第278話 番外編 ちゅどーん! 4
広い部屋に通された。部屋の奥は御簾の様な物がかけられていて高さの半分だけ上げてある。その奥には幾つも鬼の像があるのも薄っすらと見える。
「私はこの場を管理しておりますウカと申します」
ほらほら、いつまでも驚いてないで鬼さん出番ですよ。
「お、俺は鬼人族族長の息子でヤセと申す。この地には鬼王が祀られているのか?」
「はい。鬼人と狐人の里が出来る前からこの地にあり邪気を祓う役目を担っております。また、2つの里を守護しております」
「今まで結界があって立ち入れなかったが、我等の族長が祀りたいと言っている」
「それは僥倖にございます」
「ここはどうしてこんなに強固な結界が張られていたのかしら?」
アヴィー先生が話に割って入ってしまった。聞きたくてウズウズしていたのだろう。
「あなた方はエルフ族ですか?」
「ええ、そうよ」
「それは珍しい。こんな場所にエルフ族が……」
「守護していたって、この場所がかしら?」
「そうです。ドラゴンの里が近くにありますので」
「ドラゴンが関係するのか?」
「はい。彼等が暴れるとひとたまりもありません」
「あぁ〜、なるほど。しかし今は国となっているぞ……龍王達は自分達の力をよく理解していて、滅多な事では暴れたりしない」
「龍王……?」
「そうだ。竜族の国を治めている。わし等も世話になっている」
「まあ……穏やかになったのですね。俄には信じられない事です」
ドラゴン達は昔、一体何をしていたのだろう?
「それはもう酷いものでした。気に入らないものはドラゴンブレスで焼き尽くす様な……」
「ありゃりゃ」
まだ各国が国と言う形を成すずっと以前の話だそうだ。
現在は龍王が交代で竜王の地位につきドラゴシオン王国を治めているが、太古は国もなかった。最強のドラゴンを慕って同じ竜族が集ってはいたが国と言えるものでは到底なかった。
そんな、太古の話だ。部族間での争いが起こるとドラゴンは勢いに任せて暴れ回りドラゴンブレスを放っていたそうだ。そんな事をされたら一溜まりもない。まるで天災だ。
そんなドラゴンの脅威から守る為、そして瘴気を浄化する為に鬼王の社が建てられたそうだ。
「今はもうその様な事などないぞ。わし等も交流しているが、協力的だしこのハルも可愛がってくれている」
「ハル……」
「あい、はりゅら」
ハルが小さな手をヒョイと挙げた。
「ん……?」
狐さんがきょとんと首を傾げている。
ああ、ハルの辿々しい言葉を理解できていないらしい。
「はぁーりゅー!」
「ああ、ハルですね」
久しぶりだ、この掛け合い。最初の頃のリヒトを思い出す。
「それで、鬼人族と狐人族の里を守っておったのか」
「はい。生き物が生きていく上で、必ず多少の瘴気は生まれます。その瘴気を浄化する役目を担っております」
「まあ!」
「アヴィー、これはとんでもない発見だぞ」
「ええ、長老! ワクワクしちゃうわ!」
「は……?」
またまた、首を傾げている狐さん。そりゃあ、アヴィー先生の反応は知っている者にしか理解できないだろう。
「おりぇりゃも瘴気を浄化してたんら」
「瘴気を浄化? そんな事がエルフ族にできるのですか?」
「できるのだよ」
「……なんと! 世の中変われば変わるものなのですね」
「そんなに不思議な事か? 古代エルフは魔石を設置して各地の瘴気を浄化しておった」
「まあ、そんな事を……結界の中に籠っている間に色々な事が起こっていたのですね」
一体、どれだけの年数を過ごしてきたのか? 古代エルフの遺跡だって、かなり太古のものだった。
「ここはそれ以上に古いという事なのね?」
「はい。定かではないのですが……数千年以上……いえ、数万年に近いのかも知れません」
「これはまた……それだけの年月をここに籠って過ごしてきたのか?」
「はい。まだ世界は瘴気が漂い、国と言うものも形を成しておりませんでしたから。強いて言えば……エルフ族は大森林に集まっておりましたか」
「なんと……!」
「私は初代ではないのです。鬼王にお仕えしておりますのは私で2代目になります」
その時、部屋の入口にひょこひょこと白い尻尾が見えた。フリフリと揺れ動いている。
「きちゅねしゃん!?」
目ざとく見つけたハルちゃん。
「おいれー」
そう言いながら手を出している。
見つかってしまったと、躊躇っている白い狐さん。
「あら、尻尾があるのね」
「ばーちゃん、尻尾が四ちゅら」
「あの子はまだ天狐です。なので尻尾があるのですよ」
「おばばしゃまのとこにいたのももうしゅぐ天狐らって言ってたな」
「あのハルちゃんを誘惑しようとした狐ね」
「まあ、天狐がですか!?」
「そうなのよ。ハルちゃんの魔力目当てだったのよね」
シュシュがそう言うと、空狐は目を大きくしてシュシュを見ている。
珍しいのか? 確かに白い虎の聖獣は珍しいと言うが。
※ _ ※ _ ※
遅い時間になってしまいました。気付いてもらえたら嬉しいです!
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