第252話 朝食で作戦会議

「ね、今日はさぁ、先回りして3層の墓地に行かない?」


 次の日、朝食を食べながらソニルが提案してきた。ハルとコハル、シュシュは黙々と食べている。ハルが目をキョロキョロさせて見ている。食べながら話を聞いているのだろう。


「先回りか?」

「だが、ソニル。3層の墓地に、もう魔石があるか分からないぞ」

「あの……」

「ニーク、どうした?」

「はい、長老。あの、3層には墓地が2箇所しかないんです」

「そうなのか?」

「はい。ね、アヴィー先生」

「そうね。3層は公的な役所や教育施設、貴族御用達の大店の商会が多いの。だから、住民が少ないから墓地も少ないのね。私とニークで案内するわ。2層は貴族街よ。貴族のお邸しかないの」

「じゃあ、アヴィー先生。2層に墓地はないのか?」

「あるわよ。貴族専用の広い墓地がね。1箇所だけあるわ」

「意味が分からん」

「シアル、何がだ?」

「だって長老。墓地に貴族や平民もないだろう?」

「選民意識だろうな」

「自分達は選ばれた特別な存在だと?」

「馬鹿らしいよね。何も出来ないくせにさぁ」

「ソニル、そう言うでない」

「エルフの方々にはそういうのは無いのですか?」

「確かに、エルフにもハイエルフと言う皇族はいる。ダークエルフやエルフとは差別化に見えるかも知れん。しかし、エルフはそうじゃないんだ」

「そうね。エルフはね、出来る人が出来る事をするのよ。差別化している訳じゃないのよ」

「そうですね。我々、ダークエルフはハイエルフに比べると細かい作業や裏方が得意ですし、目立つ事も苦手です。ですので、自然と皇族の補佐をする立場にいる感じですね」

「私達エルフは庶民派ね。大雑把だから縛られたりするのが苦手なのよ。お城勤めとかよりも普通に働く方が向いているのね」

「ルシカとミーレが言ったみたいに自然とこうなったのよ。態々、皇族専用の墓地なんてないわ。皆同じ種族ですもの」

「だが、まあ。皇帝が誰にでも出来る訳ではないがな」

「長老、そりゃあそうです」

「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「ハムエッグおかわり」

「はいはい」

「ハルちゃんは、可愛いなぁ」

「ああ、場が和む」


 エルフはちびっ子を大事にする。ハルが何をしても可愛いらしい。


「しかし、魔石は発見できるが、なかなかハイヒューマンを捕捉できないなぁ」

「ね、シアル。悔しいよね。何処に隠れているんだろ?」

「3層にある墓地は2箇所だけなんだな」

「ノルテ、考えがあるのか?」

「いや、リヒト。ない」

「なんだよ。期待すんじゃねーか」

「そう言うリヒトはあるのか?」

「リレイ、ないけどさ」

「何だよ、そりゃ。長老、どうする?」


 結局、長老に聞いている。次は3層だが、そもそも3層にはアンデッドが出現しているのだろうか?


「3層にある墓地で張るべきか?」

「そうだね」

「そもそも、もう3層に入っていると思うか?」

「入っているだろうよ。4層の墓地に魔石を埋めて直ぐに移動しているだろう。エルフが動いている事に気付いているんだ。さっさと次に移動するだろう。ワシ等は甘かった様だ」


 長老が悔し気に言った。確かに、後手に回っている。


「りゅしか、パンケーキちょっとらけおかわり」

「はいはい」


 ハルがモグモグしながら、おかわりをしている。よく食べるね。この世界に来た時は、粥だったのに。


「ハル、朝から食べ過ぎじゃない?」

「みーりぇ、らって美味いんら」

「お腹がぽっこりしてるわよ」

「らからぁ、こりぇは幼児体型なんらって」

「そうかしら?」

「しょうら。昼迄にはぺちゃんこになってりゅ」

「そう?」

「しょうら」


 そんな話をしながら、ハルはおかわりのパンケーキをあーんと食べる。


「いいなぁ。ハルちゃんを見てるだけで幸せな気分になるよ」

「ん? しょうか?」

「そうだよ。可愛いからねー」

「しょにりゅしゃんも、超可愛いじょ」

「えー! ありがとぉー!」


 ハイヒューマンの話は何処にいった?


「3層はまた門が1つ減って3箇所だ。だから、その門と2箇所の墓地を見張るぞ」

「じーちゃん、おりぇも出るじょ」

「ハル、留守番してなさい。長丁場になるかも知れんからな」

「えー、またりゅしゅばんかぁ? ちゅまんねー」

「いつアンデッドが出るかも分からんからな」

「しょうか」

「そうしなさい、ハルちゃん」

「んー……やっぱじーちゃん、おりぇこはりゅと、うりょうりょしゅる」

「その方が良いか?」

「こはりゅなりゃ、先に気配れ分かりゅらろ?」


 当のコハルは、まだパンケーキと格闘中だ。


「コハル、ここから魔石の気配は探れないか?」

「ここからだとまだ遠いなのれす」

「3層に入ったら少しは分かるか?」

「多分分かるなのれす。でも、自信はないなのれす」

「じゃあ、コハル先輩。毒の匂いはどうかしら?」

「毒なら分かるなのれす。何度も毒クラゲに触れているから分かるなのれす」


 なんだと……?


「なるほど。シュシュ、お前賢いな」

「当たり前じゃない。なんたってあたしはぁ……」

「じゃあ、コハル。今、取り敢えず3層に毒の匂いがあるか探してくれないか?」

「もう、いいわよ。リヒトはいつも私の話を遮るんだから」

「わりぃな」

「いいわよ、許してあげるわよ」


 シュシュとリヒトが話している間に、コハルは気配を探している。


「パンケーキの匂いが邪魔なのれす」

「あー、しゃーねー」


 ハルちゃん、まだ食べていたんだね。ほっぺを膨らませてモグモグしている。


「ハル、食後の運動にコハルを連れて歩くか?」

「じーちゃん、しょーしゅりゅ!」

「長老、俺ハルに付きますよ」

「自分もや」

「長老、国の機関が多いので散歩とか目立ちますよ」

「そうか? ちびっ子がいればそう怪しまれないだろうよ?」

「じゃあ、俺達は手分けして入り口の門と墓地を見張るぞ」

「ん、れっちゅごーら」


 ハルちゃん、昨夜は参加出来なかったから今日はヤル気だ。

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