第286話 番外編 それぞれの想い 1 ールシカ編ー
ここはヘーネの大森林。エルヒューレ皇国の皇族であるリヒト・シュテラリール様が管理するベースです。ああ、申し遅れました。私はルシカ・グランツ。リヒト様の従者をしております。リヒト様はハイエルフ属でリョースエルフ種です。普段は略してハイリョースエルフと私達は呼んでいます。皇族の方々がそうですね。
私は同じハイエルフ属ですが、ダークエルフ種です。リョースエルフ種より少し色黒な肌色をしています。
だからといって差別がある訳ではありません。リョースエルフ種よりも、細かな事が得意で所謂裏方のお仕事が向いているのです。少し、人見知りなところもあるのです。なので代々、ハイリョースエルフである皇族の方々の補佐をする役目についております。
違う事といえば、先に申しました様に肌色が違う事と、使える魔法が少し違います。ハイリョースエルフの方々は私達には使えない聖属性魔法が使えます。逆に、ダークエルフ種だけが使える魔法があります。闇属性魔法です。
まあ、普段はそう魔法を使う事もないのであまり関係ありませんね。
さて、ある日の夜明け前です。突然、大森林に響き渡る轟音と地響きで私は目を覚ましたのです。
何だ!? 一体何が起こっているんだ!?
「ルシカ様! 大森林の中で土煙が上がっています!」
今夜の見張りについていたベースのメンバーが慌てて報告にきた。
「土煙ですか? 炎は立っていないのですね?」
「はい! 炎は発見しておりません!」
「分かりました。リヒト様に報告します。指示があるまで待機です」
「はい! 承知しました!」
私は急いで身支度を整え、リヒト様へと報告に向かう。
「リヒト様!」
「おう! ルシカ、今の何だ?」
「何があったのかは分かりません! しかし、森の中で土煙が上がっています。あの場所で何かあったのでしょう。確認に出られますか!?」
「ああ、もちろんだ! 何があったのか確認しないとな!」
リヒト様がすぐに出てこられた。
私は別の者に馬の用意をと目くばせする。
「こんな時間に何が起こっているのでしょう?」
「さあな、現場に行ってみないとな。他の者は指示を出すまでベースで待機だ」
「はい、了解です」
リヒト様と私は馬で大森林の中を土煙がまだ少し残っている場所へと向かいます。
ああ、リヒト様と私が乗っている馬は普通の馬ではありません。
一角獣とも呼ばれていますが、ユニコーンです。1本の鋭い角があります。エルフにしか背中を許さないのです。大森林の中は、このユニコーンで移動します。
暫く大森林の中を進むと、大きな魔物が倒れているのが木々の間から見えてきました。
「おいおいおい! あれは超大型じゃねーか!!」
「リヒト様! あまり近寄ると危険です!」
この距離からだと倒れているのは見えていますが、もしもという事があります。
「いや、あれはもう生きてねーよ」
「は? 何があったんでしょう?」
「さあな、調査しないとな」
そう言って、超大型と言った魔物の直ぐそばに降り立った私達は目を疑いました。
「えッ……!?」
「はぁ……!?」
驚いたまま、少しの間声がでませんでした。それくらい驚いたのです。
「ちょ……!! お前! 大丈夫か!? 怪我はないか!?」
「え? どうしてこんな場所にいるのですか!?」
超大型の魔物が息絶えているその直ぐそばには、小さな男の子が地面にペタンと座っていた。
それが、ハルとの出会いです。
あの時は本当に驚きました。超大型の魔物の側に小さな男の子が座っているのですから。しかも、木枝で魔物を突いているのです。
その後、ハルは気を失いました。リヒト様がベースに連れ帰り、ベッドに休ませます。
「ルシカ、この子の髪色なんだが」
「はい、ヒューマンにはない色ですね」
「ああ。ハイリョースエルフにしか出ない色だな。だが、耳がな」
「はい、エルフではないですね」
「もしかして、ハーフか? それで捨てられでもしたのか?」
「リヒト様……」
「とにかく、こいつが目を覚さないと何も分からん」
「はい、確かに」
「しかし……」
「リヒト様、どうしました?」
「こいつ、めっちゃ可愛くないか!? ちびっ子ってこんな小さいのか!? ふわふわだぞ! 超可愛いだろう!!」
「リヒト様……」
確かに可愛い男の子です。目を開けているところを想像すると顔がニヤけてきます。どんな瞳なんでしょう?
それから……
「……めっさーちゅ!!」
と、元気な寝言を言って目が覚めるまで丸3日かかった。
エルフは小さな子供を可愛がります。種族に関わらず、子供を可愛がる。長命種故に繁殖率が低いからというのもあるのでしょうが、とにかく可愛い。そう思ってしまうのです。
ハルに対してもそうです。リヒト様や私だけでなく、ベースにいる皆がハルを心配していたのです。
しかし、ハルは子供なのに……いえ、まだ幼児といっても良い歳でしょう。
可愛い舌足らずな幼児特有の喋り方からは、想像できない知識を持っているだろう事が話してすぐに感じたのです。それに、ハル自身が周りの大人を信用していない。
まだ、会ったばかりだからだと思っていたのですが、そうではなく。大人を嫌悪している様な態度だったのです。
こんな小さなハルが、どうしてそこまで嫌うのか? 一体ハルに何があったのか? どうして、大森林の中にいたのか?
ハルに関しては疑問だらけです。
そんなハルが少し柔らかい表情をして言ってくれました。
「りゅしか、んまーい!」
ああ、なんて可愛い! いやいや、それよりも良かった。食べられるなら大丈夫ですね。後は急がず、ゆっくりとで良いでしょう。
とにかく今は、身体が元気になる事が1番です。
それにしても……ハルが話していた『ちゅどーん』とは一体何でしょう?
◇ ◇ ◇
今日から数話になると思いますが、少し真面目な番外編を投稿します。
宜しくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます