証言07 愚昧なる道化に熱き嘲笑を(証言者:LUNA)
とりあえず、アタシは
さしずめ、カタストロフィによる救済って所だ。
なぜ、そんな事をしたかって?
“
さっきの戦闘で、彼が結構な重傷を負ったので、いっそ一回死んで、全快の状態で復活してもらおうってワケ。
このゲームは核戦争後の世紀末世界だ。ガチガチのリアル志向。
何気に復活ポイントまで瞬間移動出来るメリットもあって、このわざと死ぬやり方は、仕切り直しのいち手段として認知されている。
もっとも、いくら他殺の被害に慣れているとは言っても、こんな理由で自分から死にに行くなんて、常人には無理だ。
で。
ーーいい加減しつこい女。
もう何度目かな。
今回も、アタシ達が返り討ちにした
今まで、こちらのアジトまでノコノコ来ていたのだけど、今回は路上で待ち伏せされていた。
まあ、相手のホームで戦わない、ってコトを覚えただけ進歩したのかな?
お陰で
で。あの女についての詳細。
着ている服は何の変哲もない、工場の作業員が着ているような、動きやすくて丈夫そうな作業着だ。
そんな無難な胴体装備に対し、頭部は、その全体を面頬のようなガードのついたバイクのヘルメットで覆い隠している。おブスファッションにも程がある。
もしかして、素顔にコンプレックスでもあんのかな。こんな、女捨ててるやつしかいないゲームでまで気にしなくていいのに。
武器については、今更ツッコむ気も起きない。
ちゃんとした銃が超レアアイテムだって言っても、この世界の
パワードスーツも無しに鞭だけの武装でしゃしゃり出てくるなんて、普通なら自殺と同義だろう。
……あからさますぎ。
何らかのユニークスキルを神サマからもらって、死の舞に興じてたクチだろう。
結果、昇天したのは、こいつの方だったけどね。
なぜだか、この女の考えが手に取るようにわかる気がした。
この世で唯一無二、自分専用のスキルを神サマから賜って、何かの“主人公”にでもなった気でいたのかな。
そしてアタシらにーー
何度アタシらが手ずから“召して”やっても、あの女は執拗に攻め込んでくる。
なりふり構っていないのは明らかだ。
大方「格下のスキル無しごときにプライドを傷つけられた」とでも思って、逆恨みをつのらせているのだろう。
分をわきまえろ。アンタなんて、仮にコミックに登場したとしても、良いトコ“ウイグル獄長”どまりだ。
作中オンリーワンの鞭使いって意味じゃ、決して間違ってはいないでしょ。
スキル発動の条件を満たしていれば、常人の数倍の力を持ってる“設定”になって、しかも、倍速で動けるんだって?
それが、何?
この女、“死にゲー”ってやったこと無いのかな? 無いんだろうね。
どれだけ鍛えてステータスを全部カンストさせても、雑魚敵から数発もらっただけで死ぬような、イカれたゲームだよ。
その歴史的パイオニアであるダークソウルシリーズだって、今ではVRMMO化している。
言うなれば、凶暴化した象やチーターが所狭しと闊歩しているような世界を、生身で生きなければならない。
大悪魔が、
ステータスと言う名の冷酷なデジタルデータで生成され、現実の物理法則に忠実に従った上で、アタシら“考える葦”を容赦なく潰しにかかってくる。
たかだかヒトより倍動ける程度のショボいテコ入れされた
アタシも
特に
きっと、なぜ勝てないのか焦ってることだろうね。
見てる世界が狭いんだよ、アンタ。
そして、ユニークスキル持ちだろうと言う、アタシ達の推測が正しいとするなら。
面白いように“能力”に振り回されて、視野狭窄を起こしてるんじゃない?
どういう条件でユニークスキルが付与されるのかはアタシも誰も、わからないけれど。
そう言う棚ぼた、何の代償もないうまい話には必ず裏があるって言うのは古今東西の共通認識だ。
今日日、企業倫理だとか国家のモラルもグダグダだ。
こういう道化にオンリーワンの能力くれてやったら、どういう勘違いを起こすのか、と言う社会実験って線もあり得るよ。
だとするなら
このゲームでしか通用しない即物的なスキル。悪魔に魂を売り渡したと言うには、あまりにお粗末。
そんな安っぽい女に、アタシらがーー
アジトに帰り、先に死に戻っていた
「指示通り、今回も
アタシらに楯突いた道化への下知・断罪としては甘過ぎない?
「……彼女に対しては、これがベストの対処だ」
彼の言葉に、少しムッとした。
「その心は」
「……彼女の主武装は形而下の物質では無い。十中八九、“紐状“と言うーー例えば鞭や縄のようなーー“概念”そのものであり、武装解除は意味をなさない」
そんな事、アタシだって察しはついてるよ。
「じゃあ、金や食糧だけでも奪えばいいのでは」
「……重要なのは、後の禍根を確実に断つ事であって、我々の報復や実益では無い。
こうも断続的に襲撃を受けたのでは、我々としても満足に落ち着けない」
「恨みを買いたくないって、臆病風?」
「……一切のモチベーションを与えない為、と言うのが正確だ」
彼の声音には、相変わらず色も温度も無かった。
ヒャッハー! ってはしゃぐのが似合いのモヒカン刈り・パンクファッションが、恐ろしく噛み合っていない。
「……彼女の何が駄目なのか。それをむざむざ教えてやる義理は、我々には無いと言うシンプルな理屈だ」
……。
…………。
勘違いが過ぎて処置無しの
アタシだ。
客観的に見て、アタシが一番
彼の言う事に“間違い”は無い。
けれど、それが正しいのかは……わからない。
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