紺碧色 #007BBB
屋上へと続く扉を開けた藍は扉の開く音を聞いて振り返った
「久しぶり、だね」
「久しぶり」
ガチャン、と閉まった扉に振り返ることもなく彼女に近づいた藍は通り抜けた風にいつかの夏を感じ、息が詰まるような秋の匂いを思い出す。
「あの日以来、か」
「そうなるかな」
そうだよね、と下を向いた藍は今まで会った仲間に向けることのなかった表情をする。それは彼女への罪悪感か、今のなんとも言い難い感情を押し殺すためか、はたまた死んでしまいたい衝動を抑えるためか。その正体を藍自身も分かりはしない。グッと噛んだ口内の皮膚に歯が容赦なく突き刺さる。
「ずっと……ずっと話がしたかった。もう一度こうやって向き合う機会がほしかった。後悔しないって、してないって、そう決めてたのに心のどこかではしてるんだと思う。それを見て見ぬふりをしてた」
困ったような笑みを浮かべた藍は紺碧の目を見れないまま話をする。
「みんなにお願いした。私を責めてくれ、お前のせいだ、お前が自分を傷つけたって言ってくれって。そうしてそのまま私を殺してくれって。みんなに言った。……誰も殺してくれなかった」
「みんな優しいからね。でも、君のことだから分かってたんでしょう?」
「分かってたよ。君に今ここでお願いしても叶えてくれないことまで分かってる」
誰も私を楽にしてくれない、と涙をボロボロ流す藍。感情的になったのはこれが最初で最後か、はたまた最初からずっと感情的だったのか。
「私はみんなに殺してほしかった。ずっと、もうずっと。みんなが責めて私を殺してくれれば私は楽になれるの。なんで?どうして誰も殺してくれないの?」
私はただみんなに殺されたいだけなのに、と顔を覆う。その様子を眺める紺碧の目に浮かぶ感情は同情か軽蔑か、本人以外に読めることはない。
「はは、駄目だね。困らせてごめん」
目元を強引に擦ったであろう藍の目元は少し赤くなっている。
「ねえ、殺してよ。私のこと。君が最後の望みだよ。私はみんなに殺されたかった。誰も殺してくれない。君は殺してくれる?」
紺碧は答えない。じっと藍の目を見つめる。
「ほかの人たちが殺さないって言うなら私は殺さない」
そうだよね、と藍は寂しそうに笑う。
「分かってた。聞かなくとも分かってた」
そう言った藍は精一杯の笑顔を浮かべた。
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