第269話 番外編 鳥しゃん 1

 ここはヘーネの大森林。リヒトが管理者を務めるベースではなく、ソニル・メリーディが管理者をしている南東にあるベースだ。


「で、コニー。だからどうなったの?」

「はい。幸いアンスティノスの6層で領主をしている獣人が受け入れたいと申しているのです」

「それは良かったじゃん」

「しかしですね。獣人達の集落から1番遠いアンスティノスの南西側にあるのです」

「じゃあ、リヒト達が1番近いのか……」

「そうなりますね」

「とにかく、その話を集落の獣人達に話してみないとだね」

「そうですね」


 ソニルと従者のコニーが、珍しく真剣に話し合っている。

 ソニルが管理者を務める南東のベース。ここでは、アンスティノス大公国から逃げるようにして出国してきた獣人達が作っている小さな集落を定期的に見回り援助していた。どの集落も貧しい。食料や物資がいつも不足している。

 そして、アンスティノスの防御壁の外にある為、いつ魔物に襲われるか分からない。その上、人攫い集団に狙われやすい。

 そんな集落に住む獣人達の将来を心配して進めていた計画があった。

 同じ獣人族が治める領地に保護できないかと動いていたんだ。その計画に進展があったらしい。


「でもね、集落の人達が嫌だと言ったらどうしようもないからね」

「はい。しかし、多分大丈夫ではないかと」

「え? コニー、何でかな?」


 コニーが言うには……獣人達の受け入れを承諾したのが獣人の間では有名な領主らしい。


「え? どう有名なの?」

「少し前にヒューマン族の人攫い集団をリヒト様達が壊滅させた事は覚えておられますか?」

「うん、覚えてるよ。カエデを保護するきっかけになった件だよね?」


 カエデもヒューマン族の人攫い集団に攫われ奴隷として働かされていた。その人攫い集団を壊滅まで追いやったのがリヒト達だ。そして、カエデを保護し奴隷紋を消して仲間になった。ハルが『カエデ』と言う名をつけたんだ。


「その後、相次いで人攫い集団が摘発されました。覚えておられますか?」

「うん。あの後、減ったよね」

「その人攫い集団をいくつも潰した事で有名な領主なんですよ。しかも、孤児の獣人を保護しているそうです」

「そうなの?」


 アンスティノス大公国6層にある獣人が領主を務める領地だ。その地の領民は、ヒューマン族より獣人族の方が多い。獣人が領主なのだから当然なのだが。

 獣人が多いだけに、他のヒューマン族の街より人攫いの被害も多かった。それを重く見た領主が、何年も掛けて下調べをし、証拠を固め一斉に摘発へ乗り出したんだ。


「なるほどね。それで有名なんだ」

「はい。獣人達の間ではまるでヒーローですね」

「そうだろうね」

「まだまだ開拓する土地もあるそうです。ですので、いつでも引き受けると回答がありました。こちらでも念の為調査しましたが大丈夫です」

「うんうん。良いね〜」


 それから、ソニル達は獣人達の意思確認の為、防御壁の外に点在する獣人達が住む小さな集落を訪ねてまわった。

 その事も、リヒトに報告書が回ってきていた。


「ソニル、やるじゃん」

「ええ、リヒト様。受け入れられると良いのですが」

「だなぁ」

「カエデには話しますか?」

「ん〜、行くか?」

「村にですか?」

「ああ。ソニルのベースに長老が転移の魔法陣を設置しただろう。だから、直ぐだ」

「リヒト様、そこからまだ距離がありますよ」

「まあ、いいんじゃね?」

「話が固まったら、ソニル様が一旦ベースで保護するそうですからそれまで待つ方が良いのでは?」

「そうか?」

「はい」

「じゃ、そうしよう」


 リヒト、相変わらずちょっと頼りない。

 その頃ハルは、またベースの裏にいた。もちろん、シュシュも一緒だ。カエデとイオスが訓練をしているそばで何やら見上げている。


「ねえ、ハルちゃん。無理よ。イオスに頼みましょう」

「しょう? けろなぁ」

「なぁに?」

「おりぇが見ちゅけたかりゃ、おりぇが一番に見たいんら」

「ハルちゃん、誰が一番に見ても一緒よ?」

「しょう?」

「そうよ」


 そのイオスの登場だ。カエデも一緒にやって来た。


「何見てんだ?」

「なになに、ハルちゃん」

「イオス、カエデ、あそこよ。あの木の枝を見て」


 シュシュが説明する横で、ハルちゃんが短いプクプクした人差し指で指している。


「あしょこ、見えてりゅらろ」

「ああ、本当だな」

「え? 何なん? 鳥の巣かなんか?」

「ん、たぶん。けろ、親鳥がいねーみたいなんら」

「ハルちゃん、何で親鳥がいてないって分かるん?」

「らって、昨日もその前も飛んれ来なかったじょ」

「ハルちゃん、ずっと見てたの?」

「ん、ろんな鳥しゃんなのか気になって」


 ハルは色んな事が気になるんだね。と、言うか、色々見つけるよね。


「もう、巣が空っぽなりゃいいんら」

「雛がいるなら声がするだろう?」

「らから、いおしゅ。空っぽか見てきて」

「おう、待ってな」


 そう気軽に言って、イオスは軽々と木に登っていく。


「さすが、エルフだわ」

「しゅしゅ、関係あんのか?」

「だって、ハルちゃん。エルフって森人だもの」

「なりゅほろ〜」


 ハルちゃん、今の説明で理解できたか? 

 そして、易々と巣にたどり着いたイオスがシュタッと飛び降りてきた。


「いおしゅ、どおらった?」

「ハル、よく気が付いたよ」


 イオスが両手をソッと出すと、そこには小さな雛がいた。赤茶色で雀サイズの小さな雛だ。目を閉じてぐったりとしている。


「あ、やっぱいたんら」

「最後に残されてしまったみたいだな」

「ねえ、ハルちゃん。弱っているわよ」

「ほんちょら。ひーりゅ」


 イオスの掌で雛がフワンと光った。


「こはりゅ、見て」

「はいなのれす」


 コハルがポンッと出てきた。ハルちゃん、君はまた忘れているみたいだが、君は精霊眼を持っているからね。ハルにも分かる筈だ。


「弱っているなのれす。温かくしてやるなのれす」

「みーりぇに頼むじょ」

「おう」


 イオスがそのまま雛を持ってベースに入って行く。


「まあ、今度は鳥の雛?」


 ミーレが言うのも無理はない。以前はドラゴンの赤ちゃんを保護していた。最近では亀さんもいた。


「みーりぇ、温かくしてやりたいじょ」

「分かったわ」


 ミーレがどこからか小さな籠を持って来てフワフワに布やワラを入れてやる。そこに、イオスがそっと雛を寝かせる。


「ちょっとだけヒールするなのれす」

「よし、ひーりゅ」


 また、雛の身体が光った。


「起きねーな」

「まだ時間がかかるなのれす」

「しょっか」


 しかし、ハル。よく気がついた。よく見ていたんだね。

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