第28話 ロブリタ侯爵家に殴り込む。

「みんな、ビックリさせちゃってごめんね。今から、侯爵のところに遊びに行って来る。お詫びにクロードが驕ってくれるから、今日は好きなだけ飲んで、食べて、騒いでね」


 今まで静まりかえっていた冒険者たちは、その言葉に我に返った。

 ギルド中に歓声が沸き起こる。


「さあ、行こっか。早速、ヴァイスが役立つとはね」


 侯爵領まで普通の馬なら、五日はかかる。

 だが、ヴァイスなら明朝までに着くだろう。

 ただ、それはユーリ一人ならばの話だ。

 クロードも人並み以上に乗馬ができるが、いくら良馬に乗ったとしても、ヴァイスの足下にも及ばない。

 クロードの顔が青ざめる。


 だが、そこに救いの声が――。


「ねえ、私も連れてってよ。役に立つから」

「アデリーナはいらないよ」

「そう言うと思ったんだけど、コレがあるよ」


 アデリーナが取り出したのは転移石だ。

 行ったことのある場所に転移できる魔法の石だ。


「うん、じゃあ、いいよ」


 クロードはホッと胸をなで下ろした。

 転移石のおかげで、ヴァイスで駆けるユーリに着いて行かずに済んだのだ。

 珍しく、アデリーナに感謝したい気持ちだ。

 そんな彼にアデリーナが小声で耳打ちする。


「念のためにロブリタ侯爵調べておいたんだ。感謝してよね」

「ああ、助かった」

「アンタからその言葉を聞けただけで、行ってきた甲斐があったわね」


 楽しげにアデリーナが微笑む。


「それで、どうするの? すぐ行く?」

「うん、さっさと行って、ちゃちゃっと済ませちゃお」

「じゃあ、近く来て」


 転移石の効果は使用者の半径1メートル以内。

 その範囲にいて、転移を望む者も一緒に連れて行く。

 拒む者を無理矢理、転移させられないから、誘拐などには使えない。


『――転移サムウェア・ファー・ビヨンド


 次の瞬間、三人は室内にいた。


「私のセーフハウスよ」


 上級冒険者は依頼で各地を飛び回る。

 こうやって、各地に拠点を構えるのが普通だ。

 クロードもいくつか所有しているが、ロブリタ侯爵領にはなかったのだ。


「アデリーナ、助かったよ。早速だけど、案内ヨロシクね!」

「いえいえ、ユーリちゃんのお願いなら、なんでも叶えてあげるよ」

「お姉ちゃん、好き~」


 ユーリにギュッとと抱きつかれ、アデリーナは幸せそうな顔をする。


「じゃあ、いこっ!」


 家を出ると、そこはユーリの知らぬ街。


「こっちだよ」


 アデリーナの案内で侯爵邸に向かう。

 しばらく歩いて、到着する。


 大きな門の前には、当然だが、数人の門番が立っており、誰何すいかしてくる。


「何者だ。ここはロブリタ侯爵の館だ」


 門番が威嚇するが、ユーリはどこ吹く風だ。

 ユーリが門に近づき、門番が咎めようとし――意識を失ってバタリとその場に崩れ落ちる。


「スゴっ!」


 ユーリとしてはちょっと威嚇しただけだが、その鮮やかさにアデリーナは驚く。

 自分でもできなくはない芸当だが、ここまでは無理だ。


 ――バンッ。


 ユーリは何食わぬ顔で門を蹴破り、堂々と敷地に入る。


「何事だっ!」


 その音に多くの武装した男たちが集まる。

 侯爵の私兵だ。


「クロード、つゆ払い、ヨロシク!」

「御意」


 クロードは魔力を練り上げ――。


『――見即破シーク・アンド・デストロイ


 放たれた魔力は一部を除いて、屋敷全体を覆う。

 次いで、バタバタと倒れる音。

 屋敷にいた者は意図して外した者を除いて全員が失神した。


「ついておいでよ」

「御意」

「あっ、ああ」


 アデリーナは言葉を失う。

 さっきのユーリにも驚いたが、クロードの魔法も規格外だ。


 ユーリを先頭に三人は館に入る。

 さっき兵士たちが飛び出てきたので、扉は開きっぱなしだ。


「こっちだね」


 ユーリは迷わず進む。


「うわ、ホントにみんな倒れてる……」


 アデリーナは呆れ顔で、そう漏らす。

 途中、ユーリもクロードも、今までは平静であったが、ユーリがピクリと眉をひそめる。

 同時に、クロードも察した。


「ユーリ様……」

「分かってるよ。予想はしてたからね……」


 アデリーナはゾッとする。

 急に気温が下がった――ユーリの態度が変化しただけで。

 二人は何かに気がついたようだが、彼女はその理由が分からずにいた。


「先にゴミ掃除だよ」

「御意」


 邪魔する者がいない廊下を進んでいき、三人は目的の場所――ロブリタ侯爵の執務室にたどり着いた。


 ――ドォォン。


 ユーリが豪奢な扉を力任せにぶん殴り、扉は粉々になった。


 ――ユーリ様は相当にお怒りだ。


 クロードは密かに笑みを浮かべる。

 トラブルが大好きなのは、彼も同じだった。






次回――『ロブリタ侯爵、終わる。』

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