第259話 魔物出現 2

 長老とハル達は、被害者を見つけてはヒールをしながら移動していた。


「長老、こっちもです!」

「おう!」

「ハルちゃん! ヒールを!」

「分かっちゃ!」


 イオスとカエデが負傷者を見つけては纏める。そして、長老とハルがヒールを施す。それを2層に入ってから繰り返していた。3層はアヴィー先生とニークが治療にあたっている。

 やっと、3層や2層も魔物を一掃し落ち着いたかの様にみえた。誰もがそう思っていた。なのに……


 ――グギャオォォーー!!

 ――ギャァオォォーー!!


「何だ!?」

「またなのれす!」

「なんれら!?」

「これは……ねえ、コハル先輩。これって召喚じゃあないわね?」

「違うなのれす。閉じ込めていたなのれす」


 コハルとシュシュは何か感じるらしい。聖獣2頭には分かるのだろう。


「コハル、閉じ込めるとは何だ?」

「大きな魔石なのれす」

「魔石に魔物を閉じ込めていたと言うのか!?」

「しょんな事れきんのか!?」

「していたなのれす。それしか、ないなのれす。奴に魔物を召喚する能力はないなのれす」

「そうね、魔石の気配がびんびんするわ」

「閉じ込めていたとしよう。なら、それをどうやって出すんだ?」

「長老、魔物の入った魔石をそこら辺に転がしておけばいいのよ。そしたら誰かが割るわ」

「それだけか!?」

「多分ね。ヒューマンや馬車が、知らずに踏んづけたり蹴ったり。で、割れたら魔物が出てくるのよ」

「じゃあ、しゅしゅ。魔石が残ってたりゃまた魔物が出てくりゅのか?」

「そうなるわね」


 ――グギャオォォーー!!

 ――ギャァオォォーー!!


 また、3層でも雄たけびが上がった。


「リレイ様!」

「おう! とにかく討伐だ!」


 3層では、リレイ達がまた出現した魔物を剣の一振りで討伐して行く。

 エルフは弓が得意だ。だが、それだけではない。リレイやノルテ、シアル達最強の5人は剣の達人だ。其々が従者と連携をとり、魔物が現れたら即座に倒していく。ヒューマンが逃げ惑うしかない中を、エルフの戦士達は魔物に真っ向から立ち向かって行く。


「何てことだ!」

「長老!!」


 リヒトが突然現れた。瞬間移動してきたらしい。


「どうなってんだ!? また魔物が出てきたぞ!」

「リヒト、魔石だ。魔石に魔物を閉じ込めてそこら辺に撒き散らしてあるんだ」

「はあ!? そんなの聞いた事ねーぞ!」

「ワシもこんな事は初めてだ。魔石を探すんだ。割れたらまた魔物が出てくるぞ」

「その魔石を見つけたらどうしたらいいんだよ」

「浄化するなのれす!」

「分かった! とにかく動くわ」


 また、リヒトが消えた。長老はパーピを飛ばす。3層で討伐しているリレイ、ノルテ、シアルへ魔石の事を知らせる為だ。

 また、近くで雄たけびがあがる。3層からも聞こえてくる。

 これは、どれだけ続くんだ? どれだけの数の魔石をバラ撒いたんだ? 切りが無い。

 誰かが、魔物と戦っている音が聞こえてくる。すると、直ぐに魔物の断末魔が聞こえてくる。と、また別の場所で魔物の雄叫びがあがる。

 いくら直ぐに討伐できると言っても、こんな状態が続くと不利だ。いくら、身体能力が高いと言っても疲れは出てくる。


「じーちゃん、浄化しゅればいいんらろ?」

「ハル、まさかここから2層全部を浄化するつもりか?」

「らってしょれが1番はえーじょ」

「それは無理だ。魔力切れで倒れてしまうぞ」

「しょう?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、こはりゅ。魔石の場所は分かりゅか?」

「分かるなのれす」

「あたしも分かるわよ」

「じーちゃん、見ちゅけて浄化しゅりゅじょ」

「おう、それならなんとかなるな」


 ハルと長老が動き出した。コハルとシュシュに先導され、魔石を集めて回る。その途中でも、負傷者がいれば回復させる。リヒト達は出現した魔物を討伐する。それを繰り返していた。拳大の魔石。そこに魔物が閉じ込められていた。そんな事が出来るのか? いや、実際に魔物が出現している。

 3層でも同じ事をしていた。2チームが出現した魔物を討伐する。そして、1チームが魔石を探して回収する。


「シアル様! 魔石です! 浄化を!」

「おう!」

「さっさと魔石を探し出すんだ!」

「ノルテ! 魔物が出たぞ!」

「おう!」


 そうして奔走しているうちに、段々と魔物が出現しなくなってきた。

 簡単にしている様だが、エルフだからこそ出来た事だ。普通に、3層を1周しようとしたら丸1日は掛かる。2層だってそうだ。おまけに入り組んでいたり、建物が邪魔だったり。それでもこんなに早く回収できたのは、全員が瞬間移動を使えたからだ。

 見ているヒューマン達には、何が何だか理解できないだろう。エルフが、シュンッと現れたかと思えば次の瞬間には消えるのだ。

 そんな事を繰り返しながら、ようやく落ち着いてきた。


「じーちゃん、こりぇ誰がやったんらろ」

「さあ、ワシにも分からん」

「こはりゅ、何か分かりゃん?」

「いるなのれす」

「そうね、あたしにも分かるわ」

「コハル、シュシュ、奴か?」

「ええ、そうよ。長老」

「まじか……」

「どこにいるか分かるか?」

「分かるわよ」

「こっちなのれす。待っているなのれす」

「何? 待っているだと?」

「エルフを待っているなのれす!」


 その時、リヒトとルシカが走って来た。


「長老、魔物は全部掃討したぞ」

「そうか、怪我はないか?」

「ありませんよ。大森林の魔物の方が手強いですよ」

「しかし、驚いた。一体何なんだ?」

「リヒト、黒マントの奴がワシ等を待っているそうだ」

「て、事はこの魔物騒動もそいつか!?」

「ああ。そうらしい」

「とんでもない事ですね」

「やり過ぎだ。許せねーな」

「ああ、行くぞ」

「いくじょー!!」


 ハルがシュシュの背中の上で、片手を挙げる。待っている……今迄、姿を現さなかった黒マントの男がエルフを待っているらしい。


「ハル、ヤル気だな」

「りひと、当たり前ら! こんな酷いこちょしやがって!」

「ああ、同感だ」

「じゃあ、ワシ等をお待ちだそうだ。出向いてやるか」

「おう、長老」

「いくじょ!」


 コハルとシュシュに誘導されて、長老達は2層を移動する。どんどん中央へと進んで行く。アンスティノスの1層は城だ。もう直ぐそこは、城壁だ。


「おい、もう城だぞ」

「あそこね……」

「いるなのれす」


 コハルとシュシュが見ている先に、黒マントの男が立っていた。そこは、城門のすぐそばだ。

 3層と2層の魔物騒ぎの影響だろう。城へと入る門は閉ざされている。その直ぐそばに男は立っていた。

 何をするでも無く。手にも何も持っていない。只、立っていた。


「クソッ、あんだけ見張ってたのにどうやって此処まで入ったんだ!?」


 長老達がゆっくりと近づいて行く。目線は外さない。シュシュに乗っているハルまで戦闘モードだ。

 長老達が予想した様に、ハイヒューマンならヒューマン族に恨みがあるのだろう。それにしても、このやり方は場所も相手も選んでいない。無差別に、ヒューマン族なら誰彼構わずだ。

 ハルだけでない、皆怒っているんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る