第276話 番外編 ちゅどーん! 2

「なぁ〜にぃ、偉そうな事を言っておいて瞬殺じゃない」

「まらやりゅか?」

「やるなのれすか?」


 いやいや、もう狛犬さん勘弁してやってほしい。尻尾を丸めているじゃないか。


「……こんなに強いとは!」

「……思わなかった!」

「じゃあ、通ってもいいわね?」


 アヴィー先生、行く気満々だ。


「……これでお終いではない」

「……我等はまだ序の口」

「なんらって?」

「まだ何かいるなのれすか!?」


 2頭は、それだけ言うと道を開けた。もう動かないらしい。

 その先には、奥へと続く石畳の道が現れた。緩やかな上り坂になっていて、道の両側には高い木々が立っている。まるで神社の参道の様な趣だ。


「さ、行きましょう!」

「アヴィー、分かっているか?」

「え? 長老、なぁに?」

「あの口ぶりだと、先にまだいるぞ」

「大丈夫よ。エルフ族最強の戦士がいるじゃない」

「こんな時だけ俺かよ!」


 うん。リヒトがツッコミたくなる気持ちもよく分かる。

 暫く道を進むと、空気が澄んでいくのが肌で感じられる。


「なあなあ、ハルちゃん。なんで端っこばっかり歩くん?」


 ハルが1人で道の端っこをトコトコと歩いているのでカエデが聞いてきた。


「かえれ、知らねーのか?」

「あたしも知らないわ」

「ハル、わしも知らんぞ。どうしてだ?」

「前の世界でらけど、お社に向かう道の真ん中は神様が通る場所なんら」

「ハルちゃんは物知りなんやぁ」

「ほう、それは聞いた事がないな。なあ、アヴィー」

「そうね、ハルちゃんがいた世界だとそれだけ神を敬う気持ちがあるのね」

「ん~、しょんな人もいりゅし、そうじゃない人もいりゅ」

「そんなもんだよ、ハル」

「じーちゃん、しょお?」

「ああ、そうだ。色んな人がいて当然なんだ。自分とは違う人がいる。それを差別したり虐げたりしてはいかん」

「そうね、違って当然なのよ。皆同じだったら、その方がよっぽど怖いわ」

「ほんまやな」

「しょうらな」


 そんな話をしながら歩いて行くと、また結界があった。


「まただわ。よっぽど守りたかったのね?」

「隠したかったんじゃないかしら?」

「アヴィー、シュシュ、両方だろう」

「そうかしら?」

「ああ。でないと、これほど強固な結界を幾つも張る必要がないだろう」

「そっか。そうね」


 おや? 研究者であるアヴィー先生より、長老か? 年の功か?


「じーちゃん、しゃわりゅじょ」

「おう、ハル。気をつけるんだぞ。絶対にまた何か出てくるぞ」

「おー」


 ハルちゃん、聞いてたかな? 何か出てくるよ? 緊張感が全くないけど大丈夫かな?

 気にも留めない様子で、ハルはまた結界に触る。そして、やっぱり白い光を放ちながら結界は壊れた。


「ふむ。ハルの加護が原因か」

「あら、そう?」

「アヴィー、この空気だ。神域みたいなもんだろう。世界樹や創造神の加護が関係しているのだろうな」

「そうね」


 アヴィー先生、本当に分かってる?


「ハル、出てきたぞ」


 リヒトが言う様に、両側から1頭は体色が黄色く口を開いていて、もう1頭は体色が白く1本の角があり口を閉じている。また対の狛犬さん登場だ。最初の狛犬さんの倍はある大きさだ。体の大きさから見ても、犬と言うよりは獅子だ。


「……我等はこの場を太古から守ってきたものなり」

「……結界を破ったのはお前だな」

「めんろーらな」

「やるなのれす!」


 コハル、やる気だね。


「ハル、俺が片方片付けようか?」

「りひと、らいじょぶら」

「怪我すんじゃねーぞ」


 せっかくのエルフ族最強の戦士も出番が無さそうだ。


「こはりゅ! いくじょ!」

「はいなのれす!」

「ハルちゃん、コハル先輩気をつけて! さっきの奴等より強いわよ」

「え、しょうなのか?」


 あらら? ハルちゃん、もしかして分かっていなかったのかな?


「さっきより強いわよ」

「しょっか。じゃあ、りひと、片方おねがい」

「おう、任せとけ。ルシカ」

「はい! 分かってますよ!」


 やっと出番だ。リヒトが剣に風魔法を纏わせ、ルシカが風魔法で作った矢を番えた弓を構える。


「ルシカ兄さん、自分も!」

「カエデ、止めとけ。邪魔になるぞ」

「ん……分かった」

「こはりゅ、こっちのやりゅじょ」

「はいなのれす」


 なんか、締まらないハルとコハル。1頭に集中する。


「よし! 今度こしょ、いくじょ!」

「やるなのれす!」

「ルシカ!」

「はい!」


 リヒトが走り出すと、ルシカはマジックアローを足目掛けて放ち足止めする。そこに、リヒトが畳み掛ける様に剣で攻撃する。

 コハルがもう1頭の鬼さんの頭を目掛けて飛び蹴りを入れる。


「どーん! なのれす!」


 そこへすかさずハルちゃんの必殺技が決まった。


「ちゅどーーん!!」


 リヒトとルシカの手を借りたとは言え、まあ瞬殺だ。狛犬さん達がまたまた尻尾を丸めて伏せている。


「……こんなに強いとは!」

「……思わなかった!」


 鬼さんのヤセは突っ立って、またポカンと口を開けたままだ。

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