第271話 番外編 鳥しゃん 3
「それにしても、長老だよ」
「え、じーちゃん?」
「そうだよ、ハルちゃん。君の曽祖父さんは凄いんだ」
長老は、その日何度か往復して30人余りの人達を転移させていた。南東のベースからアンスティノス近くまで何度も転移させていたんだ。とんでもない能力だ。
「おう、ハル」
と、その長老が疲れた様子もなくいつもの様に顔を出した。
「じーちゃん、らいじょぶか? 疲りぇてねーか?」
「ん? ハル、どうした?」
「らって、転移ばっかして」
「ああ、平気だぞ。アンスティノス付近にも魔法陣を設置してあるからな。大した魔力は使ってないんだ」
「しょうなのか?」
「長老、それでも俺達には無理だ」
「リヒト、そんな事はないぞ。魔法陣があるのとないのとでは全然違う。魔法陣がある場所ならリヒトでも出来るだろうよ」
そうか? そうなのか?
「いやいや、無理だって」
「長老の真似はできませんよ」
「本当だよ。長老はとんでもないよー!」
「ふふん」
最後の「ふふん」はハルちゃんだ。長老ではなく、ハルちゃんが自慢気にしている。
「おりぇのじーちゃんはしゅげーんら」
「アハハハ! ハルは可愛いなぁ」
主人公よりチートな曽祖父とは……? 聞いた事ないぞ?
しかし、それだけの人数を転移させた長老も凄いが、その人数を受け入れる側の領地も大変だ。生活が軌道に乗るまでは、大変だろう。
「ルシカ、調理場の手が足りないの!」
ミーレが呼びに来た。夕食の用意らしい。
「はいはい、行きますよ。では、リヒト様、長老」
「ああ」
「ルシカ兄さん、自分も手伝うわ」
ルシカとカエデが呼びに来たミーレと交代で部屋を出て行った。
「長老、お茶入れましょうか?」
「ああ、ミーレ。すまんな」
「みーりぇは調理場手伝わねーのか?」
「ハル、それを言ったら駄目だ」
そうだよ、ハルちゃん。ミーレは料理が出来ないんだから。
「私は料理が出来ないのじゃないですからね。苦手なだけですから」
おやおや。
「ミーレ、一緒じゃねーか」
「違いますよ。出来ないんじゃなくて、苦手だからしないんです」
おやおやおや。
「しゃーねーな」
「ハル、何か言った?」
「なんれもねー」
ミーレ姉さんの目が、ちょっと怖い。
翌日、昼食を終えた頃にカエデのご両親を連れて長老が転移してきた。だが、長老はまだ転移させるらしく、そのまままた転移して行った。
「カエデ!」
「カエデ! ああ、元気そうだ!」
「ねーちゃん!」
「父ちゃん! 母ちゃん! ソラ!」
カエデが駆け寄る。よく似た三毛柄の猫獣人だ。ソラとはカエデの弟だ。
「カエデ、元気にしてたか?」
「うん! 父ちゃんも元気やった?」
「元気にしてたで。カエデ、いつも仕送りありがとうな」
「そうよ、カエデ。無理しなくていいんやからね」
「無理違うって。使う事ないんや。よくしてもらってるねん」
「ねーちゃん、ねーちゃん。ねーちゃんが送ってくれたお金で新しい靴買ってもらってん!」
「ほんま? 良かったなぁ」
カエデもそうだが、カエデの弟も育ち盛りだ。靴だけでなく、服だってすぐに小さくなるだろう。あの集落だと、いちいちアンスティノスまで行かなければならない。そんな物資も不十分だろう。
「ねーちゃんも服違うやん。新しいん?」
「そうやねん。新しい制服や」
「よく似合っているな」
「本当に可愛いわぁ」
「父ちゃん、母ちゃん、これからはもっと楽になる筈や」
「そうやね」
「父ちゃんも頑張って働くで」
「俺も手伝うねん」
「ソラは勉強もしやんなあかんわ」
「えぇー! 母ちゃんそれ言うたらあかんわ」
話は尽きない様だ。攫われるまでの事は覚えていないカエデ。それでも、家族とは何か感じるものがあるのだろう。少しは自覚が出てきたのだろうか。
「話し中すまん」
「あ、リヒト様。すみません」
「リヒト様、この度はお世話になってしもて」
「いや、そんなことはない。アンスティノスに行くついでだ。カエデ、部屋にご案内したらどうだ」
「はい。2~3日ゆっくりしてや。部屋に案内するわ」
「ありがとう」
「初めての転移で疲れてないか? 風呂にでも入ってゆっくりしてくれ」
「はい。リヒト様、ありがとうございます」
「母ちゃん、風呂やって!」
カエデ達を、リヒトとハルが見送っていた。
「ハル、どうした?」
「なんれもねー」
「そうか? 俺の後ろに隠れてたじゃねーか」
「なんれもねー」
おや、ハルちゃん。どうした? ハルらしくないな。
その日、カエデは家族と一緒に過ごした。そして、ハルちゃんは……
「ちゅまんねー」
「ハルちゃん、どうしたの?」
「じーちゃんもいねー。かえれもいねー」
「ハル、何言ってんの?」
「みーりぇ。らって、ちゅまんねー」
「長老は転移させてるでしょう?」
「しってりゅ」
「カエデは久しぶりにご家族と一緒じゃない」
「しってりゅ」
おやおや、ハルちゃん。どうした?
「ハル、手合わせしようぜ!」
と、イオスが声をかけた。
「しねー」
あらら。つまらなそうに足をブラブラさせて座っている。
「ミーレ、ハルどうした?」
「ちょっと拗ねてんのよ。カエデに相手してもらえないし、長老は忙しいしで」
「そんなことでか? そんなハルは珍しいな」
「そうね。でも今迄が良い子過ぎたのよ。少し位拗ねたっていいじゃない」
「そうだな」
「ハル、保護した鳥さんの事覚えてる?」
「みーりぇ、覚えてねー」
「やだ、本当に拗ねてるわ。ハルちゃん、あたしと遊びましょうよ」
「あしょばねー」
あらら。こんなハルは本当に珍しい。寂しくなったか?
「ハル、いらっしゃい」
「やら」
「ほら、ハル」
「みーりぇ……」
トコトコと呼ばれたミーレのそばへ行くハル。ヒョイッと抱っこされた。
「みーりぇ、おりぇ赤ちゃんじゃねー」
「なに言ってんのよ。赤ちゃんと一緒よ。ハル、カエデの事は喜んであげなきゃ」
「わかってりゅ」
「寂しいの?」
「しょんなんじゃねー」
「ハル、大丈夫よ。みんなハルの事が大好きよ」
「しょんなんじゃねーって……みーりぇ」
そんなんじゃないと言いながら、ハルはミーレに抱き着いて顔を埋めている。そのまま動かなくなったハル。ミーレがハルの背中とトントンとする。すると、小さな寝息を立てだした。
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