第277話 番外編 ちゅどーん! 3
「ハルちゃん、めっちゃ強いやん!」
「また瞬殺じゃない」
「えー、しゅしゅがさっきよりちゅよいって言ったんらじょ」
「だって、さっきよりは強かったでしょう?」
「まーなー」
「ちょびっとだけなのれす」
「アハハハ! ちょびっとかよ!」
「ハルとコハルには敵いませんね」
ちょびっとだけ強かったそうだよ、尻尾を丸めて伏せている狛犬くん。
「……我等は守護するものなり」
「……邪気を祓うものなり」
「わし等は鬼人族の族長に頼まれて来たんだ」
長老が、狛犬さん達に話しかける。
「……鬼人族とな」
「……鬼とな」
「族長が祀りたいと言っていたぞ」
「……何とな!?」
「……祀るとな!?」
狛犬さん達が顔を見合わせている。何やら相談しているみたいだぞ。
「……それを先に」
「……言って欲しかった」
「……鬼の王なり」
「……進むとよい」
狛犬さん達は、交互にしか話してはいけない決まりでもあるのか?
狛犬達が道を開けると、そこには小さいが立派なお社があった。
「おー、神社じゃん。ありぇ?」
「ハル、分かるのか?」
「ん、前の世界にあったんら。けろ、ちょっちちげー」
「ハルちゃん、どう違うの?」
「わかりゃんけろ、ちげー」
「分かんねーのかよ!」
「らってりひと、覚えてねー」
「そうかよ!」
ハルがちょっと違うと感じたのも無理はない。ハルの前世では権現造と呼ばれていた建物に近かったからだ。例えば、日光にある有名武将が祀られているところがそうだ。
そこは、壁の装飾に沢山の鬼が彫り込まれていた。欄間と呼ばれる鴨居(かもい)や長押(なげし)と天井のあいだにはめ込む板にも鬼を透かし彫りしてある。柱の上部にも、屋根の上にも鬼の飾りが施されている。
正面の屋根には千鳥破風もあり、そこにも鬼の彫刻が見て取れる。神社と寺を併せた様な趣があり、有名なお猿さんの代わりに鬼さんが沢山彫り込まれ装飾してある。
「しかし、本当に沢山の鬼が彫られているな。さっき鬼の王と言っていたし」
「ここは、鬼王が祀られているのです」
「ありゃ、きちゅねしゃんか? れも、尻尾がねー」
いつの間にか、目の前の建物に、狐人が立っていた。服装は僧侶の様な恰好をしている。形は法衣だが、丈が引き摺る程長く色も白だ。そして、ハルが言っていた様に尻尾がない。狐さんの耳だけだ。しかも白く絹糸の様な長い髪をしている。中性的で性別が分からない。
「あら、尻尾がないのね。でも、天狐なの?」
「天狐じゃないなのれす。とっても古い空狐なのれす」
やはり、コハルには分かるらしい。
「こぎちゅねコンコンじゃねーじょ」
ハルちゃん、狐さんを可愛がっていたからね。
「コハル、空狐とはなんだ?」
「天狐は1000年、空狐は3000年以上生きているなのれす」
「わしより長生きか! ドラゴン以外でそれはなかなかお目にかかれんぞ」
「空狐までになると性別もなくなるなのれす」
なるほど、珍しいんだね。でも、コハルが動じていないと言う事は……
「まだまだなのれす!」
コハルの方が格上だったらしい。
「ご案内致します」
コハルが空狐だと言った狐人に案内されて、一行はお社の中へ。
「こちらで履物をお脱ぎ下さい」
「ハル、脱げる?」
「みーりぇ、にゅげねー」
「座りなさい。脱がせてあげるわ」
「ありがちょ」
ミーレに靴を脱がせてもらいながらハルは建物を見回す。
「鬼しゃんがいっぱいら」
「本当ね、あたしこんなの見た事がないわ。珍しいわね」
色んな場所を見てきたシュシュでさえ見た事がないと言う。
「ハル、いいわよ」
「ありがちょ」
案内されて、一行は奥へと入っていく。お社の柱や梁などにも鬼が彫り込まれている。天井にも、鬼の絵が全面に描かれている。ハルが短いぷくぷくした指で指差す。
「赤鬼しゃんと青鬼しゃんら」
「これは見事だな。素晴らしい」
赤鬼も青鬼も上半身裸形で、筋骨隆々。頭には対の角があり、口元には鋭い牙が見えている。厳つい顔で凄んでいて、手に持った大きな刀を肩にのせている。
「本当ね。でも長老、見た事がない画風だわ」
「この地域は食べ物もそうだが、服装や建物も独自の文化が発展したのだろう」
「とっても興味深いわ。それに、ここはとても古いわね」
「ああ。数千年ではなく、下手したら数万年かも知れんぞ」
「鬼しゃんらからって悪いやちゅじゃないんらな」
「ハル、鬼は悪いのか?」
「前の世界らとわりゅく言われりゅ事が多いんら。昔話にもありゅ。鬼はぁ〜しょと。て、言いながら豆まくんら」
「鬼は外?」
「しょう。せちゅぶん、て言うんら。豆撒きながら、鬼はぁ〜しょと、福はぁ〜うち。て、言うんら」
ハルが小さな手で撒く振りをする。
「ハルちゃん、可愛いわ」
「ほんまに色々知ってるんやな」
「かえれ、ふちゅうら」
「そうなん?」
「ん、しょうら」
「ほう、この世界で鬼は1つの種族だな。わし等エルフ族と同じ意味合いだ」
「しょうなんら」
「だが、彼等はめったに姿を見せない」
「そうなのよ。だから、何も分かっていなかったのよ。今回、こんなに交流できたのは奇跡だわ」
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