第284話 番外編 その後 3

「驚いたな、まさかあの令嬢と会うとはな」

「ちょっとマシになってたじょ」

「ああ、確かにな」

「けど、あんなちびっ子に嘘を教えてんのか」

「エルフが壊したなんてな。信じりゃんねー」

「そうだな。だが、大きくなって自分で考えて判断してくれたらな」

「しょうらな」


 しかし、これは問題だ。あんな小さな令嬢にもヒューマン至上主義を植え付けようとしている。無意識なのか、技となのかは知らないが。

 貴族の間では、エルフが街を壊した事になっているのだろうか? そうだとしたら大問題だ。


 数日後、ハルと長老は街の瓦礫を撤去する為に来ていた。2人は無限収納を持っている。取り敢えず、そこにどんどん入れていき撤去しようという事らしい。


「ハル、とにかく瓦礫を撤去せんと始まらん。どんどん無限収納に入れて行くぞ」

「ん、わかっちゃ。けろ、まとまってねーかりゃな」

「ああ、手間だな」


 と、言った長老が風魔法を広範囲に使って瓦礫を一箇所に集めた。長老、マジでチートだ。


「ん、こりぇなら楽ちんら」


 長老が風魔法で瓦礫を集め、ハルが無限収納へどんどん入れて行く。この作業をなんと丸一日続けた。


「ふゅ〜、まあまあらな」

「ハル、まだまだあるぞ」

「じーちゃん、おもんくねー」

「ハル、面白い訳がなかろう。まだ、あっちの方が手付かずだ」

「ん、しゃーねー」


 長老とハルの働きで直ぐにでも取り掛かれそうだ。そうなると、またヒューマンだ。


「うちの邸が優先だ!」

「何を仰っているのですか。私共の邸が先です」


 と、貴族同士で揉め出した。


「あー、もうヒューマンは」

「呆れてしまいますね」

「な、先ずは病院だろう」

「ええ。あと一時的に仮設を建てますか?」

「それしかないな」

「そんな仮住まいには住めんぞ!」

「そうです! 私達貴族を何だと思っているのですか!」


 まぁ、文句を言う奴等は何処にでもいる。

 ごった返している中、ハルがしゃがみ込んで地面をじっと見ている。


「ハル、どうした?」

「じーちゃん、しりょちゅめくしゃら」

「ん? 何だって?」


 流石にこれは理解できないらしい。


「しりょちゅめくしゃ」

「ああ、白詰草か?」

「ん、しょうら」


 ハルが短い指で指した先に、小さな白い白詰草の花が咲いていた。


「ほう、こんな場所にか……」

「な、しりょちゅめくしゃがありゅなりゃ、だいじょぶら」

「ハル、どうしてだ?」

「こりぇは、地力があがりゅんら」

「ほう、地力か」

「ん、しょうら」

「どうしてだ?」

「しりゃねー」

「なんだ、知らんのか?」

「ん、確か……こ、こんりゅーきんらっけ?」

「なんだって?」

「根粒菌。土が良くなるんら。たぶん」

「アハハハ。多分なのか? ハルの知識は分からんの」

「じーちゃん、勉強したんらけろな。わしゅれた」

「忘れたか」

「けろ、いいな。こんな瓦礫ん中にしりょちゅめくしゃが生えてんの」

「そうだな。これから再生できる気がするな」

「ん、しょうらな」


 そこへ、ドラゴンが資材を持って上空を旋回し出した。降りる場所を探している様だ。


「あ、ドラゴンら」

「おう、来たな」


 ところが、ヒューマン達は驚き逃げ惑っている。


「ドラゴンだ!」

「なんと、危険な!」

「逃げないと!」


 そんなヒューマン達に……


「お前等うるせーんだよ! 邪魔だ!」


 とうとうリヒトが怒った。すると、あれ程勝手な事を言って揉めていた貴族達は、我先にと言わんばかりにどこかへ消えて行った。


「気に入らないなら、全部自分でやるといいんだよ」


 リヒトの言う通りだ。

 ハルと長老が瓦礫を退かした場所にドラゴンが悠々と舞い降りた。建築資材を持って来てくれたんだ。待機していたドワーフやエルフが一斉に荷下ろしをする為に寄って来た。そんな中、何処かで見た覚えのある顔がチラホラと。


「ありゃ?」

「おう! エルフの兄ちゃん!」

「お! ルガーじゃねーか! 元気にしていたか? 手伝ってんのか?」

「おうよ! 俺達の国の事だからな! 俺達も動かねーでどうするよ!」


 以前、4層の毒クラゲ事件の際にスラムにいたルガーだ。スラムを再開発する計画で、仕事を覚える話が出ていた。あの時は自信無さげにしていたが、今はドワーフやエルフに混じって生き生きと働いている。ルガーだけではない。あの時、スラムで見た顔がある。


「みんな働いてんだな。良い事だ」

「ああ。大分慣れたぞ。最初の頃はもう身体がキツくて大変だったけどな」

「まあ、それは仕方ねーさ」

「またエルフの兄ちゃん達に世話かけちまったな」

「何だ、リヒト。知り合いか?」


 長老がハルをひょいと抱っこする。資材を運ぶ為に大人が行き交っている中を、ちびっ子のハルがチョロチョロしていると危ないからな。


「ああ、長老。前にアヴィー先生んとこに来た時にな。スラムにいたんだ」

「えっちょ、りゅがーしゃんら」

「おう、ちびっ子! 覚えていてくれたか」

「ルガー、エルフの長老だ」

「おりぇのじーちゃんら」


 ハルが自慢気に長老を紹介する。


「え、て事はだな。アヴィー先生の旦那かよ!?」

「ああ、アヴィーが世話になったな」

「いやぁ、そうかい! あのアヴィー先生にこんな男前の旦那がいたのかよ! アハハハ!」


 ん? 何故笑う?


「ちょっとルガー。どうして笑うのよ。失礼ね」


 おっと、噂のアヴィー先生が登場だ。


「うおっ! アヴィー先生、いたのかよ!」

「なによ、いたらダメなの?」

「いやぁ、アヴィー先生にこんな旦那がいたとはねぇ。旦那も大変だなぁ」

「アハハハ! もう慣れっこだ」

「流石だよ」

「おりぇも、なりぇたじょ」

「アハハハ、ちびっ子もかよ」


 これ以上突っつくとアヴィー先生の雷が落ちそうだ。

 ドラゴンの輸送力、エルフの知識、ドワーフの技術でアンスティノス大公国の2層と3層は思ったよりもずっと早く街としての機能を回復していった。

 各国の協力あっての事だが、それだけではなかった。

 4層以降に住む国民達が協力したんだ。スラムにいたルガー達だけでなく、其々が損得を考えず街の復興を援助した。自分達の国の事を他国だけに頼ってどうするんだと。2層に住む貴族達はそれをどう見ていたのだろうか。

 以前はなかった上下水道。作業に参加していた平民達が1つずつ手で植えた木々や花。以前は知らなかった瘴気を吸収する魔石。

 今まで蔑んでいた平民達の手を借りて自分達の邸が出来上がっていく。当然と思ったのだろうか?

 少しでも、何か考えるきっかけになればこの国はもっと変わっていける。その可能性もまだ残っている。


「りゅしかー! おやちゅら!」


 こんなところでも、ハルの元気な声が聞こえる。エルフ族だけでなく、ドラゴンやドワーフ、人魚族からも愛される小さな男の子。

 次はどんな冒険が待っているのかな? ハルちゃん。




   ※ ※ ※


投稿が遅くなりました。申し訳ありません。

このお話で、番外編は一旦完結です。

ハルちゃんを可愛がって頂きありがとうございました!

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