第280話 番外編 ちゅどーん! 6

「何千年も結界の中に籠っていると時間が止まるのだろうよ」

「なりゅほろ〜」

「ワハハハハ! ちびっ子、分かってんのか?」

「ちびっ子じゃねー。はりゅら」

「おう、ハル。どうだ、俺と手合わせしないか?」

「え、おっしゃんとか?」

「ハルちゃん、駄目よ。怪我しちゃうわよ」

「ばーちゃん、らいじょぶら!」

「心配すんな。怪我させねーよ」

「ハル、鬼王と手合わせだってよ! そんな事滅多にないぞ!」


 リヒトがウキウキしながら言っている。ハルじゃなくて、自分がしたいのじゃないか?


「お前さんもエルフか? なんだ、そこそこ強いじゃないか」

「これでもエルフ最強の5戦士の1人だからな」

「ほう、最強か! お前もやるか!?」

「俺はリヒトだ」

「では、リヒト。武器なしで体術のみだ! 強化はしていいぞ」

「おう!」


 あらあら、リヒトはやはりやりたかったんだね。2人して、庭へと下りて行く。リヒトは肩を回してやる気満々だ。


「リヒト様、気をつけて下さい」

「ルシカ、心配いらないさ。手合わせだ」

「さあ、来い!」

「おう!」


 リヒトの体術はあまり見る事がない。いつもは剣で戦っている。だが、流石に最強の5戦士の1人だ。身軽にジャンプし3メートルはあるだろう鬼王の懐に飛び込んだ。


「お、いけるじゃねーか!」


 そう、言いながら軽く躱わす鬼王。


「躱されてるけど……な! と!」


 すぐさま体勢を変え、今度は足元を狙い蹴りを入れるリヒト。


「おう、なかなかいいぞ」

「くっそ、デカイなー!」


 リヒトがまたジャンプし頭を狙った。


「最近のエルフはこんなに動けんのか!? 昔は遠くから弓を射る程度だったぞ」

「今でも弓は使うさ」


 リヒトがパンチや蹴りを入れようとしても、悉く腕でガードされてしまう。とにかく大きさが違いすぎる。大森林の超大型クラスだ。だが、大きさだけではない。どれだけ強いのか計り知れない。リヒトの攻撃を躱しながらも、鬼王はまだ一歩も動いていないんだ。


「ハル、お前も来い!」

「え? おっしゃん、いいのか?」

「いいぞ! ちびっ子とエルフが一緒にかかって来ようがどうって事ないぞ!」

「よし、いくじょー! こはりゅ!」

「はいなのれす!」

「お? なんだ? 聖獣か?」


 鬼王は余裕だ。話しながらでも確実にリヒトの攻撃を躱している。


「あー! 入んねー!」

「ワハハハ! なんだ、もう降参か!?」

「ハル! そっち側狙え!」

「よし! とぉっ!」

「やるなのれす!」


 ハルとコハルが高くジャンプした。同時にリヒトも反対側からジャンプして狙いをつける。

 リヒトが鳩尾を狙って蹴り付ける。コハルが顔面を狙って回し蹴りを仕掛ける。

 そして、ハルちゃんの必殺技ドロップキックが炸裂だ。


「どうだ!」

「どーん!」

「ちゅどーーん!!」


 鬼王は両腕でガードしているものの、同時に両側から攻撃されて1歩後退りした。たった1歩だ。


「おお、スゲーな! お前ら強化か」

「当たり前だ! デカイからな」

「その小さい聖獣は強化だけじゃねーな。重力か!?」

「当たり前なのれす! 強いなのれす!」

「ハルも強化と重力だな!?」

「しりゃねー」

「アハハハ! 知らんか!?」

「はいはい、もういいでしょう? 脳筋なんだから」


 アヴィー先生が止めに入った。


「エルフがこんなに動けるとは思わなかったぞ。そこのエルフの美人さん。鞭はやめような! ワハハハ!」


 どうやら、ミーレが鞭を手にしていたらしい。ミーレ姉さんもやる気だね。アヴィー先生とカエデが呆れている。


「ミーレ姉さん、やる気やったんや」

「もう、あなたまでなぁに?」

「ハルを守る為ですよ」

「ハル、お前は良い子だ! 大きくなるんだぞ!」

「おっしゃんもな!」


 いやいや、ハルちゃん。鬼王はもう大きいから。

 肝心の鬼人族のヤセさん。圧倒されて固まっているぞ。


「今の世にこの社が必要かは分からんが、鬼人よ」

「は、はい」

「祀ってくれるなら有難い事だ。族長に宜しく伝えてくれ。結界はもうない事だしな!」

「は、はい! ありがとうございます!」


 一段落だ。皆、お茶を出してもらって和んでいる。


「あ、このお茶……」

「ハルちゃん、どうしたの?」

「ばーちゃん。こりぇ、緑茶ら」

「緑茶って言うの?」

「紅茶よりスッキリしていますね」


 ルシカが一口飲んで感想を言っている。この茶葉も貰って帰るか?


「紅茶と同じ葉っぱなんら。けろ、ちげーんら」

「ハル、よく分かりませんよ?」

「ん、なんかちげーんら」


 ハルちゃんの緑茶の知識はそこまでだったね。しかし、鬼人族の里といいハルに馴染みのものばかりだ。


「鬼王よ、この社は瘴気を浄化する役目もあると聞いたのだが?」


 長老が聞いている。瘴気の浄化は大切だからな。


「おう、そうだな。だが、エルフがそれも対処しただろう?」

「魔石で浄化しております。しかし、この辺りは浄化する魔石まで遠いんだ。このまま、浄化してもらえると良いと思ってな」

「お前さんはエルフでも特に長生きだな」

「ワシは長老でラスター・エタンルフレと申します」

「なるほど。魔力量も多い。ハルと繋がりを感じるぞ」

「ハルはワシの曽孫だ」

「そうよ。私達の可愛い曽孫よ」

「なんだ、夫婦か! 通りでどちらもハルと繋がりを感じる訳だ」

「じーちゃんとばーちゃんら」

「ハルは楽しみだ。大きくなったら、また来るといい」

「ん」

「浄化も変わらずするぞ。心配いらん」

「ああ、頼みます」

「あ、あの。鬼王様。族長から土産を持たされていました」


 と、鬼人族のヤセさんが風呂敷包みを出した。

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