番外編

第264話 番外編 亀しゃん

「もっしもっしかめよ〜、かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」


 ここはヘーネの大森林。リヒトが管理するベースの裏庭だ。ハルがしゃがみ込んで歌っている。何か見つけたらしい。


「かぁめしゃ〜んよぉ〜♪」

「ハルちゃん、何してんの?」


 イオスと訓練をしていたカエデが気になったらしく声をかけた。


「かえれ、かめしゃんら」


 ハルが短いぷくぷくした人差し指で指した先には、確かに亀がいた。


「え……? なんで? ベースになんで亀がいるんや?」


 カエデも同じ様にしゃがみ込んで亀を見ている。


「あら、何してるの? ハルちゃん、カエデ」

「しゅしゅ、かめしゃんら」

「え? 亀?」


 確かに小さな亀がモソモソと動いている。亀は必死で歩いているつもりなのだろうが、なんせ亀だ。オマケに小さい。ハルの小さな掌に乗る程度の大きさしかない。

 短い手足を一生懸命動かしているが、歩いていると言うより踠いている様に見える。


「かめしゃん、頑張りぇ。ろ〜しぃてしょんなぁにのりょいのかぁ〜♪」


 と、歌いながらハルは指でツンツンする。


「ハルちゃん、何それ? あかんて。触ったらあかんで。一生懸命歩いてるんやから、そっとしといたり」

「しょう?」

「そうやで」

「やだ、この亀もしかして……コハル先輩、見てちょうだい」

「はいな、何なのれす?」

「ほら、コハル先輩。この亀よ」

「ありゃりゃ。何でこんなとこにいるなのれす?」

「知らないわ。ハルちゃんが見つけたのよ」

「こはりゅ、かめしゃん」

「これは……普通の亀じゃないなのれす」

「やっぱりそうなのね?」

「何やってんだ? カエデ、訓練続きするぞ」

「イオス兄さん、亀やって」

「は? 亀?」


 イオスまでしゃがみ込んで見ている。


「お、マジだ。亀だな」

「な、亀やろ」

「おう。大森林のこんな場所にか?」

「いおしゅ、けろかめしゃんら」

「確かにな」

「コハル先輩、お願い」


 何だ? コハルには分かるのか? そう言えばさっき、普通の亀じゃないと言っていた。


「この亀は聖獣なのれす!」

「はぁ!? 亀がか!?」

「そうなのれす! 力を失っているなのれす!」

「こはりゅ、まじ?」

「マジなのれす? 大マジなのれす! マズイなのれす!」

「なんれ?」

「力を失っているなのれす! このままだと死んでしまうなのれす!」

「ありゃりゃ」

「ハルちゃん、クールやな。もうちょっとびっくりしてもいいんとちゃうか?」

「え、しょう?」

「そう思うで」

「ありゃりゃ」

「コハル、どうしたらいいんだ?」

「水のある場所に連れて行ってあげるなのれす!」

「ま、取り敢えずだな……」


 イオスが、ベースの裏にある露天風呂から桶を持ってきた。水を張ってある。

 そこに、ちゃぽんと亀を入れる。すると、身体に水を纏わせるかの様にスイ〜ッと泳ぎ出した。


「あ、ちょっと元気出てきたか?」

「ハル、少しだけヒールなのれす」

「ん、ひーりゅ」


 ハルがほんの少しの力で亀にヒールをかけた。嬉しそうに短い手足をパタパタと動かしている。


「おー、喜んでるな」

「聖獣なら、仲間じゃない」

「シュシュよりずっと先輩なのれす!」

「やだ、そうなの?」

「シュシュはピヨピヨなのれす!」

「もう、コハル先輩やめて」

「ふぅ……助かった。忝い」

「え……」

「あら?」

「え? 今喋ったで!?」

「喋る位するわい。ワシは聖獣じゃからな」

「かめしゃん、もうちょっとひーりゅしゅりゅか?」

「ああ、頼む。少しずつな」

「ん、ひーりゅ」


 ハルがまた亀に少しだけヒールした。

 すると……


「え……」

「やだ、マジ?」

「え、今大っきくなったで」

「おお」

「狭くなってしもうた。もっと広い水場はないかの?」

「ああ、風呂場でもいいか?」

「湯はいかん。水じゃ」

「おう。水を張ってやるよ」


 イオスが風呂場へと走って行った。


「かめしゃん、行くじょ」


 ハルが、亀を入れた桶を両手で持つ。


「お前さん、ちびっ子だから落とさないか?」

「ん、らいじょぶら。もっしもっしかぁめよ、かぁめしゃんよぉ〜♪」


 と、歌いながら両手で水の入った桶を持って歩く姿はとっても可愛い……いや、危なっかしいぞ。


「ハルちゃん、あたしに乗るといいわ」

「しゅしゅ、しょお?」

「うん、ハルちゃん。そうしとき。危ないわ」

「ん、わかっちゃ」


 そうして、シュシュに乗り風呂場へとやって来た。ハルがそっと、水を張った浴槽に亀を放す。ベースの裏にある露天風呂だ。浴槽は岩で出来ている。


「ふぅ〜、助かったわい」


 亀はひと泳ぎし、岩の上に登ってきた。


「すまんこった。ちびっ子、またヒールを頼めるかの?」

「ん、いいじょ。ひーりゅ」


 すると、今度は亀がグググンと大きくなった。全長2mはあるだろうか。

 胴体はやや黄色味を帯び、甲羅は六角形の綺麗な亀甲文が浮かび上がっている。堂々たる姿だ。


「しゅげー、超でけー」

「凄いわね」

「びっくりやわ」

「なんだ? 亀だよな?」

「イオス、亀は亀でも聖獣なのれす」

「そうなのか? 何でこんなとこにいるんだ?」

「いやいや、ワシも何でか分からん。ウルルンの泉を目指してテュクス河を登っておったんじゃ」

「テュクス河からも距離があるぞ」

「そうなのか? 途中でちょい一休みしとったら寝てしもうたみたいでな。気が付いたらここにおったんじゃ。焦ったわい」

「かめしゃん、寝てしまったんか?」

「そうなんじゃ。で、ここは何処じゃ?」

「ここは、ヘーネの大森林にあるエルフのベースだ。大森林の北東だな」

「おりょりょ。行き過ぎてしもうたか」

「行き過ぎるどころか、ウルルンの泉からは遠いぞ」

「まあ、ぼちぼち行くわいな」

「かめしゃん、かめしゃん。のしぇて」

「無茶言うんでないわ。ワシはまだ全快しとらんぞ」

「しょう?」

「ああ。もちっとヒールしてくれんか?」

「ん、わかっちゃ。ひーりゅ」


 白い光が亀を包んで消えていった。


「おぉ、お前さんの魔力は良いのお」

「しょお?」

「ああ。身体に染み渡るわい」

「ふふん」


 で、この亀。しばらくベースの露天風呂に住み着いた。


「風呂入りぇねー」

「アハハハ、ハル。亀がいる間はシャワーで我慢だな」

「しゃーねー」


 リヒトとハルが、そんな話をしていたがいつの間にかいなくなっていた。

 

「ありゃ?」

「ウルルンの泉に行ったんじゃねーか?」

「しょう?」

「ああ、多分な」

「りひと、風呂入りゅじょ」

「おう」


 一体何だったのだろう? 亀の聖獣。話し方からすると翁の様だったが。

 それから不思議な事が起こる様になった。


「こりぇ、回復してねーか?」

「ハル、そうか?」

「ん、湯船に浸かるとちょっとらけ回復してりゅ」

「そうか。亀の聖獣がいたからか?」

「知りゃねー」

「なんだよ! 知らねーのかよ!」


 ベースの日常で起こった不思議な出来事でした。



   ※ ー ※ ー ※


最後まで読んで頂きありがとうございました!

まだまだ番外編を投稿していきます!

宜しくお願いします!

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