第272話 番外編 鳥しゃん 4
ハルがお昼寝から起きると、そばにはシュシュと長老、そしてアヴィー先生がいた。
「ありぇ? じーちゃん、ばーちゃん」
「おう、ハル。起きたか」
「ハルちゃん、よく寝た?」
「ん、寝た……ちゅぎは、りゅしかのおやちゅら」
「ふふふ。決まっているのね」
「ばーちゃん」
ハルがアヴィー先生にポフンと抱きついた。どうやらハルの事を聞いて長老がアヴィー先生を連れて来たらしい。
「あらあら、ハルちゃん。どうしたの?」
「なんれもねー」
「ハル、恋しくなったか?」
「じーちゃん、しょんなんじゃねー」
「ハルちゃん、長老も私もいるわ」
「ん……おりぇ……」
「どうしたの?」
「おりぇ……抱きしめりゃりぇた覚えがねー……」
「両親にか?」
「ん……」
「ハル、だが赤ん坊だったハルを抱き育てたのは両親だぞ」
「ん……」
「身体が弱かったハルを育てたのも両親だ」
「じーちゃん……分かってりゅ」
「そうか?」
「ん、分かってりゅ。恨んでねー。恋しいのでもねー。ちょっと思ったらけら」
「何を思ったんだ?」
「おりぇが、こっちの世界に来りゅ前、いちゅ母しゃん父しゃんて呼んらかなぁ? て、思ったんら。たぶん、何年も呼んれなかった」
「……ハルちゃん」
「ばーちゃん、らからいっぱい呼ぶじょ。じーちゃん、ばーちゃんってな」
「ええ。ええ、ハルちゃん。いつでも何度でも沢山呼んでちょうだい。私達も何度でも呼ぶわ。ハルちゃん、てね」
「そうだ、ハル。ワシらの大事なハルだ。何度でも呼ぶぞ」
「あたしもー! ハルちゃ〜ん!」
シュシュがハルに抱きついた。そして、大きな舌で、ベロロンと。
「しゅしゅ、やめれ。しょりぇはいいじょ」
「えぇー! ハルちゃん、あたしの愛情表現だって言ってるじゃない!」
「しゅしゅ、りゅしかのおやちゅら」
「そうね、ハルちゃん。行きましょう!」
ハルはどんな思いでカエデ達を見ていたのか。父さん、母さんといつ呼んだか分からないなんてどんな生活だったんだ。
テンションは低めだが、いつも元気で素直なハルが普通だった。ここに来て、ハルの前世がまた顔を出す。辛く無い筈はないだろう。
だから、今世は長老とアヴィー先生を沢山呼ぶと言うハル。家族の温かみを取り戻しているのだろうか。
「だめ、あたし泣いちゃう。本当に涙が出ちゃう」
シュシュ、君はいい。大人しくしていよう。
そんなシュシュに乗って、長老とアヴィー先生も一緒に食堂へとやって来た。
「りゅしか! おやちゅら」
「ハル、起きましたか。直ぐに用意しますね」
ルシカとリヒト、ミーレにイオスもいた。
「ハル、保護した小鳥だけどな」
イオスとミーレが籠を見ている。
「あ、いおしゅ。なんかあったか?」
「ちょっと羽が動いたんだよ」
「しょお?」
「おう」
長老もハルと一緒に籠を覗き込む。
「ハル、精霊眼で見たか?」
「じーちゃん、見てねー」
「見てみなさい」
「ん……」
ハルの眼がゴールドに光った。保護した赤ちゃん鳥を精霊眼で見ているんだ。長老が言う位だ。また、変わった鳥さんなのだろう。
「じーちゃん、なんれら? まじ?」
「ああ。ワシも驚いた」
「何? 長老、ハル、どうしたんだ?」
「リヒト、またハルはとんでもなく珍しいものを保護したぞ」
「何だ?」
「自分達とは違うから置いて行ったんだろうな」
「親鳥か?」
「親鳥ではなかったのだろう。どうして紛れたものか? ワシには全然分からんぞ。コハル」
「はいなのれす」
コハルがハルの亜空間からポンと出てきた。コハルは最初に鳥を確認している。気付かなかったのか?
「コハル、分かるか?」
「まだ弱ってるなのれす」
そこじゃない。なるほど、コハルは確かに最初から『弱っている』と言っていた。
とんでもない知識を持っているコハルだが、時々天然を発揮する。
「コハル、何の鳥か分かるか?」
「分かるなのれす。この大森林を守護している神鳥なのれす」
「こはりゅ……」
「ホント、コハル先輩って時々やらかすわよね」
コハルは意味が分からないのだろう。首を傾げている。最初に言って欲しかったよね。
「何の神鳥だ?」
「決まってるなのれす。不死鳥なのれす。フェニックスなのれす」
あらら。本当にハルちゃん、偉いものを保護しちゃったよ。
「ふ、ふ、ふぇにっくしゅ!」
「弱っているなのれす」
うん、コハル。弱っているのはもう分かった。
「コハル、何故そのフェニックスが弱っているんだ?」
「知らないなのれす。でも怪我じゃないなのれす。代替わりしたとこなのかも知れないなのれす」
「なるほど。だから小鳥なのか?」
「分からないなのれす」
「ハル、マメにヒールしてやるといい」
「じーちゃん、分かったじょ」
「出来ましたよ。ハル」
ルシカが今日のおやつを運んできた。今日は何だ?
「りゅしか! こ、こりぇ!」
「はい。先日の鬼人族に頂きました。教わって初めて作ったのですが上手くできているかどうか……」
「ハルちゃん、なぁに?」
「ばーちゃん、こりぇおはぎら!」
「おはぎ?」
「はい。小豆を甘く煮て餅米を包んでいます。こっちはきな粉と言うそうです」
「信じりゃんねー」
「ハル、嫌いでしたか?」
「しゅき! らいしゅきら!」
「それは良かった」
「いたらき!」
ハルが、大きなお口を開けてハムっと食べた。大きなお口を開けた筈なのに、もうほっぺに餡子がついている。
「んめぇ! まいうー!」
「アハハハ! ハル、もうほっぺについてるぞ」
「いいんら!」
よくないよ。ルシカがすかさず拭いている。
「皆さんもどうぞ」
「珍しいな」
「ああ、いただこう」
「あら、甘いわ」
「シュシュ、もう食べたの?」
「ミーレ、あたしの口は大きいのよ」
「甘いけど、優しい甘さなのね」
「マジ、美味いな」
皆さん、お気に召した様だ。良かったよ。
「ハル、食べた事あるのか?」
「じーちゃん、前の世界にあったんら。なちゅかしいなぁ」
「鬼人族って不思議ね」
「そうだな。独自の文化を持っている。アヴィー、良い研究になりそうだぞ」
「本当、興味深いわね。竜族と共通するものもあるし」
「共通か?」
「ええ、長老。服装よ。よく似ていたでしょう? 狐人族もそうだわ」
「そう言われてみるとそうだな。里が近いからか?」
「そうでしょうね」
アヴィー先生は興味津々だ。ハルが元気になったみたいで良かった。今はおはぎに夢中だ。
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