第270話 番外編 鳥しゃん 2

「こっちょりはちょってぇも うったがしゅきぃ〜♪」

「ハルちゃん、それ何?」

「小鳥しゃんの歌ら。かぁ〜しゃんよっぶのもうったで呼ぶぅ、ぴぴぴぴぴぃ、ちちちちちぃ、ぴぃちくぅりぴぃ♪」

「アハハハ、ハルは何でも知ってますね。さ、おやつですよ」


 ルシカがリヒトと一緒にやって来た。


「りゅしかのおやちゅら!」

「カエデ、ご両親なんだけどな」

「うん、リヒト様。何かあったん?」

「集落の人達を受け入れてくれる領主がいるんだ」

「え、アンスティノスの?」

「そうだ。獣人の領主で、領地も獣人が多い。そこに移住する話をソニルが進めているんだ。ご両親にも意思の確認に行く」

「え、ソニル様が……」

「おお、しょにぃりゅしゃん!」


 ハルちゃん、ルシカ作のパンケーキをもう食べていた。ほっぺにメープルシロップと生クリームがついている。


「ハル、ほっぺ拭きますよ」

「ん……」


 うん、日常の光景だな。ただ、今日は生クリームだけでなくメープルシロップまで付いていた。そして、ハルはまた食べる……と、またほっぺに付く。エンドレスだ。


「まだ決まった訳じゃないんだ。集落にいる獣人達の気持ちもあるからな」

「そっか。そうやんな。けど、防御壁の中の方が絶対に安全やんな」

「そりゃそうだ。生活も楽になるだろう」


 カエデの両親も防御壁の外にある小さな集落で生活している。カエデもその集落から攫われたんだ。


「ソニルが集落にいる人達の意向を確認して回っている。移住する意思のある者は一旦ソニルが保護するらしい。そしたらカエデ、会いに行ってみないか?」

「え……けど、ソニルさんのベースまで遠いやん」

「大丈夫だ。長老が転移の魔法陣を設置している。だから、一瞬だぞ」

「ほな……ほな、行きたい! リヒト様、かめへんの!?」

「ああ。迎えに行く位良いさ」

「ほんま!? リヒト様、ありがとう!」


 久しぶりに両親や弟と会えるんだ。攫われる以前の記憶がカエデは無いと言う。それでも、家族だ。カエデを抱きしめてくれた両親に会えるんだ。


「よし! いくじょ!」

「アハハハ! なんでハルが張り切ってんだよ」

「らって、りひと。ありがちょな!」

「おうよ。で、ハル。今度は何を拾ったんだ?」

「何? またハルか?」

「あ、じーちゃん!」


 長老が顔を出した。おやつの時間を狙って来たのか?


「お、ルシカのおやつか」

「じーちゃん、パンケーキら! 超美味いじょ」

「アハハハ、ハル。ほっぺがカピカピだぞ」

「ん、しゃーねー」

「ワシは茶だけ貰えるか?」

「はいにゃ、自分が入れるわ」

「おう。カエデ、ありがとう」


 カエデもお茶を入れるのが上手くなった。今やミーレも認めている。カエデは頑張り屋さんだ。


「カエデ、聞いたか?」

「うん、今リヒト様から聞いた」

「そうか。移住を決心されると良いんだがな」

「そうだよな」

「獣人の領主だ。獣人の中では人気があって信頼されている領主らしいぞ」

「そうなん?」

「ああ、ありがとう」


 カエデが長老にお茶を出した。出す手つきも慣れたもんだ。


「じーちゃんはパンケーキ食べねーのか?」

「今日は昼が遅かったんだ。まだ、腹一杯なんだよ」

「しょっか。んまいのに」

「でだ、カエデ。向こうの準備ができたらワシが転移させる事になったんだ。本当はアンスティノス近くの魔法陣まで一気に転移させるんだが、カエデのご家族はソニルのベースからここまでお連れする。会えるぞ」

「じゃあ、ここで待ってたらいいんか?」

「そうなるな。ここで2~3日ゆっくりしてもらうと良い」

「長老、ありがとう!」

「構わんさ。で、ハルはまた何をしたんだ?」


 そうだ。その話をしていた。


「じーちゃん、なんもしてねー」

「そうか?」

「ん、してねー」

「長老、鳥の雛を助けたんッスよ」


 イオスが説明する。


「なんだ、今度は鳥か」

「多分、親鳥に見放されたんだろう。1羽だけ巣に残っていたんだ」

「ほう。もう駄目だと思われたのか?」

「多分。ハルが気付かなかったら駄目だったと思う。鳥はヒールなんて出来ないッスから」

「そりゃそうだ」

「まだ目を開けないんですよ」

「またミーレが世話をしているのか?」

「いえ、ハルも世話してますよ」

「ん、ひーりゅしてりゅじょ」

「そうか。元気になるといいな」

「ん」


 それから、暫くはソニルからの報告はなかった。その連絡は突然もたらされた。


「リヒト様、ソニル様からです」

「おう、来たか」


 ルシカが書類をリヒトへと渡す。


「カエデは裏か?」

「はい。知らせに行きますか?」

「そりゃそうだろう」


 カエデと言う事は……


「カエデ、ご両親と弟さんが来られるぞ」

「え、リヒト様! ほんま!?」

「ああ、明後日の午後からになるが長老がお連れするそうだ」

「わ……どーしよ! あれ以来なんやけど!」

「アハハハ! そのまんまでいいじゃねーか」

「ほんま? ほんまに?」

「ん、かえれ。しょのまんまれいいじょ。めいろ服似合ってて、かぁいい」

「ハルちゃん、ありがとう!」


 カエデがハルに抱きついた。


「アハハハ、かえれ。良かったな」

「カエデ、良かったわね」

「シュシュもありがとう!」


 カエデの家族が来る。と、言う事は移住を決心したんだ。あの小さな集落にいても生活は良くならない。将来もどうなるのか分からない。先が見えないんだ。その事を思えば、移住する方が良いだろう。何しろ、獣人が多く住み獣人の領主が治めている領地だ。ヒューマンが多い街よりは住みやすいだろう。

 カエデの家族は明後日だが、長老は翌日から次々と獣人達を転移させていた。そして、賑やかな彼もベースにやって来た。


「リヒトー! 来たよー!」

「なんだよ、ソニル。お前来たのかよ!」

「来るに決まってるじゃん! ハルちゃ〜ん! 相変わらず可愛いねー!」

「しょにりゅしゃん!」

「うん! ソニルさんだよぉ! 最強のソニルさんだぁ!」

「ソニル様、引かれてますよ」

「え? コニー、ひどぉ〜い!」


 確かに、テンションが違い過ぎてリヒトとハルまで引いている。少し、落ち着いて話そうぜ。


「今日が第1便なんだ。まだまだこれから順に連れて行くよ」

「で、結局どれ位移住するんだ?」

「全部の集落の人が移住を決めたんだ。と、いっても100人程なんだけどね。小さな集落ばかりだったから」

「本当に、そんだけ受け入れられんだろうな?」

「こっちでも調査したんだ。大丈夫だよ。なんせ6層に広い領地を持っているからね。アンスティノスの中では小麦の産地になっているんだよ。まだ手付かずの土地もある」

「そうか。信用できんだな」

「僕はしても良いと思ったから話を進めたんだ」

「それならいいさ」

「うん、カエデちゃんのご家族は明日だね」

「はい、ソニル様! ありがとうございます!」


 カエデが頭を下げる。


「やめてよ〜! 本当に、放っておけなかっただけなんだ」

「それでもです! ありがとうございます!」

「もう、いいって。明日が楽しみだね」

「はい!」

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