第253話 3層

 3層へ入り其々移動する。3箇所ある門には、リヒト、ソニル、ノルテが張り込む。2箇所ある墓地には、リレイとシアルだ。そして、長老に抱っこされハルが3層をうろつく。護衛にイオスとカエデだ。


「じーちゃん、おりぇありゅくじょ」

「いや、ハル。危険な事があるかも知れんだろ」

「長老、じゃあ俺が抱っこしましょうか?」

「いや、イオス。ワシが抱っこする」

「イオス兄さん、鈍いなぁ」

「なんだよ?」

「ほら、最近ハルちゃんはいつもシュシュに乗ってたやろ?」

「ああ、確かにな。セイレメールから帰ってきてからはよく乗ってたな」

「だからなぁ、長老は抱っこしたいねんて」

「えっ? そうか?」


 長老の可愛い曽孫だからな。仕方ない。

 長老とハル達は、3層をあても無くウロウロ。これまでの層と違って高い建物が多い。と、言っても、ハルの前世にある様な高層ビル等ではない。4階、5階建てで、規則的に四角い窓が並んでいる。入り口も大きくとってある。門で仕切られた建物もある。見るからに、人が住む用途ではなく、何かの施設であろう事が分かる。


「ほう、ここは役所だな。立派な建物だ」

「自分は3層に入ったの初めてや」

「カエデ、そうなのか? 5年も住んでいたんだろう?」

「うん。けど、奴隷はこの層に用ないしな。それに、奴隷は3層には自由に入られへんねん。て、言うか層を移動したりはせーへんな」

「そうか」

「自分はアンスティノスから出たりするから、その為にギルドタグを作ったけど、普通奴隷がタグを作ったりはせーへんねん。必要ないからな。だから、層を移動でけへん。門を通してもらわれへん」

「かえれはどこのギルドで作ったんら?」

「4層の商人ギルドやで」

「商人か?」

「うん。頭が商人ギルドに登録してたからな。その店の仕入れで外に出るから、て理由やな」


 なるほど。そうして作ったタグで国の外に出ていたんだな。奴隷を輸送する為に。


「ハルちゃんらと会った時もそうや。それまで賄いやら色々やらされとったけどな、あの時初めて国の外に出たんや」

「しょうらったんか」

「うん。もう死ぬんかと思った時は、自分はなんてついてないんや。て、思ったけど違うかったんやな。九死に一生を得るや」

「違うとは?」

「イオス兄さん、リヒト様とハルちゃんに見つけてもらえた。みんなと出会えたんや。ラッキーやったんや」

「しょっか」

「うん。めちゃラッキーや。奴隷紋も消してもらえたし、仲間にしてもらえた。両親にも会えた。みんなのお陰や。禍転じて福と為すやな」

「カエデは、役所に来た事がないのか?」

「長老、1回もないで」

「住民登録はしなかったのか?」

「奴隷がそんなんする訳ないやん。奴隷は人ちゃうねんで。道具や」

「カエデ……」

「この国はな、そうなってんねん。奴隷を買うのはヒューマンだけやけどな」


 カエデの言う通りだ。唯一、奴隷制度があるこの国でも、奴隷を買うのはヒューマンだけだ。今の大公だけでなく、獣人は奴隷制度を廃止したいと思っている。何故なら、身体能力の高い獣人は奴隷商人に狙われているからだ。

 獣人の奴隷は、ヒューマンの奴隷よりずっと数が多い。まだ幼い獣人の子供が、奴隷にされていたりする。それを、獣人の大公や貴族達は見ていられないのだ。

 だが、反対するのがヒューマン族だ。何度も奴隷制度廃止案を出しているが、ヒューマン族の大臣や議員達の反対にあって廃止できないでいる。

 自分達と同族の幼い子供が奴隷にされているのだ。擬かしい事だろう。


「けど、自分みたいに奴隷商人に攫われて奴隷になる子もいるけど、親に売られて奴隷になる子もいるんや。食べていかれへんからってな、自分の子供を売るんや」

「この国は孤児や路上生活者がいるからな」

「うん。それが普通やと思っててん。けど、違うんやな。エルヒューレやと考えられへん事や」

「そうだな。だが、カエデ。エルヒューレとアンスティノスでは人口が違う。ヒューマン族の数が違うだろう」

「そうか、そうやな」

「そうだ。エルフ族はヒューマン族の半分もいないだろう。国も小さい」

「人口が多くなると、そんだけ目が届けへん、て事か?」

「それもあるが……それだけ色んな人がいるんだ。エルフは昔から種族としての結束が固い。ドラゴシオンはまた違うぞ。あそこは力が1番だ。ハハハ」

「すごいなぁ。色んな国があるんや。まさか、ドラゴンに乗ったり、海の中に行ったりするなんて、夢にも思わんかったわ」

「アハハハ、そりゃそうだ。俺だって思わなかったぞ」

「イオス兄さん、そうやんな」

「しょっか? おりぇは、いちゅか行こうと思ってたじょ」

「ハル、そうなのか?」

「ん、おっきくなったりゃ行こうと思ってた」

「そりゃ、アヴィーの血筋だな」

「アハハハ! 長老、違いない」

「じーちゃん、ここは学校か?」

「みたいだな。学園か?」


 ちょうど、ハル達が歩いているすぐ横の建物がアンスティノスの学園らしい。同じ制服を着た同じ様な年代の男女が敷地の中を移動している。


「ハルも通っていたのか?」

「ん、しんろかった」

「そうか。身体が合わなかったんだったな」

「しょうら。もう、何もしなくてもしんろかった。息しゅりゅのが、ちゅりゃい」

「今のハルちゃんからは想像でけへんな」

「らろ? 今は元気ら。りゅしかの飯も超美味い」

「アハハハ。ハルはルシカの飯が好きだからなぁ」

「イオス兄さん、自分も好きやで。あ、でも、シペさんの料理も好きやわ」

「ん、美味い」

「な、ハルちゃん、美味しいやんな。て、言うか、エルヒューレの料理はなんでも美味しいわ」

「そうなのか?」

「うん。ハズレがないやん」

「アハハハ、何だそりゃ」

「だって、この国やと当たり外れがあるんやで」

「そうなのか?」

「ここは何だ?」

「長老、ここは研究施設とちゃうか? 聞いた事あるわ」


 今、長老やハル達が歩いている区画には教育施設や研究施設が、集まっている。一応、アンスティノスにも研究施設がある。薬師等の研究施設が並んでいる。

 また歩いて行くと、今度は賑やかになってきた。大通りには馬車が行き交っている。


「ここら辺は大店が集まっているみたいやな」

「あれか、貴族御用達か」

「そうやな。自分は見た事もなかったわ」

「なんかどっかりゃか甘い匂いがしゅりゅじょ」

「ハル、そんなのはよく気がつくんだな」

「けど、絶対にルシカ兄さんが作るおやつの方が美味しいで」

「しょうらな」


 ハルちゃん、こんな時でも食い気だね。

コハルはおとなしいが、ちゃんと魔石の気配を探っているのか?

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