証言08 処刑用ジープ (証言者:KAZU)

 おれは今、ジープのピックアップトラック“グラディエーター”を颯爽と爆走させている。

 一族の要であるおれが運転なんて雑務をするのは合理的じゃあないが……5人の中で一番ドライビングテクが上等なのもおれだから、やむをえない。

 この世はどこもかしこも、不揃いな瓦礫とか砂岩の敷き詰められたオフロード。

 車はロデオみたいに何度も跳ねて、おれ達の尻を痛めつけくさる。

 こいつが日本にやってきたのは、実に2021年らしいから、相当なクラシックカーだ。

 おれが高架道路の瓦礫に埋もれていたのを引きずり出して、GOUゴウのヤツが修理と改造をした。

 車体はガタガタ・ベコベコにゆがんでて、元々は真っ黒だったであろう表面は、核戦争の時の熱であぶられた(という設定の)せいか、あちこち毒々しく青みがかってる。

 内装もひどいありさまで、座席のシートとか虫食いみたいに破れてる。ダッシュボードも、プラスチック部分があちこち溶けてやがる。

 だが、荷台の最大積載量は250kgもある。おれとLUNAルナのパワードスーツを折り畳んで積んだ上で、まだまだ荷物が積める。

 そんなにたくさん、ナニを積むかはこれからのお楽しみってやつだ。

 しかも、サイドミラーだった所からは、“ブレード”を伸ばすことができる。

 湿式刃付けとかいう、結構本格的な処理で作ったブレードらしく、実際、ジープの馬力が乗ったこいつが通過してになっちまった死体を、おれも幾度となく量産してやった。

 これぞまさしく剣闘士グラディエーターってか。

 おれ、今、うまいこと言ったよな?

 あと、車体前面の格子フロントグリルはニンゲンを有刺鉄線で縛れるように改造されている。

 “死刑囚”を生きたまま晒し者にしながら走るもよし、生かしておくのをやめる場合は適当な壁に突っ込んでサンドイッチにするもよし、だ。

 ……縛りつけられたヤツの背丈次第じゃ、運転席の視界の邪魔になるのが欠点だが。

 ちなみに、今もNPCを一人縛りつけてあったが、さっきカーブを曲がり損ねて激突し、ボンネットごとオシャカにしちまったから、静かになった。

 まあ、どんなに無茶しても、保険の等級なんて気にする必要もないしな。ミラー不要のぶつけ放題、天下無敵の殺人ジープってわけだ。

 それと、これはオマケ程度だが、屋根から鉄柵が真上にのびている。これは主に“キャンディ”(あるいは“鮎の塩焼き”)でデコレーションするためのものだ。

 今回は車体軽量化のため、キャンディをひとつ刺すだけに留めた。

 なんだかんだ、こいつを走らせるのは気分がいい。

 ガソリンをケチってるらしく、HARUTOハルトGOUゴウは、滅多にこいつを走らせたがらない。

 確かにガソリンってヤツは消耗品のクセして超レアアイテムだ。

 PC・NPC関わらず、この世界で殺し合いが起きる原因の大半は飲み水か食い物か化石燃料の奪い合いだ。

 だから、景気よく使った分だけ、どこかからブン盗ればいい話だと思ってるんだがな。

 しかし今回は、めずらしくおれの内心を忖度したのか、HARUTOハルトの方から車で出撃しようと言ってきた。

 やればできるじゃねえか。見直したよ。

 そして、おれ達がこのピックアップトラックを出すと言うことは、デカイ襲撃しごとに繰り出すと言うことだ。

 ガソリンの元を取るには、荷台に少しでも“戦利品”を積まにゃならんからな!

 

 遠くに、イオンモールが見えてきた。

 核爆弾の爆心地から割りと遠かった(と言う設定)にしても、あのショッキングピンクの看板がきれいな形を残しているのは、奇跡と言っていいだろう。

 建物自体もトタンや木材でツギハギされているものの、大まかな原形がそっくり残っているだけ、上等だろう。

 イオンだとかコストコだとか三井アウトレットパークだとかプレミアム・アウトレットだとかだった建物には、原住民どもが組織だって密生している場合が多い。

 それも、大抵は自警団完備の“エリート獲物”どもの勢力下だったりする。

 まあ、別ゲームで言うところの“ダンジョン”みたいなものか?

 滅亡後の世界で元ショッピングモールをヤサにするってのも手垢がついた手法だし、商品なんて根こそぎ持ち去られた後だろうが、雨風を完全シャットアウトできる物件って利点は無くならない。

 ヒトが物資を持ち寄って、ちょっとした集落だとか国もどきを形成するにはうってつけだ。

 敷地の外周を、これまたトタンと木材と有刺鉄線による見張り台ガードタワーがずらりと組まれていて、歩哨のつもりであろう雑魚どもが配備されている。

 兵隊のユニフォームのつもりだろうか、どいつもこいつも何かの整備士が着ているようなツナギの作業着(メーカーはまちまち)にボクサーのヘッドギア(色は赤or青or黒が大半)と言うナリだ。

 そいつらが“キャンディ”でデコレーションした、おれのジープを見るなり大慌てとなった。

 狩りの時間だ。

 おれは、景気づけに伝説のワルサーPPKを抜き放った。繊細なおれの内面を具現化したかのような、滑らかなフォルムのピストルだ。

 ワルサーはルパン三世も使っていた。主人公の銃だしな!

「スゴいことしようぜ!」

 おれの勝鬨が、蹂躙開始の合図だ。

 ジープの荷台を、水と食糧で満載にしてやろう。

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