第273話 番外編 鳥しゃん 5

 カエデが食堂へやって来た。小さな弟も一緒だ。


「ハルちゃん、起きたんや」

「かえれ、おやちゅら」

「ねーちゃん、おやつ?」

「うん。ソラも一緒に食べよ」

「ねーちゃん、いいんか?」

「いいさ! ほら、こっちに座りな」

「リヒト様、ありがとう」

「持ってきますね」

「ルシカ兄さん」

「カエデは座ってなさい」

「うん、ありがとう」


 カエデが弟を座らせる。その横にカエデも座る。


「よく似ているわ」

「ばーちゃん、三毛柄が一緒らな」

「そうね」

「ほんま? 似てるかな?」

「カエデ、そっくりよ。クリクリした少し猫目気味の目元がそっくりだわ」


 相変わらず、ハルの隣りを陣取っているミーレが言う。


「ミーレ姉さん、照れるにゃあ」

「アハハハ。カエデ、姉ちゃんなんだな」

「リヒト様、恥ずかしいって」

「あ、あの!」

「ん? どうした?」

「ねーちゃんをよろしくお願いします!」

「あら、しっかりしてるわねー」

「え!? ねーちゃん! もしかして、聖獣さまやんか!」

「そうよ、忘れたの? あたし、時々集落に行ってたわよ」

「忘れてへんで! 聖獣さまや!」

「なに、何? 賑やかだね」


 もっと賑やかな人がやって来た。


「ソニル、お前まだいたのかよ」

「リヒト、ほんっと酷いよ」

「ソニル様が一緒に付き添ってくれるねんて」

「ああ、アンスティノスへか?」

「うん。最後の人達が行ったら一緒に送ってもらうねん」

「そうか。転移の魔法陣があるからな。いつでも会えるさ」

「うん、リヒト様。ありがとう」

「さあ、どうぞ。おや、ソニル様とコニーも食べますか?」

「ルシカ、それ何?」

「おはぎら」

「ハルちゃん、おはぎ?」

「ん、あんこら。超うめーじょ」

「じゃあ、ルシカ。僕達も食べる」

「ソニル様、遠慮と言う言葉を知りませんか?」

「コニーも酷い!」

「お待ち下さい。お持ちしますね」

「ほら、ソラ。食べ」

「うん、ねーちゃん」

「かえれ、両親にも持って行ったりゃいいじょ」

「ハルちゃん、ありがとう」


 ハルちゃん、もう平気みたいだね。ハルが元気ないと心配だよ。

 ルシカが作った『おはぎ』好評だった。ハルはおかわりまでしていた。


「まんぷくらー」


 そりゃそうだ。餅米だからね。お腹が膨れる。カエデも、カエデの弟のソラも美味しそうに食べていた。ソラはまだ小さいし痩せている。あの集落では栄養状態も良くなかったのだろう。これからは、お腹いっぱい食べられる様になるさ。きっとな。

 その日は、長老がベースに泊まった。アヴィー先生は忙しいらしくエルヒューレに帰って行った。各ベースにもエルヒューレにも長老が転移の魔法陣を設置している。

 エルフ程の魔力があれば、誰でも使える。便利になった。それも、4カ国協定に対応する為だ。能力が高く万能なエルフは出番が多いだろうと予測しての事だ。


「ハル、寂しくなったら我慢するんじゃないぞ」

「じーちゃん」


 長老と2人、ベッドに入っているハル。長老がハルを抱き寄せる。今日は、シュシュはベッドの横だ。


「らいじょぶら」

「そうか?」

「ん……ちょっと思い出したらけら」

「だが、我慢するんじゃないぞ」

「ん、分かっちゃ」


 ハルはこの世界ではまだ幼児だ。幼児特有の体温で、幼児独特の匂いがする。しかも、身体はぷくぷくだ。


「可愛いのぉ」


 長老が呟く。


「じーちゃん、らいしゅきら」

「ワシもハルが大好きだぞ」

「ありがちょ」


 長老の胸元にゴソゴソと顔を埋めるハル。幸せであってほしい。辛い思いなどしてほしくない。

 長老やアヴィー先生だけでなく、リヒト達もそう思っている。

 部屋に置いた籠に寝かされているフェニックスの鳥さんが少し動いた。



「ぴゆ……ぴゆ……」

「ん……何だ?」

「ぴゆ……ぴゆ……」

「お……ハル。起きなさい」


 翌朝、長老が鳥さんの鳴き声で目を覚ました。


「じーちゃん、なんら?」

「ぴゆ……ぴゆ……」

「小鳥が目を覚ましたみたいだぞ」

「え……」


 長老に抱っこされ、ハルは籠を覗き込む。

 小さな目をパッチリ開けて鳴いている。赤茶色した小さな鳥さん。フェニックスだと言うが、そうは見えない。


「おお……元気になっちゃか?」

「ぴゆ……ぴゆ……」


 まだ、か細い力のない鳴き声だ。


「ハル、ヒールしてやりなさい」

「ん、ひーりゅ」


 鳥さんの身体が白く光った。


「ぴゆ……ぴゆ……」

「喜んでいるな」

「らな。もうちょっちょひーりゅしゅりゅか?」


 ハルちゃん、寝起きだからカミカミだ。


「ひーりゅ」


 また、鳥さんの身体が光った。すると、それまで赤茶だった身体が真っ赤に変わっていた。


「お、赤になったな」

「じーちゃん、赤の方がいいのか?」

「ハル、フェニックスと言えば金色と真っ赤で彩られた羽毛を持つ鳥だ」

「ほぉ〜」


 眼が覚めた鳥さんを入れた籠を持って、長老とハル、シュシュは食堂へとやって来た。ルシカの朝ごはんだ。


「りゅしか、腹へりまくりら」

「ハル、長老、おはよう。用意出来ていますよ」

「長老様、ハルくん、おはようございます」


 カエデの両親と弟もいた。長老に頭を下げている。


「よく眠れましたかな?」

「はい」

「俺、あんなフカフカの布団は初めてや!」

「そうか! そりゃ良かった」

「カエデだけでなく、私達までお世話になってしまって」

「いやいや。気にせんでいい。ついでた」

「ハルちゃん、鳥さん眼が覚めたん?」

「かえれ、しょうら。真っ赤赤になったじょ」

「ぴよ……ぴよよ」

「いや、ほんまや。何で? どしたん?」

「ひーりゅしたりゃ真っ赤赤になったんら」

「あれか? また普通の鳥さんじゃなかったんや?」

「しょうら。ふぇにっくしゅら」

「ふぇ?」

「カエデ、フェニックスだ」

「えぇ!? マジ!?」

「まじらじょ」

「ハルちゃん、すげーやん!」

「ふふん」


 ハルちゃん、カエデに凄いと言われて自慢気だ。

 さて、朝食も済ませてお馴染みベースの裏だ。長老はまた転移させる為に出掛けて行った。ハルとシュシュ、カエデに弟のソラ、イオスにミーレ。そして、何故かソニルとコニーもいる。


「カエデ! いつでもいいよ!」

「はいにゃ!」


 今日はソニルがカエデの訓練に付き合っている。何しに来ているんだ?


「ねーちゃん、すげー」

「ん、かえれはちゅよくなったんら」

「ハルちゃん、そうなん?」

「しょうら。最初は全然らったじょ」

「へぇー、ハルちゃんも強いん?」

「ソラ、ハルはカエデより強いぞ。カエデはハルに敵わないからな」

「すげー!」

「ふふん」


 ハルとソラが並んで座ってカエデの訓練を見学している。仲良くしていてお利口さんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る