第281話 番外編 ちゅどーん! 7

 族長からの土産だと言って、ヤセさんが風呂敷に包まれた重箱を出す。広げると、2段になっている大きな重箱の中に餡子ときな粉のおはぎが沢山並んでいた。


「あ! おはぎら!」

「美味そうだな!」

「ハルちゃんったら」

「これは美味そうだ!」


 鬼王さん、大っきいから手に持ったおはぎがとても小さく見える。手に持つと言うより指で摘んでいる。案の定、一口で食べてしまう。


「美味いぞ! 昔はこんなに甘いものはなかったぞ」

「おっしゃん、こりぇはおはぎってんら」


 ハルちゃん、おっしゃんと呼ぶのは止めよう。恐れ多くも鬼王だぞ。守護神と言われているんだぞ。


「おはぎか。美味いもんだ。月一位で供えてくれんか?」

「は、はい! その程度の事なら喜んで!」


 ヤセさん良かった。ちゃんと任務完了だ。しかも、鬼王本人と会えた。まさか、会えるとは思わなかったからね。リヒトとハルは手合わせまでしちゃったよ。


「しかし、エルフも変わったもんだなぁ」


 むしゃむしゃと、おはぎを頬張りながら鬼王が言う。


「変わりましたか?」

「ああ。昔は皆で大森林に籠って出てこんかった。攻撃だって、弓だけだったぞ」

「しかし、この世界の瘴気を浄化する魔石を設置して回ったのはエルフですぞ」

「そうなんだよな。まさか、エルフが中心になるとは思いもしなかったんだ。それ程、エルフは大森林から出てこなかったんだ」


 鬼王が話しているのは、まだ魔石を設置する前の事だ。長老でさえまだ生まれていない。太古の話だ。


「ここら辺はドラゴンの里があったから、止む無くこの社を造ったんだ。だが、ちょっと俺がいない間に世界も変わったらしい。エルフは偉大な功績を残したんだ。エルフがいないと浄化はできなかっただろうよ」

「わし達の先祖の功績ですな。今は各国にある魔石の浄化を引き継いでおります」

「おう、ずっと引き継いでほしい事だな。しかし……ハル」

「ん? なんら?」

「ほっぺに餡子がついとるぞ」


 ハルちゃんのお口周りにもほっぺにも餡子やきな粉がついている。おやおや、お鼻の頭にきな粉がついているぞ。


「いいんら」

「ハル、拭きますよ」

「ん」


 いつもの様にルシカが拭いている。


「またちゅくけろな」

「アハハハ! また着くのか?」

「ん、しゃーねーんら」

「アハハハ! 可愛いなぁ! ハルは可愛い!」

「おっしゃんはかっちょ良いじょ」

「そうか! ありがとうよ! さて、ハルだけでなく皆も時々は顔を見せてくれ。リヒト、また手合わせをしよう」

「もちろんだ。次こそは一蹴り入れるからな!」

「おう、楽しみにしておるぞ」


 こうして、祀られていた鬼王と会えたばかりか、手合わせをし一緒におはぎも食べた一行が無事に鬼人族の里へと帰ってきた。

 一部始終を興奮しながら報告する鬼人のヤセさん。


「な、なんと! 鬼王様が祀られておったのか!?」


 族長が目を丸くして驚いている。そりゃ驚くよ。鬼人族にとって鬼王は守護神だと案内してくれた狐さんも話していた。


「有難い! これからしっかりとお祀りせねばならん!」

「月に1度程度でおはぎを持って来るようにと言われました。お気に召した様で沢山食べておられました」

「そうかそうか。良かった。大変光栄な事じゃな」

「はい」


 おや、ハルちゃんの身体が揺れている。もう限界みたいだ。


「ハル、いらっしゃい」

「ん……みーりぇ」


 トコトコとミーレまで歩いて行きポフンと抱きついた。すると、直ぐに瞼を閉じた。


「いつもなら寝ている時間だもの」

「ふふふ、それに暴れたものね」


 確かに。狛犬さん達を『ちゅどーん!』しちゃったし、鬼王とも手合わせをした。

 ミーレに抱っこされて、もう寝息をたてている。


「長老殿、可愛らしいですな」

「ああ。可愛い曾孫だ」

「しかし、鬼王様と手合わせするとは驚きましたぞ」

「アハハハ、ハルはやんちゃだからな!」

「リヒト、何言ってるのよ。あなたが真っ先に庭へ出ていたじゃない」

「ヤセは何をしとった?」

「あー……いや、俺は……」

「どうせ圧倒されとったんじゃろうて」


 族長、流石によく分かっている。ヤセさんは終始固まっていたよね。ずっと驚いて腰が引けていた。


「ヤセは気の弱いところがある。戦わせると強いんじゃがのう」


 ヤセさん、強いんだ。最強である族長の息子だし。


「いや、圧倒されて当然だ。それだけ威圧感もあった。リヒトとハルが物怖じしないんだ」

「しかし、鬼人としてはもっと勝気でも良い位なんじゃが。長老、此度は世話になりましたな」

「なんの。貴重な体験をさせてもらった」


 まさか、守護神である鬼王が祀られていて、その本人が出てくるとは思いもしなかった。

 ハルちゃんの加護が影響して結界を壊したのだろう。いや、鬼王が興味を持ち、やってきたのもそれに関係あるのかも知れない。今後も、ハルは同じ様な体験をするだろう。

 ハルちゃん、皆に見守られて健やかに成長するんだよ。

 またどこかで元気に『ちゅどーん!』しているのを見せてほしい。ハルの冒険はまだまだ続く。



   ◇ ◇ ◇


番外編はこのお話で一旦完結です。

書籍化作品の改稿や新作に煮詰まったまた書くかも知れません。ハルちゃんは癒しなので^^;

ハルちゃんを可愛がって頂き本当にありがとうございました!

心から感謝致します!

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