第52話 これから歩む道

【前書き】


最終話です。


   ◇◆◇◆◇◆◇



 ユーリが目を覚ましたのは夕方だった。

 見慣れぬ光景に戸惑うが、すぐに昼間のことを思い出す。

 そして、苦笑する。


 ――たったあれだけで、寝落ちしてしまうとはな。


 前世なら三日三晩戦い続けても平気だった。

 幼く、思うようにならない身体だ。

 しかし、それでも、さっきの戦いを通じて、ようやく身体と心がひとつになったと感じ、この身体に愛しさを覚える。


「ユーリちゃん、起きた?」


 フミカが部屋に入ってきた。

 ニッコリとユーリに微笑みかける。


「さっき起きたところ。フミカのベッド?」

「うん。粗末なベッドでゴメンね」


 寝ている間に温かい夢を見た気がする。

 フミカの匂いに包まれていたからだろうか。


「気にしてないよ。それより――」


 ユーリは身体を起こし、フミカを見る。


「ベッド貸してくれてありがとね」

「気にしないでよ。友だちなんだから」

「そうだね。今度は私のベッド貸してあげるから、遊びにおいでよ」

「えっ、いいのっ!?」

「友だちだからね」

「うんっ!」


 幼く純粋な友愛を、ユーリはしっかりと噛みしめる。


「お邪魔しちゃったね。そろそろ帰るよ」

「ええ~、泊まっていってよ。ユーリちゃんなら、みんな大歓迎だよ」

「ごめんね。待ってる人がいるから?」

「そうだよね。ユーリちゃんにも家族がいるもんね」


 ――いや、違う。家族じゃない。


 そう言いかけて、ユーリは思い直す。


「うん。大切な家族がね」



   ◇◆◇◆◇◆◇



 村人に別れを告げ、ユーリはクロードの、自分の家に帰った。

 出迎えたクロードはユーリから血の匂いを感じ取ったが、それに気づかない振りをした。


「クローディア……いや、すまん。クロードか」


 ユーリはなぜかクロードに前世の彼を感じ、そのことにひどく戸惑いを覚える。


 クロードは息を呑む。

 どちらの名前で呼ぶべきか考えた末――。


「ユーリ様」


 今生での名前が口をついた。

 そう呼ばれたことに、ユーリは安堵する。

 自分の中にある想いをまだ持て余しているが、それでも――。


「ただいま」

「おかえりなさいませ」

「異変は?」

「ございません」


 リビングに向かうユーリに、クロードが付き従う。


「酒だ。酒を持て」

「承知しました」


 クロードが準備する間、テーブルについたユーリは遠くを見る目で、ひとり呟いた。


「普通の幸せ……か」


 転生してから今日までのことに思いを馳せる。


「どうかなさいましたか?」


 そこにクロードが白ワインを持って戻ってくる。

 ふたつのグラスにワインを注ぎ、ユーリの向かいに腰を下ろす。


「今度こそ、自由に、普通に生きるつもりだったのだがな……」


 ワインをひと口、ひと口と飲みながら、ユーリは呟く。

 クロードは黙って聞いていた。

 ユーリはゆっくりと時間をかけ――最後のひと口を飲み干した。


「余が生きる限り、今後も繋がりが増える。そして、それは枷となる」


 そう言ったきり、ユーリは黙り込む。

 クロードがワインを注ぎ直すが、ユーリはグラスを手に取らず、黙ったままだ。

 視線はテーブルに落とされ、焦点は定まっていない。

 ユーリはここではなく、別の場所を見ていた。

 クロードは躊躇った末、ユーリに声をかける。


「僭越ながら…………」


 ユーリは顔を上げ、意識を浮上させる。

 クロードの顔を見て、口を開く。


「構わん。申せ」

「ユーリ様はまだ8歳です」

「そうだな」

「前世とは違います」

「ああ」

「今のユーリ様には、帰る場所がございます」


 前世では拠点として、帝都の城があった。

 だがそこは、次の戦いに備える場所であり、安心して腰を落ち着けられる場所ではなかった。


 だが、今生では――。


 クロード。

 ミシェル。

 アデリーナ。

 レーベレヒト。

 露店のおかみ。

 肉まん屋のおやじ。

 街の人々。


 そして――初めての友人であるフミカ。


 知り合った人々の顔が浮かぶ。

 皆、敵でも臣下でもない。


 8歳の幼女ユーリとして知り合い、ユーリとして接してくれる人々だ。


「そうか……欲張りすぎていたようだ。余はもう手に入れていたのだな」

「ええ、その通りでございます」


 自分が考えすぎていたのだと、ユーリはようやく気がついた。


「普通の幸せか……悪くない」


 そういうと、グラスのワインを一息で飲み干した。


「今宵は飲み明かす。最後まで付き合え」

「ええ、もちろん。どこまでもお供いたします」

「ふっ。難儀な奴だ」

「我が身は御身のために」

「なあ、クロードよ。其方そちは幸せか?」

「当然でございます。前世でも、今世でも」

「そうか……」


 取り留めのない話が続く。

 今世の話ばかりだ。


 ユーリが実家を飛び出したこと。

 冒険者ギルドでの二人の再会。

 この家に来たときのこと。

 ミシェルとの出会い。


 初めてギルドで依頼を受けたこと。

 アデリーナとの出会い。

 ドブさらい。

 薬草採取。

 孤児と新人冒険者の揉め事を仲裁したこと。

 ヴァイスとの再会。


 ロブリタ侯爵への殴り込み。

 ルシフェとの出会い。

 ゴブリン討伐。

 フミカとの出会い。

 JPファミリーのこと。


 そして、今日のこと――。


 そこまで話がたどり着いた頃、ユーリは酔っ払って、眠ってしまった。

 クロードは思い出す――ユーリと再会した日のことを。

 あのときも、同じようにユーリは酔い潰れた。


 しかし、あの違う。

 ユーリもクロードも。

 短い生活ながらも、新しい生活を堪能した。


 幸せだ――ユーリの寝顔を見て、クロードはそう思う。


 やがて、クロードはユーリの身体を抱え、ベッドへと運んだ――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


ここまでおつき合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

今後どうするかですが、現時点の評価だと……。

なので、とりあえず完結とさせていただきます。


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【第16回ファンタジー小説大賞受賞】前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢 ~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~ まさキチ @maskichi13

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