第258話 魔物出現 1
アンスティノス大公国、3層目。
そこは、それまでの層とは違い整然と区画整備され、ゆったりと敷地をとった4階建や5階建の建物が並ぶ。
すべての道路が石畳で綺麗に舗装され、脇には街路樹も少ないが等間隔で植えてある。教育施設や研究施設が並ぶ一画。公的役所もある。
少し外れると、大店の立派な商家がならぶ清潔感のある街並みだ。役所があり、商店もある、学生も住んでいる街だけあって、人通りが多く賑やかだ。
その3層で、それは突然雄叫びを上げた。
――グギャオォォーー!!
――ギャァオォォーー!!
一体何故ここに出現したのか。いる筈のない大型の魔物が何頭も、突然街の四方に現れ暴れ出した。
――キャー!
――助けてー!
逃げ惑う民達。悲鳴を上げる事も出来ず、何が起こっているのか理解出来ずに動けないでいる学生達もいる。
貴族の立派な馬車が、まるでおもちゃの様に壊されていく。
そこは一瞬のうちに惨状と化していた。
アンスティノス大公国、2層の貴族街。街並みはどこよりも豪華で、どの家も1軒の敷地が広い。邸の前には見事な庭園風の庭があり、門扉も見上げる程高く、門壁も大理石の様な白い石材で作られた立派な門が並ぶ。
優雅に散歩でもしているのだろうか。着飾った貴族達が漫ろ歩いている。貴族達が歩いている道も他の層とは違う。馬車が余裕ですれ違いができる程の広い道幅に白い石畳、歩道との境には木や花が植えてありちょっとした花壇の様になっている。その街でも、場に不似合いな雄叫びが上がった。
――グギャオォォーー!!
――ギャアオォォーー!!
華やかで立派な街並みを容赦なく蹂躙して行く。我が物顔で街中を歩く大型の魔物。ヒューマン達は為す術もなく逃げ惑うしかない。
――キャアーー!!
――助けてくれーー!!
3層に入る門と墓場で見張りをしていたエルフの戦士達が弾かれた様に動き出した。
「何なんだ!?」
「一体どうやって!?」
「俺達は3層を抑える!」
「了解!」
リレイ、ノルテ、シアルが3層を。ソニル、リヒトが2層へと向かう。周りのヒューマン達には見えていない。ヒューマン達に見える筈がない。何故なら、其々がエルフ族の中でも最強の戦士達だ。その戦士達が瞬間移動で移動していたからだ。
「ん? なんら?」
「なんか凄い音したで?」
「ヤバイなのれす! 駄目なのれす!」
シュンッと長老が転移で戻ってきた。肩にシュシュが乗っている。ハル達が昼食を食べ、昼寝から起き、ルシカのおやつを食べようかとしていた時だ。
「何だ!? 何が起こっている!?」
「長老! 魔物が現れたなのれす!」
「なんだと!? コハル、場所は分かるか!?」
「3層と2層なのれす!」
「じーちゃん!」
「ハル、行くか!?」
「当たり前ら!」
長老がリヒトへとパーピを飛ばす。
「アヴィー、ニーク、出来る限りの薬湯を用意しておいてくれ」
「長老、分かったわ」
「ミーレ、アヴィーの手伝いを頼む。カエデもだ」
「長老、自分は行くで。ハルちゃんが行くなら自分も行く!」
「カエデ、危険だ!」
「ハルちゃんかって危険やんか!」
「仕方ない、無理すんじゃねーぞ。イオス、カエデを頼む」
「了解ッス。カエデ、俺のそばを離れんなよ」
「分かった!」
長老とハル達が先ずは3層へと向かう。
ニークの店を出ると、4層の民達まで騒然としていた。空を見上げると中心部の方から煙が立ち上っている。
「カエデ、イオスに捕まれ」
「はいにゃ!」
カエデがイオスにガシッと抱きつく。ハル達は長老の転移で3層への門までやって来た。
「じーちゃん、どうなってんら?」
「ワシにもまったく分からん」
その時、長老の肩にパーピが止まった。
「リヒト達は2層にいるそうだ」
「じゃあ2層でも魔物が出てるって事ッスか!?」
「普通じゃないなのれす。誰かが持ち込んだなのれす!」
「長老、あたし元の大きさに戻るわよ!」
「ああ、シュシュ」
シュシュが、グググッと大きくなり元の大きさに戻った。精悍な白虎の姿だ。
「ハルちゃん、乗って!」
「しゅしゅ、ありがちょ!」
「とにかく3層に入るぞ」
3層から逃れようとする人達で、ごった返している門を潜るとそこは別世界だった。今朝歩いた3層の面影がなく、惨状を呈していた。
彼方此方から煙が上がり、建物が壊され人々が逃げ惑っている。魔物が通った後なのだろう、木が薙ぎ倒されている。
「ひでー……」
「何て事だ……」
「長老!!」
どこからか、リレイが駆けつけて来た。
「リレイ、どうなってんだ!?」
「俺達にも分からないんだ! 突然どこからか大型の魔物が現れたんだ!」
「そんな事、ある筈がない!」
「でも、長老。実際に魔物がいる!」
「ああ、どんな感じだ?」
「3層は俺と、ノルテ、シアルがいる。もう魔物も大半片付けた」
「そうか」
「大型ばかりだったからな。魔物を倒す事自体は簡単だ。だが、ヒューマンに被害が出ている。それに範囲が広いんだ」
「ああ。アヴィーとニークが薬湯を用意している。3層に呼んでも危険はないか?」
「3層はもう殆ど討伐したからな。大丈夫だろう」
「そうか。なら、負傷者を1箇所に集めてくれ。アヴィーを呼んでおく。ワシ達は2層へ行くぞ」
「分かった!」
また、リレイが何処かへと走り去って行った。
「2層にはリヒトとソニルがいるだろう。あの2人がいるなら大丈夫だ」
「じゃあじーちゃん、ひーりゅしながりゃ移動しよう」
「おう、そうだな」
「カエデ、しっかり付いて来いよ」
「イオス兄さん、平気や!」
一行は瓦礫が落ちている街中を急ぐ。怪我人を見つけては、ヒールを掛ける。
ほんの少し前まで、何もない平和な街だった筈だ。それが、一体どうして?
長老がパーピをリヒトへと飛ばす。と、直ぐに返事が返ってきた。
「2層の貴族街もやられたそうだ。2層へと急ぐぞ」
「了解! カエデ、瞬間移動するぞ。俺にしがみ付け!」
「はいにゃ!」
イオスがカエデを抱える。カエデも振り落とされてなるものかとイオスにしがみ付く。そして、皆の姿が風の様に消えた。瞬間移動したんだ。
「長老!!」
「おう、リヒト! どうだ!?」
「魔物はいい。俺達で充分だ。だが、被害者が多い! ここら辺のヒューマンは魔物に慣れてないんだ」
「ワシ達が救助していこう。リヒト達はとにかく早く魔物を一掃してくれ!」
「了解!!」
リヒトもシュンッと消えて移動して行く。
魔物で蹂躙され悲惨な状況になっていた3層と2層だが、早々にリヒト達が魔物を討伐しだした為に魔物の姿は見なくなっている。とんでもない能力だ。突然現れた何頭もの大型の魔物を僅かな時間で掃討していた。普段から魔物を討伐しているからこそだ。何より、瞬時に状況を判断し動いたエルフ族最強と言われる5戦士の実力だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます