでいるようにように見えてならない。
ここの襲撃を提案して来たのも、あるいは?
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