第279話 番外編 ちゅどーん! 5

 長老が狐さんにシュシュを紹介する。


「ああ、白い虎の聖獣でシュシュと言う。ハルとリヒトを守護してくれているんだ。わしはエルフ族の長老だ」

「なぁにぃ? あたし、そんなに珍しいかしら?」

「聖獣……だから話せるのですね。真っ白な体毛が美しい……いえ、神々しい」

「ふふふ、よく分かっているじゃない。こんな時でもあたしの魅力が……」

「で、鬼人族が祀りたいと言っているが……」

「また、リヒト! あたし、まだ喋ってんの!」

「ああ、シュシュ悪い。祀られる事は良いのか?」

「それはもう有難い事ですわ。鬼王の力にもなります故」

「その鬼王とは、こちらにおられるのか?」

「鬼王とお呼びしてはおりますが……そうですね、言うなれば鬼の守護神と言う方が近いかと」

「なるほど。だから祀られておるのだな」

「はい。遥か太古からこの地にあり、鬼人と狐人を守護しております」

「きちゅねしゃん、もう結界はいりゃねーじょ」

「ふふふ、そうみたいですね。ハルちゃん」

「ん、龍王しゃまはみんなやしゃしいんら。おりぇ達は今おばばしゃまの家に世話んなってんら」

「おばば様ですか?」

「しょうら。龍王しゃま達のおばばしゃまら」

「その様な方がおられるのですね」


 さっき尻尾を見せていた狐さんがハルと戯れている。もう、仲良くなったらしい。


「かぁいいなぁ。こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」


 と、また歌いながらしきりに撫でるハルちゃん。


「ハルちゃん、それ好きやな」

「こぎちゅねしゃん、かぁいいんら」

「ハルちゃん、子狐じゃないわよ。1000年生きているわよ」

「え……」

「そうやんな、天狐って言うてたやん」

「まじ……」

「ハルちゃん、マジやで」

「ハルちゃん、小さいから子狐だと思ったのね」

「らって、小っさいじょ」

「ハルちゃん、大きさじゃないわね」

「しゅしゅ、しょうなのか……」

 

 少し残念そうなハルちゃん。それでも、狐さんをナデナデする手は止まらない。狐さんも心地良さそうに大人しく撫でられている。


「れも、かぁいいなぁ~」


 可愛いものは仕方がない。


「こぎちゅねこんこん、やまのなかぁ、やまのなかぁ♪」


 またその先を歌ってくれない。気になるじゃないか。

 そんな和やかな空気の中、長老とリヒトが一早く反応した。


「長老!」

「リヒト、待て」


 一体何だ? すると、御簾が掛けられた部屋の向こうから大きな気配が近付いて来た。

 話をしてくれていた狐さんが部屋の隅へと避ける。

 部屋の中に大きな風が起こり渦を巻き、掛けられている御簾を押し上げた。


「おうおう! 客人なんて珍しいじゃねーか!」


 狐さんは部屋の隅に避けたまま、頭を低く下げている。

 偉く態度のデカイ鬼さんがやってきた。背丈は天井ギリギリだろうか。頭には立派な角が5本も生えていて口元には大きな牙も見えている。どしんと音を立てて胡坐を組んで座り込む。


「お前達はエルフ族か?」

「確かに、わし等はエルフだが、そこにいる鬼人族の使いできたんだ」


 鬼のヤセは冷や汗を流して、ただ大人しく座っている。


「鬼人族……おう、よく結界を通れたもんだ」

「おりぇがしゃわったりゃ、簡単に壊りぇたじょ」

「なんだ、ちびっ子。変わった魂だな。ハーフか?」

「くおーたーら」

「そうか? 混ざり様はハーフだが?」

「おっしゃんはなんら?」

「ガハハハ! おっさんか!?」


 笑うのも豪快だ。笑う度に軽い風が巻き起こっている。


「おっしゃん、なんら? なんか変らな。身体が変じゃねーか?」

「ちびっ子、分かるのか? この部屋に入るように小さくなってんだ」

「おぉー! しゅげー!」

「ガハハハ! 凄いだろう! ちびっ子、お前加護を授かっておるな」

「おっしゃんわかりゅのか?」

「おう、俺は偉い鬼だからな」


 ハルちゃん、おっしゃんじゃなくてね、偉い鬼さんらしいよ。


「あの……申し訳ありません。突然で……」


 部屋の隅に控えていた狐さんが謝っている。それよりも、説明してもらおう。


「このお方は此方でお祀りしている鬼王と呼ばれるお方なのです。気まぐれで、いつもは居られないのですがどうやら興味を持たれた様です」

「鬼王か!?」

「おう! 俺の事だな! 俺程の鬼になると真名は明かさねーんだ」

「おりぇは、はりゅら!」

 

 そう言って元気よく片手をあげるハルちゃん。

 ハルちゃん、聞いていたかな? 自己紹介の場じゃないんだよ。


「ワハハハ! ハルか! こっちこい!」


 鬼王に呼ばれて、ハルがトコトコと近寄って行く。すると、ヒョイとハルを片手で抱き上げ自分の膝の上へと座らせる鬼王。


「でっけーな!」

「本当はもっとデカイんだぞ」

「しゅげーな!」

「そうだろう! そうだろう!」


 ご満悦な鬼王さん。ちびっ子が好きなのか? 子煩悩なのか?

 大きな体に角が5本、しっかり牙も見えている。なのに、何故か怖い印象を受けない。王と崇められる程の者は懐が深いのか。


「鬼王様、こちらの鬼人族の方々が祀りたいと申しております」

「おう、好きにするがいいさ。もう昔ほど、この社も必要ないだろうがな」

「それはどう言う意味だ?」

「エルフが1番よく分かってんじゃねーか?」

「それは、瘴気を浄化する事ですかな?」

「ああ、そうだな。それにだ。昔ほど、ドラゴン達が暴れることもないだろう」


 鬼王は分かっていた様だ。なのに、狐さんは知らなかったぞ。



   ※ _  ※ _  ※


ハルちゃんが歌っているのを想像しながら読んで頂けると嬉しいです!(๑˃̵ᴗ˂̵)

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