第285話 番外編 亀しゃんreturns
「もっしもっしかぁめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
ここはヘーネの大森林。リヒトが管理するベース……ではない。エルヒューレ皇国の中央にあるウルルンの泉にどっしりと根を張り神々しくそびえ立つ世界樹。その下に淡いブルーの丸い尖った屋根が幾つもある城。そこにハルはいた。
「ハル、その歌は何なのだ?」
「ふぃーれんか、かめしゃんのお歌ら」
「ほう、聞いた事がないのだぞう」
「しょう?」
「そうなのだぞう」
ハルとフィーリス第2皇子、この2人が一緒にいると何を仕出かすのか分かったものではない。
今日も、2人何をしているのかというと亀さんに乗っているのだ。
その亀さんは……そう。例のベースに突然現れ、いつの間にかいなくなっていたあの亀さんだ。
どうやら無事に、ウルルンの泉に到着していたらしい。
「かめしゃん、元気になってよかったじょ」
「ありがとうのう。もう完璧じゃ」
「元気がなかったのか?」
「しょうなんら。小っさくなってたんら」
「ほう、ここに来た時にはもう大きかったのだぞう」
「べーしゅでみちゅけた時は小っさかったんら」
「ベースにいたのか? 遠いのだぞう」
「しょうなんら」
「あの時は世話んなったのう」
と、2人して大きな亀さんに乗って城の中を闊歩している。すれ違う城の使用人達は微笑ましく見ている。もうこの2人のする事に慣れっこになっている。
「コラッ! フィーリス! ハル! またお前達か!」
大きな声で怒っているのは、第1皇子であるレオーギル殿下だ。
今日はルシカはいないのか? そんな筈がない。しっかりとレオーギル殿下の後ろで目を光らせている。
「ハル! 聖獣様の上に乗るなど!」
「ハル、また2人が怒っているのだぞう」
「飛んでねーかりゃな。危なくないのにな」
「心配しとるのだろう」
と、聖獣の亀さんがレオーギル殿下とルシカの方へとのっしのっしと歩いて行く。
この亀さんはシュシュより古い聖獣さんらしい。コハルが、シュシュより歳をとっていると話していた。そのコハルはというと……
「聖獣に乗ってるのがダメだと怒っているなのれす」
一緒に乗っていた。しかも1番先頭にだ。
「こはりゅ、ダメか?」
「ダメじゃないなのれす! シュシュにだって乗ってるなのれす!」
「だよな~。もっしもっしかぁめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
呑気なハルちゃんだ。また歌っている。その歌がお気に入りなのか?
だが、レオーギル殿下とルシカは怒っている。
「フィーリス、ハル、聖獣様に乗るんじゃない!」
「ええー、兄上」
「らって、シュシュも聖獣らけど乗ってりゅじょ」
「ハル、シュシュとは違うでしょう?」
「しょう?」
「そうですよ」
「あら、ルシカ。それはどういう意味かしら? あたしはいいの?」
ほら、面倒なのがやって来た。
白い虎の聖獣、シュシュだ。ハルがよく背中に乗っている。
「シュシュに乗るのはもう普通と言いますか……」
「そうだな、シュシュならいいかな」
同じ聖獣なのに腑に落ちない。
「シュシュ、のしぇて!」
「いいわよ、ハルちゃん!」
「ほら、シュシュも嬉しそうでしょう」
「だってルシカ、ハルちゃんだもの」
「フィーリス、ハル、この亀の聖獣様は水神様の使いなんだ」
「なんら、こはりゅと一緒か?」
「違うなのれす! あたちは創造神様の使いなのれす! 創造神様の方が水神様より位は上なのれす!」
「ふぉッふぉッふぉッ、そうじゃなぁ。創造神様の使いには敵わんなぁ」
「へぇ~、こはりゅえりゃいんら」
「あたちじゃないなのれす。創造神様が偉いなのれす」
ほう、聖獣の世界でも色々あるらしい。
「かめしゃん、いくじょ! すぴーどあっぷら!」
「行くなのれす!」
「ふぉッふぉッふぉッ! 元気じゃのぉ~」
「よしッ! 行くのだぞう!」
また、のっしのっしと亀さんは歩いて行く。全くスピードアップにはなっていない。
「こらッ! フィーリス! ハル!」
「ふふふふ。ハルちゃん、あたしも行くわ!」
ハルとフィーリス殿下、それに聖獣が3頭。
この亀さんの聖獣はウルルンの泉に住みついた。水神の使いというだけあって、ウルルンの泉はより浄化に特化したらしい。それと、少しの回復効果もあるようになったそうだ。
バージョンアップしたウルルンの泉の水質のお陰で、エルヒューレ産の回復薬は品質が良いと評判になっている。
「もっしもっしかめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」
今日もハルはお歌を歌いながら、亀さんに乗ってお散歩だ。フィーリス第2皇子もまた一緒に乗っている。ハルの前には白いリスの聖獣コハル。そして、その横をゆっくりと歩く白い虎の聖獣シュシュ。
エルフの国、エルヒューレ皇国は今日も平和だ。
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