第255話 またまた毒クラゲ
「もうさぁ、この層にはいないよねぇ」
昼食を食べながらソニルが言う。昼食を食べてはいるが、ニークの家ではない。ソニルが監視を任された門の付近だ。もちろん、気配は消して隠れている。
「ソニル様、早く食べてしまって下さい」
「コニーは口煩いんだから。分かってるよ」
「今3層にいなくても、これから入ってくるかも知れないじゃないですか」
「そうなんだけどさぁ」
「ソニル様はハルくんと遊びたいんでしょう?」
「そんな事ないよ!」
「はいはい」
なかなか黒マントの男の動きを捉える事ができない。アンデッドも出現しなくなった。今はどこに潜伏しているのか。
その頃、ハル達は……
「んまい! やっぱりゅしかの飯は1番ら!」
「アハハハ。ハル、ありがとう。ほっぺを拭きましょうね」
ニークの家で、しっかりルシカの作った昼食を食べていた。交代でイオスがリヒトに付いている。
「アヴィーとニークはどうした?」
「店に行きましたよ。アヴィー先生は久しぶりなので、張り切ってましたね」
「ああ、アヴィーならそうなるな」
「はい。フフフ」
「ん? ちょっと待て」
長老の肩にパーピが止まった。パーピはエルフだけが持つ連絡手段だ。見た目はアゲハ蝶の様だが、精霊の1種らしい。と、ハルが最近解明した。
「こりゃいかん。ハル、早く食べてしまいなさい」
「じーちゃん、ろしたんら?」
ハルちゃん、小さな手にナイフとフォークを持ってほっぺが膨らんでいる。まだお口がモグモグとしている。
「毒クラゲだ」
「え、またですか?」
「ああ。街のど真ん中にある水場だそうだ。アヴィーが向かっている」
「また、この街ですか?」
「立地だろうよ。両隣は獣人が領主の街だ。しかも、ヒューマン族が領主の街で1番3層に入る門に近い」
「なるほど。やはり、ヒューマン族を狙っていますね」
「ああ、明らかだろう」
長老にハル、ミーレ、カエデとシュシュが、毒クラゲ騒動の水場に向かう。
ルシカはリヒトが見張っている3層の門へと戻る。もし、これから3層に入るとしたら、リヒトが見張っている門から入る可能性が高い。
「なんなんら。こしょこしょと卑怯らな!」
「ハル、そうだな。しかし、よくあの毒クラゲを持ち歩けるもんだ」
「かーしゃまが、厚いガラス容器なりゃ毒は平気らって言ってたじょ」
「そうか。しかし、毒クラゲ1匹や2匹ではあるまい」
「しょうらな」
「長老! 俺がハルを抱っこします」
もう、イオスがルシカと交代して戻ってきた。早いな。
「イオス、頼むぞ。ハルは急に飛び出すんじゃねーぞ」
「しょんな事しねー」
どのお口が言っているんだ? 今迄、何度も長老の腕から飛び出していただろう。
「長老! ハルちゃん!」
「ばーちゃん!」
「アヴィー、人を遠ざけたか?」
「ええ。誰も触っていないわ。ただ、知らずに水を汲んだ人達が毒に侵されてしまっているのよ」
「アヴィーはそっちを回復させてくれ」
「分かったわ」
「ばーちゃん、ポーション持ってりゅか!?」
「ハルちゃん、大丈夫。沢山マジックバッグに入れてるわ」
さすが、アヴィー先生だ。初動で被害が大きくなるのを防いでいる。偶々だろうが、アヴィー先生が街にいて良かった。
「ハル、とにかくクラゲを出すぞ」
「おう、じーちゃん! こはりゅ、待機ら」
「分かったなのれす!」
「ハル、まだ飛び出したら駄目だぞ」
「いおしゅ、分かってりゅ」
ここは、街の中心だ。井戸も大きく側には水を汲んで作業できる四阿の様な屋根がある場所も併設されている。
長老は、その大きな井戸へと風魔法を放つ。すると、バラバラと沢山の毒クラゲが巻き上げられてきた。
「うわ、めちゃ多いな!」
「こんなにどうやって、いつの間に入れたんだ?」
「じーちゃん、切りゅじょ」
「ああ、切りまくれ」
「いおしゅ、こはりゅ」
「了解」
「切るなのれす」
「ウインドカッター」
「ういんろかったー」
長老が井戸から出した毒クラゲを、ハルとイオスで切りまくる。コハルはハルの上着の中に隠れながら毒クラゲを切っている。カエデとミーレが、驚き響めく街の人達を遠ざけている。
「燃やすぞ」
長老が一気にカットされた毒クラゲを燃やしていく。
「よし、ハル。浄化と解毒だ」
「ん、ぴゅりふぃけーしょん」
「ピュリフィケーション」
「あんちどーて」
「アンチドーテ」
井戸だけでなく、併設された四阿の様な建屋も含めて辺り一面に光りのヴェールが下りて消えて行く。
――おおー!
――スゲー!
――何だ? エルフ族か!?
「体調の悪い人はいませんか?」
「井戸の水を触った人、いてへんか?」
ミーレとカエデが呼び掛ける。
――エルフの姉さん! ウチのが動けねーんだ!
――こっちも見てくれ!
「出来るだけまとまって下さい!」
「他の人達は近寄ったらあかんで! 毒やで!」
その場が、騒然とし人波が分かれだした。
「じーちゃん、こっちはやっちょく」
「おう、ハル。井戸の周りも大丈夫か見ておいてくれ」
「分かっちゃ」
小さな水場ではない。井戸も大きく使用していた人も多い。毒に侵された水が飛び散っていないか、ハルが精霊眼で念入りに確認をする。
長老は回復だ。ミーレとカエデの呼び掛けで、毒に侵された人達が集まっている。
「直ぐに楽になるからな」
長老が、解毒と浄化を施す。集まった人達を光が癒していく。
「念の為にポーションだ。直ぐに無理して動くんじゃないぞ。ポーションを飲んで今日1日は安静にしていなさい」
ミーレとカエデもポーションを配っていく。イオスに抱っこされハルがやってきた。
「じーちゃん、どうら?」
「ハル、もう終わったぞ。そっちは大丈夫か?」
「ん、じぇんぶ解毒と浄化れきてた」
「よし。被害が大きくならんで良かった」
「ばーちゃんのお陰らな」
「ああ。早く対処してくれていて良かった」
「もしかして、アヴィー先生の旦那かい?」
回復してもらっていたのだろうか、恰幅の良い女将さん風の女性が話しかけてきた。
「ああ、アヴィーを知っているのか?」
「知ってるなんてもんじゃないよ! 世話になってんだよ。前も教会を助けてもらったよ!」
「あれを知っているのか」
「アヴィー先生とエルフの兄さん達には助けてもらってばかりだよ! ありがとう!」
その女将さんの言葉がきっかけとなり、周りの人達が口々に言い出した。
――ありがとう!
――助かったぜ!
――本当に、ありがとう!
「可愛いちびっ子はアヴィー先生の孫かい?」
「曽孫ら」
「なんだって!? アヴィー先生は曽孫がいるのかい!?」
「アハハハ! エルフは長命種だからな」
「旦那もそんな歳には見えないよ」
確かに、長老もアヴィー先生だってまさか曽孫がいる様な歳には見えない。どう見ても、初老……いや、それよりも若く見えるかも知れない。まさか2000歳オーバーだとは、ヒューマンには想像もつかないだろう。
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