第275話 番外編 ちゅどーん! 1

 鬼さんがミーレに恋した事はさておき。この鬼さん、ドラゴシオン王国の山奥に住む鬼人族の族長の息子だ。

 名前をヤセと言うそうだ。まだ、チラチラとミーレを見ている。可哀想に、ミーレは興味がないようだ。全く気付いていない。

 その族長が話があるとハル達一行を呼び寄せた。

 一行は招待に応じ、鬼人族の里にやって来た。そして、族長に会ったハル達一行。


「世話になったのに呼び出してすまん事だ。実は頼みがあってな。もしやと思って来てもらったんじゃ」


 と、族長の鬼さんが話し出す。話し方は穏やかで翁の様な言葉を使う。だが、筋骨隆々。髪も真っ赤だ。頭には立派な角が2本ある。

 鬼人族の族長は最強の者がその地位に着くと決まっているらしい。竜族も確かそうだった。ドラゴシオン王国ではそれが普通なのか? 力が1番なのか?

 この族長が話すには、困っている訳ではないのだそうだ。ただ、ずっと昔からそこにあるから気になるのだと。もしも、祀る方が良いものならちゃんと一族で祀っておきたいと。

 鬼の里よりもまだ奥へと山に入って行くそうだ。周りは高い木々が生い茂っている。

 その中に結界が張られているらしく通る事のできない場所があるのだそうだ。

 そこを調査してほしいらしい。


「わしらではその結界をどうする事もできんのだ。妖狐の力でも無理じゃった。しかし、ハイエルフの方々なら何か分かるやもと思ったんじゃ」

「ハル、どうする?」

「じーちゃん、もうばーちゃんの目がきりゃきりゃしてりゅじょ」

「ああ、アヴィーはな……あれは治らんな」

「ばーちゃん、行ってみりゅか?」

「ハルちゃん、こんな機会を逃すなんて考えられないわ」

「らって。じーちゃん、りひと行こっか」

「仕方ないな」

「ま、アヴィー先生だからな」


 と、言う事でヤセと言う鬼さんに案内されて一行は山の奥を目指す。


「長老、変わりますよ」

「いや、わしが抱っこしていく」


 山道だからイオスがハルの抱っこを変わろうかと声をかけるが、長老はハルを抱っこして行くらしい。可愛い曾孫だからね。

 そうして、目的地に到着したらしい。

 目には見えないが、そこには強固な結界が張られていた。


「確かに結界があるわね」

「ああ、なかなか強固な結界だな」

「アヴィー先生、長老、分かるのか?」

「リヒトは分からないの? まだまだね」


 あらら、リヒト。言われちゃった。


「アヴィー、この結界はどうなんだ?」

「私たちには無理じゃないかしら。何か……守っているのかしら? とても古い結界なのに弱っていないもの」

「ばーちゃん、しょうなのか? とぉっ」


 と、長老の手から飛び降りてハルがトコトコと結界の張られている場所へと歩いて行く。もう長老は突然ハルが降りても慣れっこだ。そして、ハルが何気に結界へ触れた。


「お……!?」


 ハルの小さな手で触れると、結界が揺らぎパキーンと割れる様な音がして眩しい光と共に結界が壊れた。


「ありゃりゃ」

「ハル……」

「まあ! ハルちゃん、やっちゃったわね」

「え? なんれら? おりぇ、ちょぉっと触ったらけだじょ」


 鬼さんがポカンと口を開けている。何が起こったのか頭が追っつかないのか?


「まあ、ハルだし」

「リヒト、そこで考えるのを止めるからあなたは進歩しないのよ」

 

 また、アヴィー先生に叱られているリヒト。もう、立つ瀬がない。


「ハルの魔力に反応しているのか? それともハイヒューマンの血か? いやいや、加護か?」


 結界を破る原因になっていそうな事が多い。だが、それどころではない。

 結界が壊れてなくなったそこに現れたのは大きな口をして牙をむき出しにしている大型の獅子に似た獣が2頭。

 片方は体色が黄色く口を開いている。もう片方は、体色は白く1本の角があり口を閉じている。どちらも体長1メートルほどあるだろうか。体毛を逆立て、低い唸り声を出しながらこちらを睨んでいる。守っていたのだろう。結界を壊したハルにロックオンだ。


「え、狛犬じゃん」

「ハル、何だって?」

「じーちゃん、狛犬ってんら。前の世界で神域を守っている犬しゃんら。邪気を祓うんらって」

「ほう、神域をか。守護神か? ハル、あれは犬ではないだろう」

「しょう?」

「ああ、どちらかと言うと獅子じゃないか?」

「まあ、しょんな感じら」


 ハルちゃん、よく分かっていないらしい。

 が、その狛犬らしき2頭がハルに挑んできた。


「……我等はこの場を太古から守ってきたものなり」

「……結界を破ったのはお前だな」

「ありゃ、喋った」

「ハルちゃん、聖獣よ。あたしなんかよりずっと、とんでもなく古い聖獣だわ!」

「しゅしゅ、しょうなのか?」

「……我等を倒さんと此れより先には通せん」

「……我等は邪気を祓うものなり」

「おー!」


 ああ、こんな時はハルちゃん張り切っちゃうよねぇ。


「よし! やりゅじょ!」


 ほら、まだ短い脚で屈伸なんてしながらやる気満々だ。


「ハルちゃん危険よ!」

「ばーちゃん、らいじょうぶら! こはりゅ!」

「はいな! やるなのれす! 生意気なのれす!」


 おや、狛犬達の態度がコハルは気に入らなかったらしい。て、事は、コハルの方が格上なのか?

 ハルが小さな体でタッタッタッと走り出す。そのままの勢いで、高くジャンプした。


「とぉッ!」

「やるなのれす!」


 そして、炸裂するハルちゃんの必殺技!


「ちゅどーーーん!!」

「どーーん!!」


 コハルまでドロップキックを決めている。

 瞬殺で2匹の狛犬をやっつけたハルとコハル。偉そうだった割にあっさりとやられちゃった狛犬達。尻尾を丸めて申し訳なさそうに伏せている。



  ※ ※ ※


読んで頂きありがとうございます!

このお話が最新話になります。

後はまだ煮詰めている途中なので^^;

不定期投稿になります。

宜しくお願いします!

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