第283話 番外編 その後 2

「ハル、見るのだぞぅ。これは、酷いのだぞぅ。建物が壊されているのだぞぅ」

「ふぃーれんか。れも、道はこのままか?」

「そうだな。しかし、水路を通したいんだぞぅ」

「水路か?」

「そうなんだぞぅ。下水設備がなってないんだぞぅ。これではダメだ。木々も増やさないと精霊が寄りつかないのだぞぅ」

「殿下! ハル! 何をしているんですか!」


 フィーリス第2皇子とハルが一緒だと碌な事がない。2人して、何を仕出かすか分からない。やはりまた、ルシカに叱られている。


「あ、ルシカが怒っているぞぅ」

「れんか、まじゅいじょ」


 ルシカが2人を心配している。フィーリス殿下とハル。この2人が何をしていたかと言うと、2人して魔法杖に乗ってフワリフワリと飛び上空から2層の街を見ていたんだ。


「ハル! 降りて来なさい!」

「ハル、降りるんだぞぅ」

「あい、しゃーねー」


 2人して、フヨフヨと降りて来た。


「殿下、ハル、危ないでしょう? 落ちたらどうするんですか!?」

「ルシカ、でも上空から見ると一目瞭然なのだぞぅ」

「りゅしか、らいじょぶら」

「危ない事はやめましょうね」

「分かったのだぞぅ」

「あい、しゃーねー」


 ハルちゃん、本当に危ないからね。バランスを崩して落ちてしまったらどうするんだ?


「殿下、どうです?」

「うむ、長老。先ず瓦礫を撤去して、この際だから下水設備からやり直したいのだぞぅ」

「下水ですか?」

「そうなんだ。全然成ってないんだぞぅ」

「そんなにですか?」

「そんなになのだ。下水路をしっかり作っておかないと、不衛生にもなるんだぞぅ。この際だ。作り直したいんだぞぅ」

「分かりました。ヴェルガー親方に話しておきます」

「ああ、頼んだのだぞぅ。僕は設計図を書くのだぞぅ」

「はい、お願いします」

「ハル、僕は先に戻るのだぞぅ」

「おぅ。ふぃーれんか、またなぁ!」

「またなのだぞぅ!」


 そして、フィーリス殿下は護衛と一緒にさっさと転移して戻って行った。


「ちゅまんねー」

「ハル、遊びじゃないんだぞ」

「りひと、分かってりゅ」

「あなた、さっき飛んでいたわよね!」

「ん? なんら?」


 いつの間にか、小さな令嬢がそばに来ていた。ふわふわしたパステルカラーのドレスを着て、髪に大きなリボンをつけた小さな令嬢。ハルが今いるのは2層の貴族街。何処かの貴族令嬢なのだろう。ハルより少し上か? 何処から来たのだろう? 片手を腰にやり、もう片方の手でハルを指さしている。まだ小さな子供なのに超偉そうだ。


「ねえ、飛んでいたでしょう!?」

「お前何処から来たんだ? 出歩くと危ないぞ」

「あなたに話してないわ!」


 リヒトが声を掛けるが、小さな令嬢に文句を言い返されている。


「なんらお前?」

「お前じゃないわ! 失礼ね!」

「なんなんだよ。令嬢ってこんなんばっかか?」


 リヒト、失礼な言い草だ。確かに令嬢には良いイメージがないが。


「ねえ! あたしも飛びたいわ!」

「らめら。あぶねー」

「何よ! あなたは飛んでたじゃない!」

「おりぇは魔法杖を持ってりゅからら」

「何ですって!?」

「魔法杖ら」

「何なのよ、それは」

「おりぇのじーちゃんに作ってもらった杖ら」

「今何も持っていないじゃない!」

「持ってるじょ。小さくしてんら」

「嘘よ!」

「本当ら。見てな」


 ハルが髪飾りから杖を出して大きくして見せる。大きくと言ってもハルの手の大きさに合わせたおもちゃサイズだが。


「えッ!? どうなってるの!?」

「大きさ変えられんらよ。エルフはみんな持ってりゅんら」

「あなたエルフなの?」

「しょうら」

「お前、家は何処だ? 危ないぞ」

「煩いわね、あなたと話してないわ!」


 おやおや、イケメンのリヒトなのに。小さな令嬢がリヒトをまじまじと見た。


「あら? あなたもエルフなの?」

「ああ、そうだ」

「何でエルフがいるのよ!」

「何でって、街を直しに来ているんだよ」

「エルフに直してもらわなくてもいいわよ!」

「お前何言ってんら?」

「だって、街がこんなになったのはエルフのせいなんでしょう!? エルフが街を壊したんだわ!」

「ちげーじょ。エルフは街を守ったんらじょ」

「嘘よ!」

「ほんちょらじょ。お前、でっけー魔物が出たの知りゃねーのか?」

「知ってるわよ! あたしの家も壊されちゃったもの!」

「しょの魔物をやっちゅけたのがエルフなんらじょ」

「嘘言わないで!」

「ほんちょら。おりぇも一緒にいたかりゃな」

「嘘よ……」

「本当だぞ。俺達が倒して街を守ったんだ」

「そんな……じゃあ、お祖母様が言ってた事は嘘なの?」

「お婆様は、エルフが壊したと言ってたのか?」

「そうよ……ヒューマンの街が綺麗だから羨ましくて……て、言ってたわ」

「おりぇはエルフの国の方が綺麗らと思うじょ」

「嘘ッ!」

「ほんちょら。エルフの国は木や花がいっぱいれ水も綺麗ら」

「そんな……お祖母様は何で……? 嘘よ……ヒューマンが1番だって……」

「お嬢ちゃん、もっと大きくなったら自分で調べて自分の目で見て考えたらいいぞ」

「え……なんですって? 自分で見るの?」

「ああ。自分で見て自分で判断するんだ。本当にお婆様が言ってた様に、ヒューマンが1番なのかどうかな」

「しょうらな。自分れ調べて勉強しゅりゅといいじょ」

「……ねえ、あなた名前は?」

「おりぇは、はりゅら」

「俺はリヒトだ」

「あたしはアリシアよ。大人になったら会いに行くわ」

「おう、待ってりゅじょ」

「ああ。待ってるぞ」


 ――お嬢さまぁー!

 

「お、探してんじゃないか?」

「アリー探したわ……えッ!? ハルちゃん!?」


 小さな令嬢をメイドと一緒に探してやって来たのは、例のわがまま令嬢だ。お久しぶりの登場だ。

 皆さんお忘れだろうから、少しおさらいを。

 令嬢は、エレーヌ・アリストクと言う。以前、人攫いに合いヘーネの大森林でオークに捕らわれていたところをエルフに助けられた伯爵令嬢だ。あの頃はとんでも令嬢でルシカが手を焼いていた。

 令嬢の家はアンスティノスの1番外側だったはずだ。どうして2層にいるのか?


「アリー、いえアリシアとは父方の従妹なのです。邸を再建する間、私の家に滞在する事になったの。それで、迎えに来たのですわ」


 なるほどね。それにしても、以前とは違ってえらく落ち着いていないか?


「賢くなったんら?」

「ハルちゃんに言われてから沢山お勉強したのよ。また会った時に恥ずかしくないようにね。ハルちゃん、会えて嬉しいわ!」

「おう、元気しょうらな」

「ええ、ハルちゃんも!」

「お姉さま、知り合いなの?」

「そうよ、とってもお世話になったのよ」

「お嬢様、そろそろ」


 メイドが戻ろうと声を掛けている。


「分かったわ。ハルちゃん、また会いたいわ」

「おう」

「ゆっくり遊びにきてちょうだい」

「おう」

「じゃあ行くわ。ハル、リヒト、さっきの約束、忘れないでね!」

「おー」

「ああ、気をつけてな」


 メイドに連れられ、令嬢2人は去っていった。




   ※ ※ ※



お待たせしてしまい申し訳ありません。

ハルちゃんを可愛がって頂き感謝です!

読んで頂きありがとうございます!

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