蒲公英色 #FFE200
コンコンコンと扉を三回叩いた藍色は自分の髪を撫でた風に振り返る。その先に『みんな』がいた気がしたがそんなことがあるわけもなく寂しそうに微笑んで扉に向き直る。
開いた扉の先で目を丸くした
「久しぶりだね。最後に会ったのはいつだっけ」
「忘れちゃったなぁ……でも、久しぶりなのは分かる」
確かにそれもそうだね、と笑った藍をどうぞと奥に通す。お邪魔します、と足を踏み入れた先では暖炉がゆったりと部屋を支配しており、奥には本がぎっしりと詰まった本棚が並んでいて手前のテーブルには栞の挟まった本が置いてある。
「お邪魔します。……また本増えた?」
「増えた増えた!ついつい買っちゃうんだよね」
「分かる。読み終わってないのに買っちゃうよね」
「そうそう!買っちゃうんだよね~」
本棚を眺めながら話が盛り上がっている二人は本の虫そのもので、そのまま四十分ほど話に花を咲かせた。
「あ!これ持ってたよね!」
「あー、うん。持ってるよ」
歯切れの悪い返事をした藍は気まずそうな笑顔を浮かべた。蒲公英が手にしていた本は藍が『みんな』と呼ぶ人たち――すなわち蓬やこのあと会いにいこうとしている人たち――と出会うきっかけとなった本だった。
「読んでたの思い出して買ったんだ~!面白いよねこれ!」
「面白いよね、良くも悪くも人間臭い部分が出てるのが特に好き」
いいよね、これと呟いた藍はクルッと体の向きを変えてほかの本棚を眺める。読んだことがないはずなのにどのタイトルにも見覚えがあって、表紙を見ればいつか見た本ばかりが並んでいる。
「見覚えある本ばっかり?」
「どの本もどこかで一回は見たことある」
「でしょ?この本棚はみんなにおすすめされた本とかみんなが読んでた本を集めた本棚なんだよ」
いいね、と本を一冊手に取る。藍が切なそうに見つめるその本はいったい誰を思い出させる本なのだろうか。
「そういえば本の話に夢中でお茶も入れてなかったね!今入れるから適当に座って!」
「いや、大丈夫。それよりも私のお願い聞いてくれる?」
「うーん、内容によるかな~」
蒲公英は紅茶を作りながらそう答える。
「そっかぁ、じゃあ君は聞いてくれないかもな」
いい香りだね、なんて言いながら藍は笑う。
「そんなお願いしようとしてたの?」
「してた。○○――蓬にも断られたし」
入れてもらった紅茶を飲みながら他愛のない話をする二人。そんなこともあったね、なんて笑った藍はいつもの癖で髪を耳にかけてハッとする。気づいたときにはもう遅くて、蒲公英の目線は藍の耳に集中していた。
「ピアス……?」
「うん、開けたの」
気まずそうに笑った藍に似合うね、と笑った蒲公英。心の奥底でも本当にその笑顔だったかを知るのは彼女自身のみだった。
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