紅桔梗色 #9C308D

 学校の廊下を歩く藍色はとある教室を目指してコツコツ歩く。三階の西側突き当たりの教室に踏み込んだ藍はその教室、図書室に想定よりも多く差し込んだ夕日に思わず目を細めた。

「あれ、久しぶり」

「ん、久しぶり」

 眩しいねここ、と紅桔梗べにききょうの隣に行く。何読んでたの、と紅桔梗の手元を覗いた藍はピクッと眉を動かした。その本は誰を思い出させたのだろうか。

「迷わずここまで来られた?」

「うん、前回迷ったから不安だったけど今回は迷わず来られたよ」

「それはよかった」

 そう言って笑った紅桔梗は本にしおりを挟んだ。藍はそれを横目に本棚を物色し始めた。蒲公英の家でも本棚を見ていたところを見ると藍たちは本関係で繋がりがあったのだろうか。

「最近本読んでる?」

「うーん、あんまりかなぁ……読みたいけど気力が追い付かないって感じ」

「あーあるあるだね。私もそういうときある」

 藍は目線を外すことなくそんなもんだよねぇと同感した。本棚を眺める藍は懐かしそうな表情を浮かべて本棚を眺める。

「それでどうしたの?突然来て」

「久しぶりに会いたいなぁと思って」

「そう?連絡もなしに来たことなかったから珍しいなと思って」

 確かに連絡なしで来ちゃった、と謝った藍に全然大丈夫だよと笑った紅桔梗は藍と同じように本棚を眺める。

「……ごめん、嘘ついた。お願いがあって来た」

「分かってた」

 そう言って笑った紅桔梗はどうしたの?と言葉を続けた。

「私を殺してほしい」

「また無茶言うねぇ」

 寂しそうに笑った紅桔梗はその綺麗な瞳で藍を見つめた。その目線に気まずそうに目線を逸らした藍は何かを考え、やがて沈黙に耐えられなくなったように言葉をこぼした。

「ごめん、今のなし」

 なんでもない、と笑った藍は反対側の本棚を眺め始めた。

「なんで殺してほしいの?」

「……みんなに殺されたら多分楽になれるんだよね。みんなにお前のせいだって責められたかったの」

「貴方のせいじゃないのに?」

「それ、その言葉が私を苦しめて仕方ないの」

「……そっか」

 沈みかけた夕日が二人の横顔を照らす。二人の表情からは何も読み取れない。

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