第274話 番外編 鳥しゃん 6

「ぴゆ……ぴゆゆ」

「ん? ひーりゅしゅりゅか?」

「ぴゆー」


 お、鳥さん少し元気になったか?


「ひーりゅ」


 ハルが朝からこまめに鳥さんにヒールをかけている。少し鳴き声も元気になっていた。その鳥さんにまたヒールをした時だ。


「お、ハル。少し大きくなってないか?」

「いおしゅ、しょお?」

「またかよ。亀の時みたいにデカくなるんじゃねーか?」

「しょお?」

「なんか、色も金色が入ってめっちゃ綺麗になってへん?」


 カエデまで見にやって来た。


「カエデ! お前訓練は!?」

「イオス兄さん、そんなんソニル様強すぎるし。手加減なしやし」

「ふふ〜ん、カエデ。まだまだだね〜」


 そりゃあ、エルフ族最強の戦士に敵う訳がない。少しは手加減してあげてほしい。


「ねーちゃん、スゲーな! 俺もねーちゃんみたいになりたいわ!」

「そうか? ソラ、そんなん言うたら照れるにゃあ」


 ベースにいる間、弟のソラはカエデから離れようとしなかった。常にカエデのそばにいた。カエデとの絆を取り戻そうとでもしているかのようだ。カエデより2歳半下だと言う弟。その割にはまだ小さい。


「ソラはなぁ、先ず沢山食べるんやで。きっと今までより食べられる様になるからな。そしたら、自分で訓練するんや。父ちゃんの手伝いもな。勉強も忘れたらあかんで。ねーちゃんもまだ勉強してるからな」

「ねーちゃんもか?」

「うん。訓練もしてるし、勉強もしてる。みんな教えてくれるんや」

「そっか。俺、頑張るわ」

「けど、無理したらあかんで」

「うん! ねーちゃん、また直ぐに会えるやんな?」

「いつでも会えるで。これからは前より近くなるからな」

「待ってるな!」

「それまで、ねーちゃんの分も父ちゃんと母ちゃんの事頼むな」

「任せてや!」


 そうだ。いつでも会いに行ける。カエデが攫われる時、幼い弟を庇ったと言う。その弟がソラだ。良い子に育っている。


「ソニル、お前何してんだよ。ちょっと手伝えよ」


 リヒトがソニルを呼びに来た。


「えぇー、僕の分はもう全部処理したよ?」


 どうやら、アンスティノスに移住する獣人達の書類仕事が残っているらしい。


「ソニル様、アンスティノスに移ったらどうなるん?」

「ん? そうだね。先ずは家だよね。あちらでも用意してくれているけど、足らないんだ。領主の別邸があるらしくて、そこで世話になりながら家を建てるんだ。それから、其々の集落毎に小麦畑が分けられるんだよ。そこで作った小麦は領主が全部買い取ってくれるからね。最初は大変だろうけど、生活は楽になるよ」

「畑できるんや」

「ソラくん、そうだよ」

「今までは土が痩せてるから野菜が育てへんて父ちゃん言うてた」

「あの辺はそうだろうね」

「だから、父ちゃん達は狩に出てたんや。危ないけど、食べる物がなかったから」

「そんな危険な事はしなくてよくなるよ。防御壁の中で安全に暮らしていけるさ」

「そうだな。ソラ、しっかり食べて大きくなるんだぞ」

「うん、リヒト様」

「ぴゆぴゆ」

「ん? あれ? ハル、こいつ大きくなってないか?」

「ひーりゅしたりゃなった」

「出たよ。また亀みたいになるんじゃねーか?」

「アハハハ。リヒト様もそう思うッスか?」

「イオス、そりゃそうだろ。なんせ、ハルが保護したんだ」

「けど、ハルちゃんはよく見ているわ。あたしなんて鳥の巣があるのも気付かなかったもの」

「まあ、シュシュとは目線が違うよな」


 いやいや、ハルだって、小さい。シュシュと大して目線の高さは変わらない。だが、ハルは何にでも興味津々なのだろう。気になったら確認しないと気が済まない性格も影響している。


「こはりゅ、ひーりゅらけれいいのか? 腹へりゃねー?」

「神鳥に食べ物は必要ないなのれす」

「代替わりってなんら?」

「フェニックスは不死鳥なのれす。寿命がきたら自らを炎で包み燃やして灰にして、その灰から新しく雛として蘇るなのれす。それが代替わりなのれす」

「ほぉ〜」

「すげーやん」

「で、何で弱ってんだ?」

「分からないなのれす」


 コハルに分からないものが、ハル達に分かる訳もなく。ハルは根気よくヒールをかけ続けていた。

 そして、カエデの家族がアンスティノスへ転移する日となった。


「カエデ、また会えるよな?」

「会いに来てね」

「ねーちゃん」

「大丈夫や。前より近いし」


 カエデを両親と弟は抱きしめた。


「父ちゃんも頑張るわ」

「カエデ、身体に気をつけてね」

「ねーちゃん、またな」


 新しい土地へ、旅立ちの時だ。以前はヒューマン族に迫害され、防御壁の外へと逃れて集落で貧しい生活をしていた。だが、これからは違う。獣人の領主の元で再出発だ。


「自分も頑張るわ。父ちゃん、母ちゃん、ソラ、身体に気をつけてな。絶対会いに行くからな。長老、ソニル様、宜しくお願いします!」

「カエデ、大丈夫だよ」

「おう。また直ぐに会えるさ」

「うん」


 そうして、カエデの家族とソニル達は転移して行った。

 そして、その日の夜。ハルちゃんはまだベースの裏で鳥さんにヒールをしていた。


「なんら?」

「ハル、どうした?」


 その日、何度目かのヒールをハルがかけた時だ。白い光の中から白鳥大の真紅の鳥が羽ばたいた。金色の長い尾とかぎ爪を持ち黒い目をしていて、尾は孔雀と同じくらい長い。羽は闇の中で輝き、尾は熱を持っている。


「うわ〜! しゅげー!」

「元気になったなのれす!」

「スゲーな」


 フェニックスが羽ばたくとキラキラと火の粉の様な煌めきが舞い散る。正に神鳥。フェニックスだ。


「ハル、ありがとう」

「喋ったじょ!」

「神鳥なのれす。喋れるなのれす」

「どーってこちょねーよ。元気になってよかったじょ」


 ――キューー!!


 フェニックスは、ベースの真上を数度旋回し、大森林の奥へと飛び去って行った。


「なんか、良いもん見たな」

「リヒト様、綺麗でしたね」

「なんだ? 皆、こんな時間に裏で何しとる?」

「じーちゃん!」

「長老、惜しかったなぁ」

「なんだ?」

「今さっき、フェニックスが飛び立って行ったのよ」

「なんだと!? そりゃ、惜しい事をしたなぁ」

「じーちゃん、めちゃ綺麗らった! ありがちょって言ってた!」

「そうか、そうか。ハル、良い事をしたな」

「ん!」


 ハルの性格なのか? 加護の力なのか? 亀さんの次はとんでもない鳥さんだった。

 まるで、アンスティノスへ移住する獣人達を応援する様だ。


「さあ、ハル。じーちゃんと、風呂入って寝よう」

「ん、風呂ら」

「シュシュ、風呂ですよ」


 ルシカとイオスに両脇を固められたシュシュ。これでも、聖獣だ。


「あたしはいいの! クリーンしてるからいいの!」

「はいはい」

「まあまあ」


 リヒトが管理するベースは夜まで賑やかだ。

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