蓬色 #616B07

 緊張感漂う廃都に藍の歩く音が軽やかに響く。どこからか聞こえる銃声に慣れたように進んでいく藍はイヤホンのコードを揺らしながら誰かを探しながら歩みを進める。

「久しぶりに会うのがこんな形になるとは」

 独り言を漏らした藍はこの辺だったはず、とビルを見上げる。きょろきょろとする藍の背後に動物の着ぐるみのようなゾンビが襲い掛かる。

「前もあった気がするなぁ、こんなこと」

 藍の構えた拳銃が火を噴くよりも先に銃声が響く。驚いた藍は自分の目線の先に立つ彼を見て久しぶり、と笑った。

「久しぶりっすね」

「うん、久しぶり」

 なんか前にもあった気がします、なんて言ったよもぎは拳銃を仕舞った。

 歩き出した二人は久しぶりに再会したとは思えないくらいテンポの良い会話をしながら彼のアジトに向かう。

「戻った」

「おかえり、そっちの子は?彼女?」

「ちげぇよ。前の仲間」

 ニヤニヤする彼の仲間にどうも、と頭を下げる。奥に通された藍はコーヒーの入ったカップを受け取り、一番眺めのいい窓際に座る。

「うるさいやつらですみません」

「全然大丈夫。いきなり来たの私だし」

 そう言って一口コーヒーを啜る藍。遠くの景色を見る藍を蓬は眺める。そうして自分もコーヒーを口にする。

 なんとなく流れた沈黙に蓬はそわそわするが藍にそんな素振りはない。

「そわそわしてるね」

「なんか、久しぶりに会うとそわそわしないっすか?」

「緊張はするね」

 ふふっと笑った藍。二人の間を流れた風は彼女の髪を優しくなでた。その隙間から見えた耳に蓬は声を漏らした。

「それ……」

「あぁ、これ?……開けたんだよね、ピアス」

 いつも揺れていたはずの藍のイヤリングがなくなっていた。

「イヤリングはつけないんすか?」

「つけないよ。もう……終わったから。私が壊しちゃったから。もう、いいよ」

 ふへへ、と笑った藍を困ったように見つめる蓬。その視線に耐えられなくなったように耳たぶを無意識なのか気になるのか触り続ける。

「これからどうするんすか」

「わかんない。なにがしたいもないし。みんなとバラバラになってからもうずっと空っぽだよ」

「そうっすか」

 寂しそうに笑った藍はコーヒーを啜った。

「ねえ、一個お願いしてもいい?」

「嫌っすね」

「なんで」

「なんか嫌な予感するんで」

 ケチ~と笑った藍はそのままコーヒーを飲み干した。

「まあ君は優しいからどうせ断るだろうけどね」

「何、っすか」

「……殺してよ、私のこと。お前のせいで壊れたんだって、お前のせいだって、お前が壊したんだって、責めてよ。それでそのまま殺して」

 いいでしょ?なんて笑った藍はフラッと立ち上がる。

「……何回も言ってるっすよ。あなたのせいじゃないって。みんなもそう言ってました。俺もそう思ってるっす。今もそう思ってるしこれからもあなたを責めるつもりなんてないっす」

「……ほらね?君は優しいから断る。分かってたよ」

 知ってた、と悲しそうに笑った藍はそのまま下を向いた。

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